つい最近、家中の端切れを集めてクマを作るのに熱中しました。私にとって、絵を描くことと布で形を作ることは同じでした。たまたま立体になったというだけのことでした。ところで、ものって作っていくうち、コツが分かってくるでしょ。絵もね、何年か仕事をするとやめてしまうのはコツが分かってしまうからだったと思うんです。上手になると、闘わなくなっちゃうじゃないですか。
例えば、10年描かせてもらった「ピンクハウス」の時代もそうなんですよ。最初は、洋服がうまく描けないから逃げてたの。あの服むずかしいんだもの。締め切りまであと何日ってギリギリのときまで描かないで。でも逃げてる間中しっかり考えているのです。本当にギリギリになって、必死に闘い始める。すると、できないと思っていたのに、ちゃんとできちゃう。そうやって描いてた。ところが、そのうちだんだんと、ヒョイヒョイ描けるようになってしまったんですね。ヒョイヒョイと描けるようになると、あの女の子の顔が、睨(にら)んだ怖い顔じゃなくなってしまった。やさしい顔になってしまったんです。そうしたら、もうだめでした。クマも10体目、いえ9体目くらいから上手に作れるようになってきました。それで、これ以上はだめ、できないって思った。
仕事だから、うまくなったほうがいいと人は思うでしょ。でも、人に魅力的だと思ってもらう仕事をするには、私自身が闘わねばならないのです。
「鳩よ!」1996年5月号より
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