第80回 平成15年2月9日(日)

特選句作者を巻頭に、
以下入選数で配列しています

特選句は緑色太字で表示

石塚信子
春寒の画紙へ滲ます水ゑのぐ
投函の音返りくる余寒かな
あや取りの綾の掛け橋春近し
引く鳥や泡をころがす洗濯機
一つ事済めば次がと冴返る

堀江良人
北行きの機影に遅れ鳥帰る
颪荒る畔に足跡冴え返る
木障に吹く風の鎮まり冴え返る
ものの陰深まる心地春立つ日
雨滲む大谷石塀冴返る
奥白根加へ連山冴え返る

三澤郁子
石積みの棚田天まで鳥帰る
発つ兆しかも鳴き交し鴨の陣
広辞苑の重さを下ろし冴返る
冴返る鍵に付けたる鈴の音

会田比呂
釣り上げし魚の一跳ねして凍つる
街路樹の芽の膨らみや鳥帰る
冴返る紺屋三和土の黒光り
夕凍みやぴしぴし鳴れる湖の端
雪を来て触れれば温し万治仏

大貫ミヨ
法螺の音の坂道転げ雪しまき
雪の舞ふ風車の村の深眠り
鋤き起こす畝黒々と鳥帰る
粥占の粥のしたたる孕み箸
ビル陰にヒールの音や冴返る

岡田耕
立春や積み木のごとく貨車繋ぐ
自叙伝の半ばに栞鳥雲に
畑かすめ残雪を呑み川曲がる
足跡の雪間飛び越し続きけり
冴返る浮かぶがごとく床の塵

柏崎芳子
木々の芽の色固くして冴返る
笹鳴きや少し濃いめの紅引きて
繰り戸開け風のきりりと初稽古
棚奥にしまふ土鍋や鳥帰る
春浅し歩き初めの一歩二歩

川島清子
冴返る闇夜に探す鍵の穴
日向ぼこ利手で叩く肩の凝り
冴返る黒き衣装の唄ふファド
寒鯉のほの紅き身を削ぎにけり
雪原に蛇行の川面茜射す
夕映にまぎれて影の鳥雲に

とこゐ憲
チョコレートを選る女学生鳥の恋
繰りて見る十年日記鳥帰る
買ひ積みの本の埃や鳥帰る
春ざれや刹那止まりし風を蹴る
庭園灯点滅をして冴返る


福田一構
伐採の谺の中を鳥帰る
元軍曹廃兵院の日向ぼこ
中庭の臘梅凛と匂ひ立つ
諍ひの果ての沈黙冴返る
モダンジャズ漏れる街裏冴返る

へんみともこ
退院を待つロッカーの春の服
君子蘭蕾に紙の薄さ秘め
指で見る鎌の切れ味農具市
駈けもどる靴にずしりと春の泥
冴返る先の毛羽立つ栞紐

泉敬子
臘梅や芝居小屋より拡声器
初雪や足長娘の日本髪
炉辺話横綱生みし村自慢
野辺送り鉦の一打の冴え返る

片山栄機
昇任の廻し見をされ春辞令
黒き首もたげ百羽の鳥帰る
文庫本読む少年や冴え返る
胎の子をさすりて分けるどんどの火

田中鴻
行き戻りしては見較べ内裏雛
冴返る小鳥ゆつくり餌を漁る
編隊を組み変へながら鳥帰る
夕空に影を散りばめ鳥帰る

栃木昭雄
「もういいかい」だんだん早く春隣り
冴返る鉋の起こす檜の香
噴煙の薄れる山よ鳥帰る
逆光の朝波を蹴り鳥帰る


標幸一
雲流る中に星々冴え返る
冬の朝歩毎に背なの丸まりて
朝凍みの堤光りて鎮もれり

森利孟
野遊びや万歳させてとる上着
瓦斯燈の音聴く夜や冴返る
鳥帰る人に馴染まぬ群のまづ
一、二枚剥ぎて冬菜を粧ほへる