「文学横浜の会」

 新植林を読む


2013年10月28日


「新植林51号」



「巻頭言」  ペンネーム「花見雅鳳」さんが体調を崩してホームの施設に入ったと聞いた、と書かれている。 面白い切り口や、世相を鋭くみる随筆を書いていた記憶がある。お大事に…。

随筆「宗教者の手紙 −しんらんの場合ー」   野本一平

 鎌倉時代に興り、その後の日本の仏教界に影響を与えた多くのリーダーの中から、親鸞と日蓮を取り上げている。 二人が他のリーダーと異なるのは多くの手紙を書いたことで、 その理由は「個人の自由と独立をかち得た」僧侶だったからだ、と言う。

残された手紙を検証し、
「手紙という素朴な方法で、遠くの相手と語り合った人たちの、そこに顕れてくる「人間」というもの」 に筆者はひかれるという。
遺された手紙から偉大な宗教家を紐解く筆者ならではの試み。

小説「でけそこない(その八〜その十)」 入江健二

 二郎の小学校六年、1952年頃までの思い出。
二郎は家で相変わらずお父さんか故なき嫌疑を受け、辛い思いから「家出」をふと思うようになる。 五年生になって「シベリア帰り」の武田先生がクラスの担任になり、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の詩を習う。 二郎は武田先生を慕うようになり、心は救われ、勉強にも取り組むようになった。

その頃パスツールの伝記を読んで、二郎は医者になりたいと思う。 成績も六年生の後半には上から三分の一ぐらいに上昇し 「いっしょうけんめい勉強したら、お医者さんになれるかなア」と考える。

創作「サイゴン」            シマダ・マサコ

 なんと言う作だろう。物語ではない。時はベトナム戦争の前か?
主人公、有子はアランとサイゴン郊外の二軒続いた家の一つに住んでいる。まるで異邦人のように。 その家の半地下にはコックとその家族(女房と娘が)が住んでいて、食事を作ってくれる。

アランとの関係ははっきり書かれていないが、有子はアランとの日常に幸せを感じる時もあるが、 有子は証書を信じない。人間性も信じない。神の存在も信じない。信じるのは今のこの一瞬の、感覚を通した実在感だけ。 アランの「一年経ったら、きっと、きっと君を迎えに行くから」との言葉に、 今この一瞬の彼の誠実さは信じるけど、有子はアランの言葉を信じない。
有子は一人サイゴンを離れる。なんともニヒリスティクな不思議な余韻の残る作だ。

エッセイ「おじゃまでしょうが(娘の結婚 その二)」 中條喜美子

 前作に続く娘の結婚に纏わる話。
アメリカで生まれ育った娘さんだから違和感はないんだろうが、親、特に母親としては日本との違いにあたふたするんでしょうが、 作者もかの地での生活が長いので、そこはどっしりしてますね。書かれたことがアメリカでの結婚式の全てではないのでしょうが、 バチェロレットパーティーとか、判ったような気になります。

随筆「在米半世紀の回想録(その十四)」   井川齋

 学士課程を終え修士課程の一年目、住まいをイースト・ハリウッド地区から日系人の多い西南区に移す。 貯えと妻の裕子の仕事でなんとか勉学に専念するようになれ、二年間の修士課程を終えることを目標にする。

血尿がでるほどの一年目の勉学の苦闘、米国における単位の取り方、講義など細かく書かれている。

図書館通いを通じて勉学仲間もでき、受講した「国際関係のセミナー」では提出したアサインメント(ペーパー)では二位の評価を受けた。 受講クラスの中で存在を認められ、教授とも話が出来るようにもなった。
学部時代はBの評価しか受けていなかったが、初年度、私は、初めてストレート「A]の好成績を収めることが出来た。

随筆六編「周期蝉、他」      柳田煕彦

 表題「周期蝉」、「ポールベア」、「蚊」、「あばら家の住人、蟻」、「からす蛇」「白内障」の六編からなる随筆。 周期蝉は十七年に一度出現する蝉で、ポールベアとは葬式の際に棺を運ぶ係だと初めて知った。 過去の出来事を思い出して書かれたものと推察するが、何れもアメリカでの体験譚だろう。

「蚊」での蚊に刺されるくだりや、 「あばら家の住人、蟻」で蟻が家の中に群がり、蟻に噛まれたりする件を読んで、私には真似できないと思う。 「からす蛇」を含めて、何れにしてもよく観察してますね。作者の姿が彷彿と目に浮かびます。

ノンフィクション「ある国際結婚(その十)」 清水克子

 店は買い手がついて買値と同じぐらいの値段で売却した。 夫は毎日出勤するが、何処で働いているのか私には言わない。 時間が出来て、私はLACC(ロサンゼルス カレッジ)で不動産のセールスの単位を取ることにした。 語学の問題はあったが、なんとか苦労して受講した四科目の単位を取得した。中古の家を買ったのはその頃だ。

私小説「インディアン サマー(十三)」 杉田廣海

 私は嫌疑をかけられている理由を色々考えて、リポルバー銃が紛失したことがあり、その時に同居していた山上を思い出す。 山上にはその後、同じく同居した際にPCをはじめ乗用車もろとも持ち逃げされたことがあった。

文芸誌 in USA 新植林
第51号・2013年10月 秋期
e-mail:shinshokurin@aol.com
homepage: http://www.shinshokurin.com
定価:7ドル+TAX

<金田>


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