スーツにスタンドカラーのシャツ、ブレザーにジーパン。英国調トラディショナルのスーツやブレザーを着くずす。

奥田瑛二さん。もともとおしゃれ人間なのです。長身にまとったコート姿が印象的だったとか、いろんな所からおしゃれ上手の噂が、伝わってきます。
「メンズのものも着るけど、例えばBIGIやMOGAの女モノを僕は、わりと着てるんですよ。ショーやコレクション用に作ったものは、モデルサイズに作ってあるので、袖丈も着丈もたっぷりめでしょ。ちょうどいいんですよね、これが。それに、まず男の人で同じものを着ている人間には出会わないでしょ。僕だけの着こなしだと思うと、すごく、うれしいじゃない」
大きめの女モノのジャケットやコートにパンツやシャツを合わせる。普通のメンズ物では出来ない、一味違う奥田さんならではのおしゃれの楽しみ方です。
スクリーンやブラウン管を通して受ける奥田さんのイメージは、少々、癖のある男。そして、少しばかり陰のある男。(もちろん、ご本人の名誉のために一言申し添えますと、普段の奥田さんは、もっと明るく闊達な男性では、ありますが)
デザイナーの金子功さんが、初めて手懸けた男モノ、”カールヘルム”の洋服を着てもらうことになったとき、金子さんがまず、奥田さんでイメージしたのは、”大正時代の洋行帰りの男”。
髭をたくわえていて、気障で。時にフッと淋しい目をするので、その目に魅かれて男に近つ゛いていくと、思わぬところで冷たくかわされる。少しくずれた翳りのある男。もっと、具体的に言うと、鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」や「陽炎座(かげろうざ)」の世界のイメージで、奥田さんに洋服を着てもらえば、と。
金子さんが選んだのは、スーツとジャケット。ツイードのスーツにエンブレム付きの黒のジャケットは、伝統的な英国調着こなしのアイテムです。
「こういったものに、ワイシャツとレジメンタルのネクタイを締める。ジャケットにフラノのパンツを合わせるというのは、それなりにおしゃれだけど、それじゃあ、あまりにまともすぎて面白くないでしょ。大人の男なら、やっぱりキチンとした服を、くずして着て欲しいですね」
金子さんのコーディネートは、思いきってシャツはスタンドカラーのものに変え、ネクタイははずす。シャツの衿もとのボタンは一つ、あるいは二つ開けて。(このボタンの開け具合で、おしゃれにもなるし、ダサクもなるのです)ポイントは、肩にはおったセーター。明るめの色を選んでアクセントにするというもの。
金子さんいわく、
「あたりまえのもの。デザインがビシッと決まっている服を敢えて着くずすには、相当、おしゃれの場数を踏んでなきゃ」
どうです、奥田さんの姿、ビシッときまっているでしょう。

ホームスパンのスーツ
ホームスパンのスーツ¥73,000、ストライプのシャツ¥17,000、ブルーのカシミヤアーガイルニット(ブラウス絵本P87で金子さんが着ているものと同じ)¥65,000、靴¥29,000(以上全てカールヘルム1985年秋冬物)
エンブレム付きモッサのジャケット
エンブレム付きモッサの黒のジャケット¥68,000、白いシャツ¥16,000、ジーパン¥13,800、蝶ネクタイ¥12,000(以上全てカールヘルム1985年秋冬物)

撮影・柴田博司 スタイリスト・金子功 ヘア&メーク・宮森隆行(CLIP)

クロワッサン1985年9月25日(No.189)「おしゃれの下手な中年男たちよ、もっと魅力的になれ」より

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