第268回 令和元年5月12日
兼題 聖五月 花菖蒲

   利孟
 夫婦位牌の裏に享年弥生尽
 白神の不入の森や聖五月
 桜蘂降るや青玉婚の日に
 風に揺れ形の整ふ花菖蒲
 筑波山遠く新樹の屋敷林

   信子
☆珈琲に渦巻くミルク風五月
☆百咲いて百の直立花菖蒲
・噛めば鳴く子犬の玩具聖五月
 花種蒔く食す種まく畑の端に
 粛粛と令和に五月大日本

   聖子
△牛の仔のまなこまん丸聖五月
・風光るご飯ですよと母の声
・山の水引き入れ畑の花菖蒲
・頬杖で見あぐる空や花は実
・休耕の田を二枚占め花菖蒲

   美恵子
△聖五月白き小槌の蔵飾り
・街照らすヤコブの梯子聖五月
・道端に咲いて大輪花菖蒲
・放課後の埋まる図書席聖五月
・髪香る女子高生や聖五月

   巴塵
△本棚のうすき埃やらいてふ忌
 風のやみ紋黄蝶ゐる菖蒲園
 教会にタンポポ坊主聖五月
 立ち屈みよりそふ夫婦花菖蒲
 天中に老残の月菖蒲園

   良人
・野に畑に風と光の五月来ぬ
・山里に広がる棚田五月来ぬ
・菖蒲田の風紫の風起こす
 水漬く根に立身を落とす花菖蒲
 茎伸びて身の丈ほどの花菖蒲

   昭雄
・手をつなぐ恋のはじまり聖五月
・紫の袱紗の色に花菖蒲
・時刻む明治の時計五月闇
 すめろぎの訪ひきしコート花菖蒲
 転寝の妻の微笑み花菖蒲

   比呂
・鮎の稚魚両手掬ひに放ちけり
・春惜しむ降りて来さうな天女像
 鹿の子鳴く時空の果ての数へ唄
 子を生して長き微睡み聖五月
 ムツクリの音のいきさつ花豌豆

   敬子
・檜風呂に四肢を伸ばして春夕べ
・リハビリのゆらゆら体操若葉風
 再会の五人揃ふや長春花
 リハビリの帰りの坂や春の雨
 緑色の春のブラウス長寿なり

   ミヨ
・ご開帳の北向観音聖五月
・万緑に放る土器呑まれけり
 西日さす開かぬポストのどこぞふれ
 野花菖蒲耕地整理の区区の風
 梅雨空や硫気に耐へし千体仏

   木瓜
・藻刈舟腎の石取れ令和来る
・香のたちて出逢ひ嬉しき古茶新茶
 夏館思つたやうになる人生
 若返りの頬を打つ風五月来る
 大胆に開き隠さず花菖蒲

   雅枝
・病み上がり新緑ガラス越しに見て
・猫が仔を咥へていそぐ農具小屋
 聖五月ノートルダムの消防士
 罪のなき様に立ちいる花菖蒲
 菖蒲湯や首まで浸かり母思ふ