「文学横浜の会」
新植林を読む
2016年 12月8日
「新植林57号」
「巻頭言」
早速、アメリカ大統領選でトランプ氏が当選した事が衝撃、として書かれている。
既存メディアの信頼性が揺らいだ出来事でもあったようだ。一方で狂気して喜んでいる少なからぬ国民がおり、本当にアメリカをまとめるのは難しいだろうな。
短歌「朝日歌壇の入選歌」 中條喜美子
朝日新聞の「朝日歌壇」1998年に投稿されてから、今年で77作が入選作があり、今回は前回の続きで2000年の作品からの12首の入選歌。何れも味わいのある作品です。
エッセイ「おじゃまでしょうが(息子の結婚ー前編)」 中條喜美子
息子の結婚が決まり、式はバージンアイランドで行う、との連絡で、娘婿の直前のキャンセル等のゴタゴタを交え、アメリカでの結婚式に至る風景の一端を書いている。娘、息子ともそれぞれ伴侶の出身国は異なり、まさに異文化の融合だと思うが、それがアメリカでの普通の風景なのだろう。
ノンフィクション「航空会社の怪盗ルパン」 柳田煕彦
今回も作者が見聞した「ディック・フォスター」と言う人物について書いている。兎に角、盗みの常習者なのだが、会社を首にもならず在籍し続けられたと言う事の方が驚きだ。
この話も日本では絶対にあり得ないだろう。
随筆「小さい頃の思い出」 太田清登
「ツール レイキの収容所」とあるから、先の大戦の頃なのだろうか。作者は高齢と思われる。小さい頃、戦後日本での生活からアメリカ国籍を復活してロサンゼルスに返る前を思い出しているのだろうか。
小説「ふるさと(四)」 シマダ・マサコ
裕子の夫が逝って、裕子は半世紀ぶりに姉のいる日本へ行く。日本の変貌ぶりに驚き、過去の貧しさと現実の違いに自分の存在を時代錯誤のように思う。年老いた姉は過去から抜けられず、過去に埋もれて生きている、と気づく。そして裕子の故郷は日本にはないと思う。
住み慣れたバークレーが故郷なのだと思い、裕子は予定を早めてアメリカに戻る。夫の遺灰をサンフランシスコ湾に撒いて、物語は終る。
随筆「砂漠のブランコ(六)」 ケリー・晴代
副題「ミミの算数」
副題「役割変化」
副題「おけいこ<冬>」
副題「引越」
随筆「在米半世紀の回想録(第二十稿)」 井川齋
副題として、<はじめに>、<「研究所」助手>、<新学年度の開始にあたって>、<院生に課されるハードル>、<ウエスト・モアーランド>、<大晦日から元旦にかけての大雪>、<アガー教授からの電話>、<またも驚かされる>、<「セント・ヘレンズ」調査>、<キャンパス外での院生生活(断面図)>、<たま伯母を訪ねる>、<アガー教授退職の報>、<一軒家への移転>、としてオレゴン大学・大学院やカリフォルニア大学アーバイン等での出来事を丁寧に記述している。
結局オレゴン大学では博士号の取得はかなわなかったようだが、担当教授が決まらないままに何年もアガー教授の元にいたのが読んでいてなんとももどかしい。日本なら子弟の関係でそうはならない事でも、契約社会と言われるアメリカでは、仕組みは判らねど、例え口約束だけでも博士号取得のための担当教授になってもらうべきだったのでは、と思った。
裕子の妹・明子がオレゴン大学に転向し、シユージンに来るのを機に一軒家を見つけて転居することを決めて終わっている。
ノンフィクション「早川雪夫さんとの出会い(二)」 清水克子
この稿では早川雪夫さんと滞米中の直木賞作家・田中小実昌氏との関係を中心に、その時に書かれたメモ(早稲田文学2014秋号に掲載)を載せている。
新植林21号には田中小実昌氏の小説「L・Aの病院」が掲載されたと言う。田中氏は2000年にL・Aで亡くなられ、それを追うように早川氏も2001年に亡くなられたと言う。
小説「インディアン サマー(十九)」 杉田廣海
予感した通り黒人の暴動が起こっていた。テレビでもその画面が映されていて、それはすぐ近くだ。と見ると下の母屋に住んでいるベリーの兄が外にでている。どんなとばっちりがあるか判らないので、とにかく家に入れと怒鳴る。黒人の白人に対する憎しみは根深い。
暴徒は白人ではなく、韓国系の店舗を狙い始めた。白人からの報復を恐れてターゲットを変えたのだ。何しろ黒人と白人とは「反抗と手痛い報復」を繰り返しきた歴史があり、反抗の後には復讐がある事を恐れて、黒人はターゲットを韓国人に向けたのだ。
文芸誌 in USA 新植林 <金田>
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