第10回 平成9年3月28日
投稿句会

会田比呂
仏飯のからから零る春の風邪
朧夜や母の羽織の隠し紋
若布売り姉さん被り巻き直す
春霖や指一本で弾くピアノ

池田孝明
木洩れ日の土手に芽を吹く蕗の薹
大根も簾にまさる納屋の軒
店先の若布に馳せし夕餉かな
川沿ひの葦もおぼろに暮れにけリ

岩本充弘
馬の子の四つ足で佇つ生命かな
壁を塗る茶髪に春の細雪
北海の波荒くして和布の伸びし
水底のおぼろの月に手を翳し

小又美恵子
大笊の母の土産の土筆かな
荷解けば風に感じる沈丁花
蓬摘み昼のサイレン音引きて
荷解きの手の忙しく朧月

片山栄機
芹摘みの婆手をつきて登る坂
自惚れし犬猫追ひぬ春の昼
朧夜に吸ひ込まれ行く電車かな
同級生待たせてすする若布汁

茅島正男
老桜や幹を隠して主人公
大海の中からすくふわかめ汁
教室の絵が出そろへば葉桜か
南からバトンを受ける春一番

田中鴻
家巡る陸奥の訛りの若布売り
朝霞ローカル線の陸蒸気
ドライブや海の旅籠の若布汁
青くさき朧月夜の田や畑

田仲晶
おぼろ夜の村を貫く高速路
たんぼぽの分校跡を埋め尽くす
畔道の日にすがり咲くいぬふぐり
若布和一鉢加ふ快気酒

高島文江
ハムレツト観て帰りけり春の闇
みそ汁に若布たつぷリダイエツト
掛軸の巻き癖直す朧かな
村中を覆ひてけぶる杉の花

床井憲巳
荷まとめを終へて窓辺のおぼろ月
君が手の温もり残るおぼろ月



手塚一郎
夕朧ろ目をよぎりし鳥一羽
味噌汁のほとびし若布青きかな
沈丁花風にのり来て匂ひまき
梅が香に連られて来しや空仰ぐ

手塚須美子
また一曲ラジオに流れ卒業歌
若布売歌ふがごとき物産展
ポスト閉づ音のかすかに朧の夜
春疾風いよいよ丸く眠る犬

永松邦文
野辺歩む農夫二人の朧なり
高速の尾灯の流れ朧なり
新装のビルのネオンの朧なり
何事もなくと添へ書く春異動

福田一構
酔ひ醒めのふとんに届く初音かな
濃緑を灰にまぶして干す若布
停年の顔のおぼろにガラス越し
停年や邯鄲の夢春おぼろ

堀江良人
杉山を色濃く染めし春の雲
深酒の醒めぬ朝餉のわかめ汁
色のあるもの皆白くおぼろの夜
酔客もカサブランカに魅せられて

三澤郁子
シグナルの遠くなりゆく朧の夜
朝の陽の満てる厨や若布汁
口漱ぐ塩ひとつまみ朧の夜
朝市に汐の香を撒く若布かな