第8回 平成9年1月18日
やしほ合同 戸恒東人指導

森利孟
風の皺めけるもの寄せ薄氷
鵯遊ぶ羽根の襞まで日に拡げ
成人日膝には穴のブルージン
当直の更紙に蜜柑積み上げて

戸恒東人
大寒の陽を背ナに受け毛の国ヘ
薄氷の閉ぢし小枝に溶かさるる
持ち寄りしもの持ち帰り女正月
掌にほどよき湿り蜜柑食ふ

会田比呂
人攫ひ来さうな夕より雪風巻く
棒読みの口上をもて子の礼者
まん丸に揺れ蹲踞の薄氷
芯に組む榾御神木どんど焼

池田孝明
湧水に喉潤して御来光
鉢植ゑの蜜柑とともに退院す
着ぶくれて自転車重し今朝の坂
せせらぎの岸の淀みの薄氷

伊藤均
初日待つ空を横切る飛行機雲
水たまり濁りを透かす薄氷
置き去りの供へしみかん皺作る
強霜や床で列車の響き聞く

岩本充弘
銅山の廃坑深し寒の水
蜜柑島平家一族眠る海
引売りの秤の魚に風花す
薄氷を踏み少年ら登校す

小又美恵子
萎びたる蜜柑拝みて飾り解く
初みくじ枝に結びてひき直し
薄氷の小さき音たて川に落つ
香りたる梅に顔寄せ深呼吸

茅島正男
薄氷やそろりそろりとハイヒール
薄皮を崩して選ぶみかん盛り
大掃除日の傾きて雑になる
葉一枚へたに残して早稲蜜精

小林美智子
お手玉に似てふぞろひの蜜柑かな
薄氷に波穏やかや中禅寺湖
日めくりの一枚重く古暦
風冴ゆる中手を合はす縁結び

田中鴻
薄氷を足で割りゆく子らの群れ
供へ餅蜜柑を冠してめかし居り
薄氷を持つ手割る手の桜色
雪山に真紅の夕陽近づけリ

田仲晶
地境にして磐石の霜柱
並列のみかんに引き算苦手な子
殺生の喉へなめらか寒卵
薄氷や女の野心すぐ消えて

高島文江
また一つ話が弾み蜜柑剥く
男体山といへど撫肩初景色
笑ひつつ蜜柑剥きをり姉妹
雀跳ね学童跳ねて薄氷

手塚一郎
蜜柑の香泌みたる指をそつと拭く
薄氷を割りてはしやぎし子供かな
枯蔦をまとひて笑みし地蔵かな
寒鴉鳴きてアンテア揺すりけり

手塚須美子
風邪癒えぬ父頬張りし蜜柑かな
冬木立没日に浮かぶ影絵かな
登校の根雪踏みゆく子らの列
書初の子ら去年よりも大人びて

床井憲巳
ポケベルのならぬ時間や年用意
ポケベルのならぬ日曜雪止まず
レノン忌や息子の奏づヘイジユード
子の癖は誰に似たるやみかん揉む

永松邦文
身の程のデカさに決める達磨市
出句みな特選を得て夢はじめ
棟上げや坊主頭に蜜柑降る
石地蔵宝珠がはりの蜜柑かな

福田一構
椀蓋をつけてふたりの雑煮かな
年用意夫たつ厨火照りかな
現役は残りわづかと賀状来る
裾分けし初収穫の鉢みかん

堀江良人
男体山の薙も輝き初景色
湯上りの指に冷たきみかんかな
薄氷の眩しくかへす朝日かな
八溝嶺の連なる北の初霞

三澤郁子
凍鶴の首反らせまた反らせ呑む
甘さほめ客にすすめるみかんかな
茶会後の話題きのうのみかん狩リ
雪しぐれガラスのうすき砂糖壼