「文学横浜の会」

 新植林を読む


2012年04月26日


「新植林48号」



「巻頭言」
 津川国太郎氏の永眠された事を述べ、氏との交友を振り返る。惜別の情がひしと伝わってくる。
<死の床で氏は「ま、こんなものですよ」と微弱な声で言った>とのくだりには、胸に迫るものがある。 死に際の潔さでもあるし、充分に生きた、と言っているようでもある。
自分もそんな生き方をしたいものだ。

随筆「『あの世』のこと」   野本一平

 題名の通り「あの世」について述べている。
あの世になど行った事はないから、宗教や哲学、或いは心理学の範疇になるのかも知れないが、筆者はまさに博学の人ですね。
仏教(ここでは日本における仏教)における「あの世」感を多くのべているが、 日本に渡来した仏教は日本古来の土俗信仰(アイヌの信仰)と融合し、独自の神仏信仰になったのではないか。
「あの世」とは、つまるところ自身の思いなのではないか、と思う。

遺稿「回想録」         津川国太郎

 以下の表題で、何れも著者らしく生きた証しの一篇だ。
 「岡山大学耳鼻科教室入局の 一九五〇年夏のこと・・鷲羽山 海岸」
 「岡田ミナさんとの交際」
 「森山さんとの甘苦しい交際」
 「渡米 ー 1952年(昭和27年)秋 ー 杉本三寿子 先生」
 「Patricia Baldwin の登場」
 「ガーデナ仏教会」
 「米田愛子さんとの再会」
 「引退(1991年夏)と離婚成立(1991年12月)」
 「離婚訴訟の経緯」
 「引退後の日常」
 「1993年(平成5年)の訪日旅行」

津川国太郎氏の死去に当たっての追悼文として下記2篇。
随想「津川先生の死を悼む」花見雅鳳
随筆「津川国太郎氏を偲ぶ」清水克子

創作「ミスター・ルゥ」            シマダ・マサコ

 心の中に潜む「差別意識」がテーマだろうか。
皮膚の色や生きた文化が違えば、或いはそれ以外にも人を識別できる要素は様々で、 そうした違いがある事を前提に他人と接しなければいけないと言っているようにも思う。
ミスター・ルゥはどうして「人種差別を受けたことはない」と言ったのかと祐子の謎は残ったままだ。

随筆二編「五十パーセント保障、他」      柳田煕彦

 「五十パーセント保障」
 成程ね、何かあるとは思うが、そんな仕掛けですか。でも保障する側にしてみれば「指定工場」にしないと、 逆を考えれば危なくて保障なんてできないでしょう。つまり元々無理なサービスなんでしょうね。
 「ムーンシャイン」
 「密造酒」と言う事ですか。 文中「レッドネック 」の意味が解らず調べたら、「(英: Redneck) はアメリカ合衆国の、主に貧困白人層を指す侮蔑語」とあった。

随筆「在米半世紀の回想録(その十一)     井川齋

 1963年2月頃から裕子と結婚を決めた23才になったばかりの頃まで。

大学院に進みたいと本人は希望を抱いてはいるが、英語力のなさから学問ははかばかしくなく、それでも筆者はがむしゃらに進む。 若さゆえのエネルギーだろう。
「イースター休暇」での同性愛者の気配のあるカルロス・モルソン師との旅行を振り切り、日本から来る社長の随行のアルバイトをする。 随行ではアメリカの黒人問題、人種差別問題にも遭遇し、アメリカ社会の一面を知る機会にもなった。

休暇が終わって裕子との結婚を清香伯母にしらせる。裕子の両親から反対されるが、二人の決心は固い。

短歌「秋の月」       中條喜美子

 恐らく作者の身の回りからだろう「秋の月」をテーマにした10首の中から、
「中秋の 我が里 照らせし この月を 一日遅れて 異土に眺むる」
「一輪の 薔薇の花びら 枯れ落ちて 葉の美しさ きわだちてきぬ」
「幼子に 布団掛くごと 夜な夜なを 霜よけカバーで トマトをおおう」

エッセイ「おじゃまでしょうが(あんちゃん)」 中條喜美子

 「姉とも兄とも半分だけの血の繋がり」の「あんちゃん」と呼んでいた兄の死の知らせを受けて、葬儀に駆け付けた経緯と、 過去を振り返っている。家族の絆と言うか、過去になにがあろうと、やはり家族なのだと、しみじみととした味わいを覚えた。

ノンフィクション「ある国際結婚(七)」 清水克子

 私と息子は韓国人の夫と同居すべく、1980年9月初めにロサンゼルスに着く。と同時に日本人学校で働く事になるのだが、 滞在ビザの問題に突き当たる。そんな折、夫が自動車事故に遭う。
夫は幸い大きな怪我はなかったが、車はなくなり検査のために会社を辞めざるをえなくなる。 私も学校を辞めざるを得なくなり、前途に暗雲が立ち込める。

私小説「インディアン サマー(十)」 杉田廣海

 サウス・セントラルの家主ペリーとの遣り取り。
ガバメントとの争いの困難さを改めて思い知らされると同時に、黒人問題による治安の悪さを肌で感じる。 理由は不明だが、ペリーの息子が刑務所に入っていると知らされる。

文芸誌 in USA 新植林
第48号・2012年 春期
e-mail:hsugita@sbcglobal.net
homepage: http://www.shinshokurin.com
定価:7ドル+TAX

<金田>


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