美穂子 掌に捨蚕の嵩の軽さかな 茶摘女の指にリズムの休符無く 漆黒のピアノの纏ふ花の冷え 山吹の黄の陣取りし無人駅 散り急ぐ母の忌日の夕桜 千恵子 折鶴の影置く膳や春の宿 おひつ干す庭に山吹明りかな お蚕を飼ひて昼なほ眠き村 布繩に色のいろいろ茶摘籠 武甲 逃げ足の早き聴衆花の雨 溶岩に埋もれし砂漠島桜 山吹の髄を知りたる子の眼 息抜きて富士山を見る茶摘かな 翠月 春寒や黒き船体潮すべる お喋りのまま姉妹の茶摘かな 部屋中に葉を食む音や蚕棚 慰めを言ひつつ婆の捨蚕焼く |
正 山門を出でて坊主も茶摘唄 茜屋てふ珈琲屋に待つ春時雨 桜咲く丘の牧場に駒放つ 子を生さぬ女一人や蚕飼ふ 白美 ここにまで高層アパート茶摘なほ 吊したる木偶の後も山桜 山吹や煎餅裏の狐色 箏円 山吹にとらへられたり杣の道 山吹の叢より起ちし翅あるもの さはさはと湛ふ息吹きや春蚕棚 和博 山吹に踏石とられ道泥濘る 夕日影首をもたげし蚕かな 明 山吹に道塞がれて廻り道 |