<夏(三)>
はえ
「地の上に蝿重なれり日あたらし」山口誓子
はざくら
「葉ざくらや人に知られぬ昼あそび」永井荷風
はしい
「端居してたヾ居る父の恐ろしき」高野素十
はす
「薫香と蓮の香朝の御堂より」松波はちす
はつがつお
「初鰹市へ負ひゆくみな女」亀井糸游
はなたちばな
「橘の花やしたがふ葉三枚」星野立子
はなび
「面上に花火とどまりとどまらず」大竹きみ江
はも
「竹の宿昼水鱧をきざみけり松瀬青々」松瀬青々
ばんりょく
「万緑やわが掌に釘の痕もなし」山口誓子
ひざかり
「日盛りに蝶のふれ合ふ音すなり」松瀬青々
ひでり
「暗き家に暗く人ゐる旱かな」福田甲子雄
ひとえ
「単衣着て若く読みにし書をひらく」能村登四郎
ひまわり
「向日葵に剣の如きレールかな」松本たかし
ふき
「蕗束ね置かる道の辺はや山中」野澤節子
ほたる
「蛍篭昏ければ揺り炎えたたす」橋本多佳子
ほととぎす
「谺して山ほとゝぎすほしいまゝ」杉田久女
ぼたん
「白牡丹といふといへども紅ほのか」高浜虚子
まこも
「真菰刈る童に鳰は水走り」水原秋桜子
まつり
「昨年よりも老いて祭の中通る」能村登四郎
まゆ
「うす繭の中ささやきの返しくる」平畑静塔
みじかよ
「蜑の子や沖に短き一夜寝て」山口誓子
みなみ
「南風のおもてをあげてうたふかな」木下夕爾
むぎ
「麦の穂を便りにつかむ別かな」芭蕉
むぎのあき
「麦秋や馬いななきてあとさびし」塚原麦生
むぐら
「山賎のおとがひ閉る葎かな」芭蕉
むしぼし
「白無垢の一竿すずし土用干」正岡子規
もゆる
「これよりの炎ゆる百日セロリ噛む」野澤節子
やくる
「柔かく女豹がふみて岩灼くる」富安風生
やな
「手に足に逆まく水や簗つくる」西村泊雲
ゆうがお
「夕顔のひらきかかりて襞ふかく」杉田久女
ゆうだち
「桑海や大夕立あとなほけむる」高浜年尾
ゆうなぎ
「夕凪や使はねば水流れ過ぐ」永田耕衣
ゆうやけ
「夕焼けて遠山雲の意にそへり」飯田龍太
ゆかた
「わきあけのいつほころびし浴衣かな」久保田万太郎
ゆり
「百合折らむにはあまりに夜の迫りをり」橋本多佳子
よか
「仔馬には里初めてや余花白き」大須賀乙字
よるのあき
「手を突きししとねのくぼみ夜の秋」川島千枝
りょくいん
「緑蔭に三人の老婆わらへりき」西東三鬼
わかかえで
「三井寺や日は午にせまる若楓」蕉村
わかば
「ざぶざぶと白壁洗ふ若葉かな」一茶
わくらば
「病葉のいささか青み残りけり」野村喜舟
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