長崎の夜は袋回し一覧
指導 森 利孟
秋雨にけぶる聖堂戸を立てて
坂道にこぼるる梯沽天主堂
秋の夜の句会堂々巡りかな
秋燕や国宝大浦天主堂
龍踊のうねり堂々秋祭り
秋雨や鐘音湿る天主堂
秋雨に打たれて祈る天主堂
食堂のビニールクロス焼秋刀魚
天主堂訪ふ人途絶え秋の暮
堂内に行者の版画秋灯
秋雨けぶる今日浦上の天主堂
金
みどり児は金の卵や月満る
栗飯や塗りのお椀に金の縁
秋の日や金のはじける金の千木
金色の稔田翼下に続きけり
錦秋や旅の衣をほめられて
金の目の龍にまづ会ふくんちかな
車椅子引き具す風や金木犀
ポケットにならす小錢や秋の旅
金色の秋雨にけむる天主堂
子の家は団地の一戸金木犀
金色の腕を拡げて聖母像
金文字の墓や木犀降りしきる
鰯雲龍の舞ひ込む石舞台
秋日射し雲海の波和らぎぬ
ブランドの旅着をまとひ秋の航
との曇る俯瞰カメラの秋の海
秋の雲手をさしのべしザビエル像
飛行機雲ファスナーの如天高し
ジェット機の雲けり抜けて秋の空
待ち合はす旅の駅前秋の雲
雲水の低き読経や暮れの秋
巻雲の高さを飛んで日航機
秋茜一片の雲追ひにけり
鰯雲明日もどうやら晴れるらし
横顔の子規のレリーフ鰯雲
釜
冷ややかや釜揚げうどんもてなさる
釜揚げの湯気にくもりし桜海老
釜飯の陶の器や蕎麦の花
釜山へと思ひを馳せて秋の宿
赤飯を釜一杯にくんち晴
釜の湯の滾りて虫の声に和す
釜だきの吹き上ぐ大豆年の暮
秋霖や炊飯釜に灯のともる
零余子飯ふくふくたけて釜の中
浦上の鐘響きあふ雨の夕
霞ヶ浦よりわかさぎの届きけり
小屋裏に海女の衣干す秋の浦
浦上堂濡れて紅葉の坂の上
十月の雨の匂ひや時津浦
秋暑し海女の衣干され磯の浦
浦上の御堂の聖歌秋灯し
くんち舟浦島太郎乗るつもり
秋雨の浦に白波分けて船
竜宮の浦島太郎の秋思かな
浦投げに亦も破れてちちろ鳴く
肌
木の肌を打つ秋雨や坂の街
肌理荒き備前盃月見酒
旅はじめ秋雨にある肌の冷え
秋雨が肌に沁み入る坂の町
秋の燈や肌に甘き香戻りけり
怠りし肌の黒ずみ秋立ちぬ
やは肌の乙女の像や秋桜
添ひ寝する子の肌にある夜寒かな
山肌にひしめく家や秋灯
秋雨や聖人像の瞳の潤み
殉教の聖人像や暮早し
十六夜や聖教の地の赤き門
西坂は聖なる径よ萩の花
聖人の居並ぶ壁に秋の雨
聖歌燃える釜山の空ゆ雁渡し
聖人の合はす指先秋の雨
手作りの料理の並ぶ聖夜かな
秋雨に昏るる聖堂坂の町
秋高し肥前の聖き御天かな
オラショ唱ふ聖人の口秋時雨
聖人の涙となりし秋の雨
破
如己堂も雨にけぶりて破芭蕉
破蓮風の動きにたなびきて
糠雨に昏れてゆく街破れ芭蕉
秋の雨破れ傘置く肥前の碑
破れ傘黄葉し初めて杣の径
秋の暮れしじまを破る鐘の音
秋天を崩し発破の煙かな
紺絣の綴れ野良着の案山子かな
如己堂の裸電球破れ芭蕉
如己堂の破芭蕉に秋の雨
破芭蕉永井博士の遺影笑む
見送りし竹馬の友の影二つ
風音の日がな生まるる竹の寺
夕風に葉浦白々竹似草
竹の春はらりと雨の天主堂
久々に竹田のかぼす賜はれり
秋雨の濡れて重たき竹となる
竹林や甘味処に緋毛氈
支那竹の香より味はひ夜鳴き蕎麦
幼子の竹刀ひた振る良夜かな
夾竹桃聖人像に雨分けて
竹籠に土産の小物秋の夜
翼
秋の宵天使の翼揺らす鐘
秋天に翼を拡げ天主堂
ジェット機の翼せり出す秋の空
ジェット機の補助翼の伸び秋の海
両翼の下に遠のく稔りの田
おくんちの龍の小さき翼かな
秋雨に翼を濡らし着陸す
鵙高音して広げたる翼かな
秋天に翼ひろげる天使かな
霧ごめの尾翼微かに止まりけり
秋天に翼をひろげ童子像
秋天を割りし銀翼音猛し
到着地雨てふ機長雁渡る
秋長崎やらずの雨の待ちにけり
長崎に百円電車秋の雨
長崎や雨に色づく萩の花
秋うらら長崎トルコライスてふ
長坂をあえぎて歩く秋時雨
長き夜の句座に転がる笑ひ声
秋長雨墓碑にかすれし線クルス
寝そびれて空念仏の夜長かな
掌
握り込む掌に溢れたる赤まんま
みどり児の掌に余りたる林檎かな
掌に受けて林檎のうさぎいただきぬ
教皇の像に掌合す秋灯下
掌に残る触感実団栗
聖人像のなべて祈る掌秋の雨
秋雨を掌に受け平和祈念像
秋雨を掌に受け坂の街歩く
赤々と天へ合掌彼岸花
掌を秋天に向け祈りけり
車掌居ぬ路面電車や秋桜
秋霖の御掌にしとど平和像
秋の雨市街電車に無き車掌
夕映えの波おだやかや鳥渡る
夕映えの鎮守の杜の紅葉かな
秋夕暮れ路面電車にネオン映え
鰯雲玻璃に映りてかがやけり
長崎の秋雨に映える天主堂
夕映えを支へて平和祈念像
秋水に映る雲あり茜して
せせらぎに映して桜紅葉かな
ステンドグラス映えて御堂の秋深し
胡蝶蘭映えたる店のママ美しき
天主堂秋の日差しに映えそびゆ