第92回原宿句会
平成9年3月6日

   
兼題 春月 桜草 雁風呂
席題 春炬燵


  東  人 
春月や海へせり出す能舞台
焚き口の藻塩の匂ひ雁供養
丈揃ふまでを咲き継ぎ桜草
遠近の眼鏡の合はず春炬燵
風に黒髪を引かれて春の宵

  千 恵 子
焚き口で聞く湯加減や雁供養
産近き牛の瞳や春の月
鼻にくる煎じ薬や春炬燵
雛に留守託して三日の湯治かな
引越の子の膝にある桜草

  利  孟 
雁供養さめて味濃き煮ころがし
あれこれと見合ひの写真春炬燵
啓蟄や床屋軒なみ定休日
バルーンに吹き込む炎桜草
春月をうかがひジェットコースター

  法  弘 
春炬燵このごろ妻の太り肉
雁風呂や風にちぎるるよされ節
くしやくしやに泣いてゆがんで春の月
桜草や意中の人とは違ふ人
春うれひ腕を組んでは回しては

  希 覯 子
書架にある縦書の医書春炬燵
雁風呂と聞きて泊りの客となる
雁供養ホ句の徒として参じけり
花時計文字盤なべて桜草
名にし負ふ開かずの踏切春の月

  香  里 
桜草転入届け出しにけり
新築の庭のかたすみ桜草
祖父母とは方言にて春炬燵
キヨスクでのど飴もとめ春の月

  正  
追分の流るる浜辺雁供養
風光る日は外に出よ乳母車
影法師やがて重なり春の月
文楽の頭振はす春炬燵
逞しく生きる姉妹桜草

  笙  
決めかねてゆるむ歩みに春の月
雁風呂や細き煙の絶えもせず
一鍬の盛る土揃ふ春田打
春炬燵緩くともして鳥を聴く
這うてゆく吾子のめあての桜草

  白  美 
目覚めても明るき部屋の春炬燵
春の月ビルは矩形に蒼みたる
上下ある本のかたわら桜草
干鱈をさきて語らふ幼き日
雁風呂や北をめがけて水鉄砲

  萩  宏 
特捜の検事部屋にも春の月
父さんの便り懐かし雁の風呂
押し倒し女の背に桜草
陸奥の古墳蘇生し春の月


  健  一 
雁風呂や束の間悲し海の音
足のみを入れうたた寝の春炬燵
宵雨の背戸に色濃し桜草
春寒し行き交ふ船の遠汽笛
春の月上りて雲をまとひ行き

  義  紀 
足先の触れて恥づかし春炬燵
啓蟄や銀座地下街徘徊し
親潮のうねり大きく雁供養
春の月肩寄せ歩む二人かな
長椅子に眠れる猫や桜草