イギリス怪奇幻想集 (怪奇:アンソロジー)
(岡 達子:編 / 現代教養文庫 1998)
久しぶりに、古典的怪奇小説のアンソロジーを読みました(現代のホラー小説とは・・・、ちょっとちゃうねん)。
いずれも19世紀後半から20世紀前半に書かれた8篇。(なんせ原書自体が1937年刊のアンソロジーだそうで)
ブラックウッドとレ・ファニュの未読作があったのは収穫でしたが、他のはまあどうということもなく(やっぱり“古色蒼然”という形容がぴったりです)。
でも、今は亡き(?)教養文庫ですから、買っといてよかったんだろうな・・・。
<収録作品と作者>「早朝の礼拝」(マーガレット・アーウィン)、「セアラの墓」(F・G・ローリング)、「メディシン湖の狼」(アルジャノン・ブラックウッド)、「ラント夫人の亡霊」(サー・ヒュー・ウォルポール)、「ビュイックにつきまとう声」(アン・ブリッジ)、「白い道」(E・F・ボズマン)、「ウォッチャー」(J・S・レ・ファニュ)
オススメ度:☆☆
2003.1.13
魔法の猫 (ホラー:アンソロジー)
(ジャック・ダン&ガードナー・ドゾワ:編 / 扶桑社ミステリー 1998)
猫は大好きです(で、実は犬は苦手)。
でも、子供の頃は、祖母が猫嫌いだったので、家の内外には絵・写真・実物とも一切排除されていたのでありました。その反動か、今は榊さん状態(笑)。ご近所に猫が多い(十数匹はいる)という環境も嬉しいです。
で、この本、猫をテーマにしたSF・怪奇・幻想小説を集めたアンソロジーです。
編者が序文で書いておられますが、猫は人間の身近にいる動物の中で、もっとも複雑で矛盾に満ちた関係を結んでいる存在と言えるでしょう。その分、猫にまつわる小説も多いのです。
その中から選びぬかれた本書の収録作品は、かなりレベル高いです。F・ライバー、ル・グィン、C・スミス、G・ウルフ、R・シルヴァーバーグ、M・スワンウィックといったSF畑の大物から、ホラーの御大S・キング、E・ブライアントまで。
そして、どの猫も魅力的(中にはグロいのもいますが(^^;)。レイディ・メイ、ドーフィン・・・。シュレディンガーの猫まで出てくるとは思いませんでした。
以前(つっても15以上前ですが)、徳間文庫から「猫に関する恐怖小説」というのが出ていました。そちらも秀作揃いでしたが、それとのダブりはふたつだけ(H・スレッサーとB・リゲットの作品)というのも嬉しいです。
猫好きならば必読ですよ!
なお、続編「不思議な猫たち」、姉妹編「幻想の犬たち」(こちらは犬が主人公)も、扶桑社ミステリーから刊行されています。
<収録作品と作者>「跳躍者の時空」(フリッツ・ライバー)、「鼠と竜のゲーム」(コードウェイナー・スミス)、「魔性の猫」(スティーヴン・キング)、「猫は知っている」(パメラ・サージェント)、「シュレディンガーの猫」(アーシュラ・K・ル・グィン)、「グルーチョ」(ロン・グーラート)、「猫の子」(ヘンリー・スレッサー)、「猫に憑かれた男」(バイロン・リゲット)、「生まれつきの猫もいる」(テリー&キャロル・カー)、「愛猫家」(ノックス・バーガー)、「ジェイド・ブルー」(エドワード・ブライアント)、「トム・キャット」(ゲリー・ジェニングス)、「ソーニャとクレーン・ヴェッスルマンとキティー」(ジーン・ウルフ)、「魔女と猫」(マンリー・ウェイド・ウェルマン)、「古代の遺物」(ジョン・クロウリー)、「ささやかな知恵」(ロバート・シルヴァーバーグ&ランドル・ギャレット)、「シュラフツの昼さがり」(ガードナー・ドゾワ、ジャック・ダン&マイクル・スワンウィック)
オススメ度:☆☆☆☆
2003.1.19
悪魔の発明 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1998)
テーマ別書き下ろしホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第4弾。
今回は、タイトル通り、妖かしの不気味な発明品の数々が展覧に供されています。もちろん、その発明者も合わせて。
副題が“23人のマッドサイエンティスト”となってはいますが、すべての作品にフランケンシュタイン(←注! これは発明者の名前であって怪物の名前ではありません)博士が登場するわけではありません。いかにもの妖しい科学者もいれば、歴史上の実在人物だったり、発明者そのものは隠されていたり。
どれも粒揃いで、ありそうなネタもあれば、「よくこんなの思いついたな!」という愕然のネタもります。中でひとつだけ選べと言われれば、岡崎弘明さんの「空想科学博士」でしょうか。ばかばかしいネタでありながらリアルに、そしてユーモラスなのに背筋をぞっとさせるラストを描ききる筆力はすごいです。
