第12回 平成9年5月23日
アーバンしもつけ
花嫁の投げしブーケの薔薇こぼる
風動くたび羅の渦遊ぶ
初夏や版木に落とすばかし水
レガツタの背なを緩めて櫂構ふ
会田比呂
鮎の宿夜は畳に竿伸ばす
王女の名持つ薔薇を選る生誕樹
字の名を冠す村医者今年竹
吊革の白き二の腕夏始
池田孝明
襟元の風柔らかく浅き春
春雪の遠くにありて雨宿リ
小太鼓に幟も高し一の午
残雪を突き通してゐる小枝かな
岩本充弘
初夏の海風がのこせし砂の紋
はらはらと薔薇散りいそぐタベかな
乙姫の浮いて来さうな初夏の海
廃校の鉄の裏門薔薇赤し
耳たぶに香水つけて初デート
願掛けて御輿を目掛けて銭投げる
節電で居眠り深し初夏の昼
薔薇垣の隙間に見えし傘の主
片山栄機
草取りに終はる一日誕生日
薫風や息子の制服の身になじみ
初夏の歩を軽やかに散歩道
紅薔薇の紅移りゆく雨雫
茅島正男
つるばらや迷へる蟻がとげの先
初夏けしきみどりの絵具空きにけり
ゆずの花実になる前の香り見る
初夏の夕音と光で雨が立つ
川村清二
美しき薔薇の心に棘を持ち
これからは薔薇色人生したいもの
西空の雲の形が初夏の色
薔薇の花手を差出して棘を刺し
半袖のジョギング増えし初夏の朝
晴天を重なり仰ぐ鯉のばり
品切れに新茶入荷の紙はがす
つる薔薇のからみし車庫に気もそぞろ
田中鴻
香り良し色も豊富に薔薇の垣
円席の会議の席に薔薇香る
障子開け風引き入れぬ夏始め
初夏の小川に遊ぶ稚魚の群
田中晶
花吹雪千恵子の空をさまよへり
鳴き止みし刹那を落ちて揚雲雀
水平に馬の尾の飛ぶ青嵐
鳴り出しの一音高く祭笛
高島文江
薔薇の束茶髪の少年抱き来る
初夏の雲ふつくらと湧きており
薔薇崩る薔薇といふ字を解くごとく
音たてて飲みほす抹茶夏始め
鉄鍋の小マグマなる苺ジャム
聞き初めしピアノの曲や薔薇の窓
球場の歓声高く初夏の空
とこゐ憲巳
ひらきどき見逃したるや庭の薔薇
フイルターの目づまり取りて夏寒し
白猫の丸く眠りて夏寒し
鉢植ゑのバラが自慢の町の医者
永松邦文
カンバスの裸婦に入墨青き薔薇
紅き薔薇目薬にして夢心地
失ひし恋の腹癒散らす薔薇
薔薇一輪魔力を恃みプロポーズ
福田一構
行く春や槌音ひびく昼さがり
マネキンの絹のスカーフ夏初め
薄闇や薔薇一輪の違ひ棚
突き出され芥子多めの心太
白薔薇を一輪挿して妻帰る
初夏や水に輪を描く落し浮
蔓薔薇や色褪せみせぬしたたかさ
初夏や惜しみ離せぬ紺絣
三澤郁子
牧駆ける子馬の勢ひ夏来る
坪庭にマリアカラスとふ薔薇咲けり
表札の横文字の家白薔薇
藍染めの暖簾に替へて厨初夏