「ええっと管理人になりかわりましてコメントさせて頂きますニナでーす」
「同じくアップルです」
「ついに禁忌に手を出したって感じですよねアップルさん」
「そうですね。おそらく世界で唯一ではないかと思いますよ、ツァイキニ」
「だけどこれだけじゃないんですよね〜」
「どういう意味ですか?」
「ふふっ。実はねぇ、これは冗談でありお遊びであり、そして挑戦でもあるんですよ。とにかくシリーズを通して考えられる限りのカップリングに挑戦するんだそうです」
「では、騎士をやめてツァイキニに転んだというわけではないってことね」
「そう! 今回はキニスンくんとツァイさんが犠牲者ってわけです」
「ふふ。それじゃあ兄さんとかも有り得るってことよね」
「うん…フリックさんもなのよ〜! いや〜ん!」
「シリーズ全部だから1から4まで外伝も合わせると、すごいんじゃない?」
「とにかく、次に誰が犠牲者になるかはお楽しみ。皆さんの感想を待っています!」





















山奥の秘め事


 彼の人には離れて暮らす妻子がいる。知っているのだ、そんな事は。いつだったか、そんな事を聞いた。けれどもこの想いにそんな事で歯止めが効くはずがない。
 友たる白い獣の責めるような眼差しを背に、この夜もキニスンは山の頂上付近にひっそりとある小さな家屋へと足を運んでいた。
 星明りしか先行きを照らすよすがのない山道で、その家の窓から零れる僅かな灯りがまるで希望の灯火のように見える。
 それは決して希望などでありはしないというのに。

 からりと引き戸を開くと鋼鉄の焼ける独特の匂いがする。キニスンの慣れ親しむ森の、木々や土の匂いとは決して相容れない固く無粋なそれを嗅ぐと、いつも無意識に身体が震える。
 恐ろしいとさえ思えるその匂いに包まれたこの家を、だがどうしてか求めてしまうのか。それはひとえに、その奥にその人がいるからだった。
 だが。

「また来たんですか」

 戸を開けるなり間髪入れずに家の奥から男の声が飛ぶ。こんな人里離れた山奥にそう訪れる客などいない。おそらく近付く足音から既にキニスンの来訪を察していたのだろう。そしてその素っ気無い言葉に、キニスンは苦笑を浮かべてこくりと頷いた。
 言葉を発するのは、苦手だ。しかし男は糸のように細い感情の見えぬ目に、それでも困ったような表情を浮かべてキニスンを見つめ、溜息を落とした。

「入りなさい。お茶でも淹れましょう。でも、それを飲んだら帰るんですよ」
「……ごめんなさい」

 漸く発した声に男―――ツァイは仕方がないというように、年上らしい寛容さで微笑を浮かべてくれた。そして背を向け、奥の水場へと向かう。
 その背を見つめ、キニスンの足は次の瞬間に軽やかに地面を蹴っていた。
 広い背中に一息に抱きつくと、やはり鋼鉄の匂いがする。槍専門の鍛冶師として名の知れた男は、こうして世捨て人のように隠れ住んでいてさえ、その独特の体臭までは捨てきれないらしい。その不器用さが、たまらなく慕わしいと思えた。
 だがその背に抱きついたキニスンの腕を、ツァイは身を硬くして掴む。

「離れなさい」
「…嫌です」

 声が震えるのはいつもの事だった。決して離れまいと、ツァイの身体に巻きつけた腕までも小刻みに震えている。それはきっと男自身にありありと伝わっているのだろう。
 見事な槍の使い手でもあるツァイの身体は逞しい。その気になれば枯れ木のようなキニスンなどあっさりと振り解かれるはずだった。だが、優しいこの男はそんな乱暴な真似はしない。
 その優しさを嬉しく思う反面、そこにつけこむ自分の浅ましさが嫌でたまらない。こうして毎回少しずつ彼からの信頼を失くしていくのだと思うと、辛かった。
 だけど。

「貴方が……好きです」

 何度も告げた言葉。けれど返事はいつも溜息。

「娘が、そう言ってくれたら嬉しいんですがねぇ」

 嫌われていますからねぇ、とツァイは苦笑を滲ませる。暗に、親子ほど年の離れたキニスンの想いは受け入れられないのだと、そう言われているのだ。
 だけど。

「好きです」

 ぎゅうっと男の腹に回った自分の指先が、衣服の布地を強く掴む。離れまいと、どうしても離れたくないと全身で訴えるかのように。
 そしてキニスンはそのまま彼の衣服の合わせに手を差し入れた。

「やめなさい」
「……」

 震える指先で合わせを掻き分け、回り込むと彼の下腹に蹲る。それでも乱暴に押し退けず、根気良くツァイはやめなさいと言葉で何度も訴える。無駄なのに。いっそ全力で抗ってくれたら諦めもつくのにと思うのに。

「キニスン…!」

 押し殺したような声でこの夜はじめてツァイがキニスンの名を呼んだその時、少年は躊躇いも無く男の雄の象徴をその口に含んだ。

「やめるんだ……キニスン…!」

 嫌だと微かに首を振り、更に喉奥深くに飲み込んでキニスンは男を悦ばせるために必死で息を飲み込んだ。そうしながら自らも衣服を脱ぎ落とし、ツァイの手を己の下肢へと導いた。

「…抱いて下さい、今夜も……。貴方が、この山にいる間だけでも僕は、それで良いんです」
「……君は……」

 苦渋に満ちたツァイの声に耳を塞ぎ、キニスンは再び男の欲望を飲み込む。そして生理的な反応によって硬く昂ぶるそれを更に愛しむように舐めしゃぶった。
 そして僅かの沈黙の後。諦めたような吐息と共に、そっとキニスンの奥地にツァイの固い指先が触れたのだった。



 来たときと同じように、引き戸はからりと乾いた音を立てる。
 夜も空けきらぬ時刻にキニスンはこの家を出る。朝までいた事は一度も無かった。居られるわけがないのだから、当然だ。限りない後ろめたさに苛まれる男を、朝まで縛る権利など自分にはないのだから。
 そして冷やりとした未明の空気に、キニスンはすうっと息を吸い込んで、夜空を見上げた。きらきらと瞬く星々が徐々に滲んでぼやけてくる。
 気がつくと頬を涙が流れてゆく。
 いつになればこの虚無感が消えるのだろう。自問しても答えなど分かりきっている。この想いを諦めれば良いのだ。そうすればこの冷えた夜空も、寒々しい涙も縁の無いものになる。
 諦めれば、ただそれだけで。
 そしてふっと笑ってキニスンは目を伏せた。ところが、それが途中でハッと見開かれる。

「…シロ……」

 夜の闇に銀色に浮かび上がる友の美しい毛並み。
 そして静かにキニスンを見つめる知性的な瞳には、悲しむような労わるような感情が宿っていた。

「迎えに来てくれたんだね」

 囁くと真っ白な狼はゆっくりと歩み寄りキニスンの腰にするりと己の身体を触れさせるように回り込んだ。まるで、「さあ帰ろう」と促すような動きに、うんと頷く。
 そして微笑む。

「僕って、馬鹿だよね……」

 友は呟きには答えず、その柔らかな毛並みでキニスンの身体を慰撫するように撫でただけだった。



END


2005/04/06