<収録作品と作者>「大いなる作業」(篠田 真由美)、「イモーター」(小中 千昭)、「<非−知>工場」(牧野 修)、「星月夜」(横田 順彌)、「死の舞踏」(井上 雅彦)、「雪鬼」(霜島 ケイ)、「明日、どこかで」(山田 正紀)、「レタッチ」(我孫子 武丸)、「よいこの町」(大場 惑)、「果実のごとく」(岡本 賢一)、「決して会うことのないきみに」(森岡 浩之)、「F男爵とE博士のための晩餐会」(芦辺 拓)、「32」(斎藤 肇)、「俊一と俊二」(田中 啓文)、「空想科学博士」(岡崎 弘明)、「ラジ・ザ・モンスター」(ラジカル鈴木)、「ビデオの見すぎにご用心」(友成 純一)、「白雪姫の棺」(田中 文雄)、「スウェット・ルーム」(安土 萌)、「柴山博士臨界超過!」(梶尾 真治)、「断頭台?」(菊地 秀行)、「ハリー博士の自動輪 ―あるいは第三種永久機関―」(堀 晃)
オススメ度:☆☆☆☆
2003.1.23
邪馬台国はどこですか? (ミステリ)
(鯨 統一郎 / 創元推理文庫 1998)
歴史ミステリというジャンルがあります。
基本的には、現代の人が、歴史上の人物や事件にからむ謎を解いていくというお話。
海外では、ジョセフィン・テイの「時の娘」を嚆矢とし、D・カーの後期の諸作(現代人が当時にタイムスリップしたりしますが)。日本での古典と言えば高木彬光さんの「成吉思汗の秘密」でしょうか。歴史上の人物が更に先の時代の謎を解くもの(井沢元彦さんの「猿丸幻視行」とか)や、現代の事件と歴史上の謎をからめて解くもの(斎藤栄さんの「奥の細道殺人事件」とか)もあります。
で、この「邪馬台国はどこですか?」ですが、更に嬉しいのは、これが“酒場のホラ話”ネタであること。
“酒場のホラ話”とは英国伝統の小話形式で、パブに集まった人たちが口々に大ボラを吹き合うというもの。SFではA・C・クラークの「白鹿亭綺譚」がありますし、アシモフの連作ミステリ「黒後家蜘蛛の会」もそのバリエーションですね。
う、前置きが長くなりすぎた(汗)。
舞台はカウンターだけの狭いバー。登場人物は4人のみ。大学の歴史学教授・三谷とその助手の才媛・静香、バーテン・松永と職業不詳の男・宮田。いつも、宮田がとんでもない歴史解釈を持ち出して、正統派の静香と論争になるという筋立てで、邪馬台国をはじめ、聖徳太子の正体、本能寺の変、キリストの復活など6つの歴史上の謎に、あっと驚く新解釈が与えられます。
まあ、基本的に“ホラ話”なので、かなり強引な論理展開をするところもありますが、思わず「そうだったのか!?」と膝を打ってしまうことも。思考実験としてはかなり上質です。
歴史好きなら、一読の価値があるかも。
ただ、最後のふたつのネタは説得力なかったぞ(読む方の知識の量や関心の高さも関わると思いますが)。
<収録作品>「悟りを開いたのはいつですか?」、「邪馬台国はどこですか?」、「聖徳太子はだれですか?」、「謀反の動機はなんですか?」、「維新が起きたのはなぜですか?」、「奇蹟はどのようになされたのですか?」
オススメ度:☆☆☆
2003.2.8
暗黒のメルヘン (幻想:アンソロジー)
(澁澤 龍彦:編 / 河出文庫 1998)
澁澤 龍彦さんが、ご自身の好みを丸出しにして選んだ、日本の幻想小説アンソロジー。
もちろん、編まれたのが30年以上前ですから、現代作家のものは入っていません。
三島由紀夫とか石川淳とか安部公房とか、守備範囲外の作家がいっぱい。全16編中、読んだことがあるのは3作だけだったので、新鮮でした。ちなみに過去に読んでいたのは乱歩の「押絵と旅する男」、小栗虫太郎の「白蟻」、夢野久作の「瓶詰の地獄」でした。趣味偏りまくりやん(汗)。
“スタイルにとことんこだわる”とおっしゃる澁澤さんの選択基準で集められただけあって、とにかくどの作品も読み応えがあります。濃密なコク、というか。猫が主題の作品がふたつ(「猫の泉」と「恋人同士」)あるのも嬉しいです。
<収録作品と作者>「龍潭譚」(泉 鏡花)、「桜の森の満開の下」(坂口 安吾)、「山桜」(石川 淳)、「押絵と旅する男」(江戸川 乱歩)、「瓶詰の地獄」(夢野 久作)、「白蟻」(小栗 虫太郎)、「零人」(大坪 砂男)、「猫の泉」(日影 丈吉)、「深淵」(埴谷 雄高)、「摩天楼」(島尾 敏雄)、「詩人の生涯」(安部 公房)、「仲間」(三島 由紀夫)、「人魚紀聞」(椿 實)、「マドンナの真珠」(澁澤 龍彦)、「恋人同士」(倉橋 由美子)、「ウコンレオラ」(山本 修雄)
オススメ度:☆☆☆
2003.2.28