第108回原宿句会
平成10年6月8日 新橋新幸橋ビル

   
兼題 葛切 巣立鳥 森林浴
席題 梅雨の月


      東人 
夜は山の霊気をまとひ森林浴
葦切のそのあとさきの渡舟かな
樹に移る風を選びて巣立鳥
灯の青き湾を見下ろし梅雨の月
葛切や盆にかすかな霧吹かれ

      美子 
犇めきて零れ落つかに巣立つなり
酢の甕に蚊のくる頃と婆の声
くずきりに女文字なる箸袋
両生の記憶森林浴の中
巣の縁に腰細き鳥巣立つらし

      武甲 
葛きりや明治の気骨通す店
梅雨の月核廃絶の声細し
切り株を囲み語らふ森林浴
車中より詰襟消えて更衣
親鳥の機嫌うかがふ巣立ちかな

      正 
レントゲンの幽かな翳や梅雨の月
葛切りや古りし看板初代の字
研修所今はひつそり巣立鳥
森林浴乙女の肌の仄白く
青芒天下を分けし古戦場

      利孟 
葛切の盆に短き朱塗り箸
森林浴だんだん抜ける脳の棘
梅雨の月運行表示のバス動く
風を生むことを覚えて鷹巣立つ
焼肉の手に浸む匂ひ走り梅雨

      千恵子 
騒ぎたつ声ほど翔べず巣立鳥
鮎食はす宿に人待ち独り酌む
榾燃やす縄文住居梅雨の月
けぶるやう葛切り盛られ外は雨
地図を手に森林浴に日もすがら

      希覯子 
巣立鳥陶榻に降りまろびけり
森林浴月光浴と重ねけり
葛練の父祖三代の紺のれん
揺れ枝に身を任す術巣立鳥
出没は神出鬼没梅雨の月

      健一 
梅雨の月音なき空の峰深し
葛切りや昔の味の三軒目
巣立鳥たてる羽音に旅ごころ
森林浴帽子いろいろ弾む声
水草に下りて留まらぬ夏の蝶

      笙  
伸び上がり開ける口、口燕の子
華やいで森林浴のふたり連れ
一度二度試すしぐさの巣立鳥
子に上着着せて見送る梅雨入りかな
葛切のほのかに甘き通り抜け

      白美 
巣立鳥名刺の隅の顔写真
葛切が仕上げの京の料理かな
藤の花ちぎりて散らし花畳紙
倒木のしたに黄の花森林浴
花びらの数を競ひて濃紫陽花

      箏円 
幕間に葛きり届く桟敷席
桜桃忌陽射したゆたふ上水路
またひとつ樹の名覚えし森林浴
板塀にうぶ毛残して巣立鳥
人の輪にためらひつ居る梅雨曇

      隆  
森林浴違へし道を逆らはず
置き忘るノートにありぬ五月の詩
葛切や物干台に吹かれをり
曲がり出づブリキの煙突巣立ち鳥
梅雨の月思はぬ人とゆき会ひぬ