第19回 平成9年12月15日
アーバンしもつけ:土生重次指導



土生重次
初明りまだ影のまま杉並木
初鳶の滑空風の尖とらふ
井戸水に地のあたたかき初手水


森利孟
神妙に髪を梳かる子年の暮
餅を搗く晒一反切り分けて



会田比呂
酒と塩含み搗き出す神の餅
餅返す手に程の良き声添えて
末枯れや弔辞もなかば美辞麗句
声と腰一臼搗きて整ひし

田仲晶
木の実駒廻しつ「九九」を諳じる
父祖よりの餅臼据ゑる父母の家
短日の受話器より漏るよまひごと
耳だけで聞く繰り言や年の暮れ

岩本充弘
出稼ぎを終へたる父の搗ける餅
年の瀬や雫のたまる仕舞風呂
三の酉女将夫を従えて
冬の雷仁王目を剥く堂暗し

小又美恵子
頬紅き子供の丸める供へ餅
絨毯に全身委ね猫背かな
盛切りの酒のあふるや虎落笛
大箱に脚の余りてずわい蟹

片山栄機
年の瀬や釣り銭で買ふ宝くじ
餅を搗く親子は声を張り上げて
花屋抱き来たりし鉢のシクラメン
冬星座象形文字のごときかな

茅島正男
年の瀬や今年のハガキ探しけり
搗き上げし餅にまづ振る化粧粉
餅つきや一臼ごとにねばりけり
紅白の司会決まりて名を覚え

川村清二
年の瀬に届く葉書は喪中かな
新婚の二人囃され餅をつく
睨めつこしつつ求めし福達磨
役目終へ地上に舞ひ散る枯葉かな

田中鴻
年の瀬や金融機関パトロール
せがまれて制服のまま餅を掲く
数人が細き杵持ち餅を搗く
あれこれと成すこと多き年の内

高島文江
大鬼怒川の水面きらめき十二月
絹雲の長く尾を引き年つまる
餅搗きの杵の先なる空深し
田仕舞の煙むらさきなりしかな

とこゐ憲巳
寮監の手つきの不慣れあんこ餅
放り上ぐごとくこねぬり納豆餅
モード誌を束ねる娘年用意
餅搗きや息声音に風加ヘ

永松邦文
囃されて三臼目の餅搗き始む
餅搗きの湯気もうもうと腰で搗く
当直の餅焼くにほひオリオン座
出番待つ年に一度の餅搗機

仁平貢一
単線の終電が去り年詰まる
曲家の張り出す軒や餅を搗く
年詰まる残せし用を数へをり
奥鬼怒の巨石彩る散紅葉

堀江良人
静かさも鴨の浮寝や年の暮
餅搗きの杵音絶えて空白む
別居して早半年の年の暮
年の瀬や暖簾横目に家路つく

三澤郁子
揚きたての餅青海苔の香りかな
二三言話して別れ年詰まる
堰音のいつしか細り年つまる
雑踏の持つ子の見えぬ赤風船