石持浅海 07


顔のない敵


2006/09/02

 石持浅海さんのデビューのきっかけとなったのは、光文社文庫の一般公募アンソロジー『本格推理』である。『本格推理』に掲載された3編を含むという点で貴重な作品集だが、特異なテーマを扱っている点でも大いに注目される。

 全7編中、6編は対人地雷がテーマである。対人地雷に対する僕の知識は、報道される以上のものではない。しかし、軽々しくネタにしていいテーマではないとは思う。実際、石持浅海さんも資料を調べながらそう思ったという。ネタの使い捨てにならないように、対人地雷問題の深刻さや背景を、作中に織り込めないか苦心したそうである。

 短編という制約の中で、対人地雷問題の様々な側面を描いている。実によく練られているし、考えさせられもした。それでもやはり、対人地雷という社会的テーマがネタの域を脱していないと思う。大体にして、対人地雷除去という崇高な任務に取り組むNGOが、こんなに殺人事件に関係してしまっては本末転倒ではないか。

 本格推理と社会派推理は相容れないとは、以前からよく言われてきた。個人的に相容れないとまでは思わないが、両立させるのが難しいのは確か。プロの作家ならこのテーマで本格を書くのは避けるに違いない。それこそ地雷原に踏み込むようなものなのだから。

 だからこそ、少なくとも着想と意欲は評価されるべきである。当時の石持浅海さんがアマチュアだったからこそ、臆せずに書いてみようと思ったのだろう。

 プロデビュー後に書かれたものと合わせて、対人地雷のシリーズは全6編が書かれ、とりあえず完結しているらしい。繰り返しになるが、本格推理と社会派推理の両立は難しい。だが、けっして不可能ではないし、石持浅海ならできると思っている。いつの日か、対人地雷という終わりなきテーマに長編で挑んでほしい。

 唯一対人地雷に関係ない「暗い箱の中で」は、『本格推理』に初めて掲載された作品だが、収録すべきではなかった。いくら作り話でも、こんなひどい理由があるか。



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