第166回 平成22年10月17日


   利孟
 伸びゆける先に秋雲新タワー
△鵙高音やうやう上がる昨夜の雨
 踏切の鐘滲み鳴り霧深し
 秋刀魚焼く路地から路地へ風の道
 洗ひあげ吊さる軍手秋の暮

   清子
△秋の暮鍬に没日の照り残る
△名月に歪みの増して古希となる
△天高し青年日々に職探す
△さんまの香足のみみえる繩のれん
 玄関に客待ち顔の秋桜

   信子
△名月や観音在す石の町
△手ばかりの体操五分柿日和
△駅頭に雨の辻立ち秋の暮
 諳んずる秋の七草指折りて
 秋刀魚煙らす戦後派も老いにけり

   芳子
○さやけしや的射る音のまっすぐに
△尋ねたき事もならずに秋刀魚焼く
 リハビリの父の背中や吾亦紅
 紅葉谷の中より生れし水の音
 解く荷の小さくなりて秋の暮

   敬子
△秀麗や父の竹刀の一抱へ
△久方に七輪を出し秋刀魚焼く
△新しく鍋を買ひ足し秋の暮
 秋冷や母の遺愛の硯箱
 門川の群れ咲く萩や童子像

   良人
△遠靄に浮かぶ筑波嶺秋の音
△目の位置を同じく秋刀魚並びをり
 品の良い長角皿に秋刀魚載る
 銚子岬香る醤油に秋刀魚かな
 参道の坂へ人影秋の暮

   比呂
○海の香の油滴り秋刀魚焼く
△三日ほど香を存分に金木犀
△無花果の嘯くさまに熟れにけり
 犬に嗅がれて大飛びのいぼむしり
 取り外し自由の歯あり残り菊

   聖子
△無造作に並び秋刀魚の光りをり
 秋の暮自転車に子を二人乗せ
△県庁舎の影長々と秋の暮
 林中の絵画のごとく毒茸
 からみたる山芋の蔓秋の暮

   昭雄
△菜箸を焦がし秋刀魚を裏返す
 岩魚焼く飴色に照る火吹き竹
△吹く風を散華経とし秋の暮
 幸せのまつただなかや初秋刀魚
 あの声はきっと妻なり茸山

   登美子
○焼き網のほつれし網目秋刀魚焼く
 新米に恵の雨の湯気上がる
 籠の鳥新米炊きたてもらひけり
 秋刀魚燃ゆこと知らぬ子の増えて
 秋の暮鸚哥せはしく餌をねだる

   一構
△秋の暮解けぬパズルをまたはじめ
 漁師らの向かふ鉢巻初秋刀魚
 秋めくと閉める窓辺で妻の言ふ
○窓枠に残る温もり秋の暮
△地下足袋の漢のひとり藁塚組める

   和子
△まだ婆と言ひ切れぬ身や秋刀魚焼く
 指先の蜻蛉の目玉よく動き
 山道にこぼれし栗を頂きぬ
 一葉の色の想ひや秋の暮
 週一では覚えぬステップ秋の暮

   健
 ワンルームマンション一尾秋刀魚焼く
 不景気や膳に小ぶりの秋刀魚のる
 多様性味をかみしめ秋刀魚かな
 季流れ寂しさ募る秋の暮
 秋の暮家路を急ぐ子供たち