Gyrosigma 属の珪藻
Gyrosigma属はフネケイソウ目(Naviculales),メガネケイソウ科(Pleurosigaceae)に属する分類群で,属名の語源はギリシャ語の円曲の意の gyros とギリシャ文字のSの字のsigmaが示すように,殻面から見た形態がS字状に曲がることを特徴としている。このような形態をしているものは本属とPleurosigma属のほか僅かである。

 殻は細長く中間帯及び隔壁を持たず,上下の被殻だけからできている。殻面の中程には長軸に沿って軸域及び縦溝がS字状に走り,軸域は極めて狭いのが普通である。中心域も一般に小さく,円形,楕円形,平行四辺形などである。中心域部の縦溝端(中心節)は鈎形に曲がったもの,真っ直ぐなもの,T字形に終わるもの,?マ−ク形をしているものなどがある。殻端部の縦溝(極節)は先端に真っ直ぐ抜けたり,鈎形に曲がって横に抜けたりしている。殻面には長軸と直交する方向の横条線と,これに直角に交わる縦条線とがあり,格子状の模様を作る。この縦横の条線の密度が分類基準として重要な要素となっている。なおこの属は比較的大型の個体が多く,分類学的には安定した属とされているが自然界において群体生活の少ない分類群のため,比較研究のための多量の個体数が得にくいのが難点である。

 この属についてのまとまった研究としては,Hustedt(1930),Patrick & Reimer(1966),Kramer & Lange-Bertalot(1986)を挙げることができる。わが国においては flora 研究の一部として古くは Cleve(1883),中野(1912),Skvortzow(1936a,1936b,1937a)などの報告があるが,この属についての総括的な研究は未だ発表されていない。近年Stidolph(1994),Sterrnburg(1992, 1994, 1995, 1997, 2005, 2007),Jahn & Sterrnburg(2003)などがタイプ標本を再検討して記載の充実を図っている。筆者は日本各地から採集した試料に基づいて分類学的研究を行った結果,本邦産のものとして淡水及び汽水から30分類群(変種を含む)を識別することができた。これらを検索表にまとめた。また,それぞれの分類群について,分類学的考察と,本邦における分布について報告する。 
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