原 りょう 04


さらば長き眠り


2004/11/29

 拙サイト掲示板に、原りょうさんの私立探偵沢崎シリーズの新刊が出るという情報をいただいたのは先月末のことであった。前作からは実に約10年が経過している。未読だった『さらば長き眠り』を読む気になったのは、このニュースのおかげである。

 10年待ち続けた熱心なファンには申し訳ないが、自分は特に原作品の大ファンというわけではない。『さらば長き眠り』だけが未読だった理由は、長そうなので後回しにしていたというだけのこと。読む日が来るとは思わなかったなあ。

 400日ぶりに東京に戻ってきた沢崎を待っていたのは浮浪者の男。400日も何をしていたんだと思う間もなく、11年前の元高校球児の八百長疑惑を発端とした物語は走り出す。例によってその後の展開は予測不能。

 あんなこととこんなことがどう繋がるというのか。正直、緻密というよりはかなり強引な展開だ。一気に読み切らないとついていけなくなるだろう。実際、自分はしばしば読み返した。強引なのは本作に限った話ではないのだが、つっこみどころはシリーズ中最多。

 それでも最後まで読み通せたのは、本作に読者を引っ張る力があったから。引っ張る力とは、沢崎という男の個性に他ならない。改めて思った。物語がどうこうじゃない、このシリーズは沢崎の魅力がすべてなのだと。作られた「名探偵」には醸し出せない、生身の探偵の存在感。これは決して悪い意味じゃない。

 証言者の皆さん、沢崎に対してあっさり口を割りすぎな気がしないでもないが…沢崎が探偵として駆け引きに長けているからなんだよね、きっと。事件が終結し、証言者へのフォローも怠らない。これをキザだと思うかダンディズムだと受け取るか。

 これでようやく『愚か者死すべし』に取りかかれる…。ところで、東京を空けていた400日の詳細を番外編として刊行する予定はないのだろうか。



原りょう著作リストに戻る