第52回 平成12年9月21日
アーバンしもつけ

岩本充弘
村中を泣かせる子役夜長かな
纜を駆ける鼠や野分あと
願掛けの産土神までの虫時雨
蕎麦刈りを重ね狭の女老ゆ

とこゐ憲巳
風見鶏ぎくしやく動き野分晴
虫の音の途切れ着信Eメール
卓袱台に写真を拡げ虫すだく
曼珠沙華一日女性署長来て

永松邦文
ザリガニの脱皮の足掻き秋の水
赤とんぼ流れて風を受け流す
運動会リレーの小さき砂埃
振り向けば男の耳輪虫時雨

仁平貢一
路地裏の頑固一徹走り蕎麦
宿坊の朝の勤行野分あと
虫時雨脳のどこかに土匂ふ
逢ひたしと思ふ人ゐて十三夜

へんみともこ
パソコンに問はれ戸惑ふ虫の夜
虫時雨板を並べる風呂の蓋
メモにした買い物忘れ秋の夕
婦人部のお握り届く秋祭

三澤郁子
耶蘇の村そこに抜け道狐花
夕野分谷へ煙の登り窯
窯出しの壺の冷め割れ秋深む
田を埋む十万本の秋桜が

大垣早織
名月の照らしてかつて銅の町
まづ鳥の風に遊びて野分来る
雨音の消えて澄みゆく虫の声
夕野分ひつそりと耐へ道祖神

片山栄機
秋天や矢音に揺れる弓道場
一陣の丘よりの風吾亦紅
野分晴電車汚れて着きにけり
読みふけり虫鳴く時間過ごしけり

川村清二
石仏の頭巾あみだに野分かな
鈴虫の鳴き止みてまだ眠られず
朝市であれこれ漁る額の汗
庭先で咲いて知らせし彼岸花

田中鴻
八方に風湧き尾瀬の草紅葉
音のなき奥飛騨の夜秋深む
秋空やロープウェイで槍登る
人慣れし大正池の鴨の群れ

栃木昭雄
虫かごを下げて町医者遊びに来
馬追ひの突如鳴き出し小夜更けり
夕野分去る田園交響曲序章
野分後扉の句集届きけり

福田一構
野分中兵直立の忠烈碑
虫時雨蔵王のお釜の闇深し
秋の蚊帳目覚めて嬰の喃語かな
雨滂沱残暑見舞の明るさや

堀江良人
線香の燃えやや早し秋彼岸
畦を守る農夫の影や野分来る
馬追ひややがて上がりし雨の音
黒土に散りし木槿の白さかな