業務外のホームページ等に関する規定

第一条 本規定は、従業員が業務以外でインターネット・ホームページおよびパソコン通信等(以下、ホームページ等という)に文書や画像、音声等のコンテンツ(以下、コンテンツという)を作成または送信する際に、従業員が順守すべき規準について定める。

第二条 従業員は、コンテンツを発信するに際して、ホームページ等が持つ広域即時伝達性、二次利用の容易性、匿名性、システム管理の困難性などの特徴を十分意識して、慎重に行動するものとする。

第三条 コンテンツ発信にあたって、従業員は次の各号を守らなければならない。

1.会社を誹謗中傷するなどして、会社の経営方針、編集方針を害さないこと
2.会社の業務や職務上知り得た事実、経営上の機密事項をもらさないこと
3.会社および第三者が保有する著作権、商標権などの知的財産権を侵害しないこと
4.他人を誹謗中傷したり、他人の私生活上の事実や写真、似顔絵を表示するなど、他人のプライバシーを侵害しないこと
5.物品やサービス等の販売、広告の募集、勧誘などによる営利行為を一切しないこと
6.青少年に有害なコンテンツ等を表示しないこと
7.会社の備品、会社から貸与されている機器等をホームページ等の作成、表示、運営等に使用しないこと
8.勤務時間中にホームページ等に関連した作業をしないこと
9.本条一号から六号に関連する内容を表示した他のホームページ等へのリンクをしないこと
10.本条各号の他、あらゆる法規にふれないこと

第四条 従業員は、ホームページ等において、当社社名(略称、商号等を含む)、所属部署、役職、入社後の経歴等を原則として表示してはならない。やむを得ず肩書等の使用を表現する場合は、出版や講演等と同様に、従業員は所属部長もしくは所属局長の承認を受けなければならない。

第五条 ホームページ等の運営やそのコンテンツに関し、従業員と第三者との間で生じた紛争は従業員が自らの責任で解決するものとする。

第六条 従業員が本規定に違反した時は、就業規則に定める規定を準用し、処分を行うことがある。またコンテンツの修正や削除を命じることがある。

 付則 この規定は一九九九年九月一日より実施する。


↓本物


なお、人事部長・佐々伸氏によれば、同規定は、99年春から法務室が各局の局次長、部長クラスから意見を聴取した上で策定された。本事件に関連する箇所は、以下の部分である。

第三条 コンテンツ発信にあたって、従業員は次の各号を守らなければならない。

1.会社を誹謗中傷するなどして、会社の経営方針、編集方針を害さないこと
2.会社の業務や職務上知り得た事実、経営上の機密事項をもらさないこと

第四条 従業員は、ホームページ等において、当社社名(略称、商標等を含む)、所属部署、役職、入社後の経歴等を原則として表示してはならない。やむをえず肩書等の使用を希望する場合は出版や講演等と同様に、従業員は所属部長もしくは所属局長の承認を受けなければならない。



【以下、人事部長・佐々氏をインタビューしたもの】
――少なくとも、日本の新聞社でホームページについての就業規則を定めたのは初めてだと思うが

 そうだ。他社でも検討はしているだろうが、規定にはなっていないはずだ

――第三条の二に『会社の業務や職務上知り得た事実、経営上の機密事項をもらさないこと』とある。これでは、記者は一切、社内や取材現場で感じた問題点について意見を書けないことになるが

 経理部員が経営情報を外部に漏らしてはいけない、といったことを定めたのが主旨だ。

――記者職に固有の問題があるはずだ。記者は経営方針や編集方針に対して異なる意見を持っていても、自らのページに主張を載せてはいけないのか。そこまで言論統制するのは新聞社として不健全だと思うが

 全くいけないというわけではないと思う

――それならば、但し書きを入れるべきだ。この文章だけでは、100%ダメだとしか解釈できない

 これから、ケースごとに対応していく過程で煮詰まっていくと思う。これは叩き台のようなものだ。一概に何なら良いとは言えない

――それでは、具体例を挙げよう。98年に、国税庁記者クラブの日経記者が納税者ランキング表を、発表予定日の前に週刊誌記者にわたしたために雑誌に掲載され、その記者は責任を取る形で依願退職に追い込まれた。これは、懲戒解雇だと脅されてやむなく依願退職を選んだと、(編集局総務の)丹羽氏から聞いている。私は同僚として、この処分は重すぎると思う。本来、官庁が出す情報は国民に平等に流されるべきもので、記者クラブが独占する合理的理由などないし、紙面で規制緩和を主張するくせに自らの既得権は手放さないのは倫理の退廃だ。それを、記者クラブという既得権を保持するという経営の論理で最も重い処分をした訳だから、週刊誌に批判されて当然だと思う。さて、以上のような主張を私はHPに載せても良いのだろうか。もちろん、自分が記者クラブに所属した経験もあるから、それを踏まえて書くことになるが

 それは全体のページの主旨や表現などにもよるから、一概に判断することはできない

――検閲するわけか。それでは、行政指導と同じように、恣意的になる。結局、経営の論理に反するものは載せられないことになる
 
 そういうわけではない

――絶対にそうなると思う。少なくとも、条文に但し書きをはっきりと示すべきだ

 個別対応にならざるを得ないから、事前に相談を受ければ、可否を示す

――それは、誰が判断するのか

 所属部長だ。そこで判断できなければ、法務室に回される

――不服がある場合はどうするのか
 最終的には、司法の場で判断してもらうしかない

――規定の条文では『職務上知り得た事実』を例外なく書けないことになっているから、裁判では不利だ。このままではリスクが高いから、誰もHPを作れなくなり、表現の自由は守られない。指針となる具体例を示すべきだ

 出してもらえれば、必ず応じる

――いくら組合が経営べったりだからといっても、安易に末端の記者を言論統制するような規定を作ることは、重大な権利の制限であり、言論の自由を守るべき新聞社として健全だとは思えないが

 会社としては、新聞社だからこそ規制をすべきだと判断したのだ