宮部みゆき 49


小暮写眞館


2010/05/23

 2008年3月刊行の別冊宝島「もっとすごい!!『このミステリーがすごい!』」に、歴代1位作家のインタビューが掲載されていた。『模倣犯』で2002年版(2001年)第1位となった宮部みゆきさんは、ご自身を冷静に分析している。曰く、新鮮さではもう若い力に勝てないし、老練の技を見せるまでには至らない、それが今のわたしです、と。

 実際、あらゆる文学賞を取り尽くした宮部さんも、近年は話題に上ることが少なくなった。そんな中、本作は700p以上というボリュームで、改めて宮部みゆきらしさを追求していると言える。開き直ったというべきか、吹っ切れたというべきか。

 元々は写真館だった空家に引っ越してきた花菱一家。「小暮写眞館」という看板が残ったままなので、営業再開と勘違いされ、1枚の謎めいた写真が持ち込まれた…。

 全4話中最初の3話は、花菱家の長男・英一が1枚の写真について調査するというパターンが繰り返される。同級生のテンコやコゲパン(ひどいあだ名だ…でもそう書いてあるし)、英一曰く変わり者の両親、私立小学校に通う聡明な弟ピカ、そして花菱家に「小暮写眞館」を仲介したST不動産の面々と、個性的な脇役陣を配している。

 特に第1・2話はいわば王道的パターンと言えるが、写真に写っている関係者の個人的事情に立ち入りすぎな感が拭えないし、こういう概念を持ち込んだ点についても賛否両論があるだろう。並行して、花菱家やあの人物の複雑な事情がほのめかされるのだが、第2話まで読んだ時点ではあまり期待していなかったことを告白しておく。

 そして第3話。第1・2話は写真の解釈が問題だったのに対し、写真の意図が英一たちを悩ませる。脇役陣はさらに増え、「小暮写眞館」の元の家主の事情まで絡んできて、豪華絢爛。ピカと同じくらい聡明な牧田君、そのメッセージは難しすぎる…。

 最後の第4話。英一の父・秀夫の家出を皮切りに、花菱家の過去の事情などが一気に噴出する。そしてあの人のこと。ここに至ってようやくわかった。本作はすべて第4話のためにあったと。英一が過去と向き合い、振り払うためのステップだったのだと。

 正直冗長な気はしないでもないが、本作には宮部みゆきの今がぎっしりと詰まっている。僕が宮部作品に求めていたものは何か。その1つの答えが、本作にある。



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