黒
いランドセル ㊵
35
人程度の集まりに招かれており、わたしは「安全な作業」についての講演をしている。
退屈な講話だったようで、わたしもその内容は頭に残ってはいない。
工場の一角にある講堂の後ろのドアから出て歩き出したところ
社長さんと思われる方が感謝の言葉を述べられ、同時にわたしに何か手渡してくる。
謝礼だなと思って断ろうとするが、なにやら手紙のようなものが上にあって、
受け取らないのは失礼にあたるかもしれないと思いなおす。
手紙には「今日は…」というような言葉から始まる文と絵が墨書でしたためられていた。
「今」という文字だけが大きく書かれていることになんとなく意味があるのだろうと受け取った。
「このあと、日舞があるのですが、ご覧になりませんか」というお誘いも受けた。
そのとき、受け取った手紙と謝礼品の間から、五千円札がひらりとコンクリートの通路に落ちた。
真ん中が五千円札で、その両側に印刷されていない部分がある細長いものだった。
印刷されていれば、3枚分の五千円となるのかもしれないと思っている。
社長に気づかれないように拾うとしたら、女子の社員3人が講堂から走り出てきた。
日舞というのは男性社員をねぎらうための「ストリップ」なのだと直感し、お誘いは断った。
社長さんはほほえみ、わたしは見てみたいという気持ちもあることを隠してその場で別れた。
外に出ると隣の学校で運動会をしているらしく、赤、白、青の3チームが歓声をあげている。
チームごとにリーダーの先生の名前を叫んでいる。呼ばれたら駆け付けなければならない競技だ。
その中にわたしの名前がないことを確認して、体育館の後ろ側を歩いていたら
わたしは何かを背負っていることに気づき、それを背中からおろした。
黒いランドセルだった。
※わたしは何度か講演をしている。
少人数が対象で直接の指導もその場でするようなものだ。
※ランドセルは使ったことはない。白い布製のバックをもって通学していた。
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