映画のページ

炎のジプシーバンド 地図にない村から /
Iag Bari /
Brass on fire

Ralf Marschalleck

2002 D 103 Min. ドキュメンタリー風の物語

出演者

Henry Ernst
(プロモーター)

Helmut Neumann
(プロモーター)

Fanfare Ciocarlia (バンド)

Marius (村の少年)

見た時期:2002年7月

ネタばれしても問題ないでしょう。

ジャンルを決めつけにくい作品です。ドキュメンタリー風なのですが、ドキュメンタリーと言ってしまうと、 所々にある演出された部分をどう説明していいか分らなくなります。全体的にはブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブの亜流で、ルーマニアのあるジプシーの村のブラスバンドの伝統、村の生活、レコーディング、コンサート・ツアーに至るまでのいきさつなどが描かれています。ザクセン出身のドイツ人がある日どこかでこの村の話を聞き、探し当て、村の女性と結婚し、子供ができ、村のブラスの演奏者を世界のコンサート・ツアーができるところまで導いたというサクセス・ストーリーです。

ドイツにはジプシーに関していろいろ複雑な政治的、歴史的背景があるので、批評しにくい作品です。こういう事情を考慮しないで口を利くなら、音楽的にブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブより何歩もひけを取っていると言わざるを得ません。キューバの演奏家は音、リズムにかなり厳格でした。最初のトーンを聞いただけで息をのむようなスリルがありました。こちらは気のいいおじさんたちが調子よくアップテンポで演奏しているので、結婚式のパーティーなどにはいいでしょうが、音に対する厳しさではキューバに負けています。

私は素人ですが井上さんの友達の中には音楽に関してもっとプロ級の耳を持っている人がいるでしょう。もし映画が日本にも来たら意見を伺いたいところです。

演出はブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのヴィム・ヴェンダースと同じです。これはパクリではなくて、音楽グループを取材するような映画を作る場合、あまり手法にバリエーションはないということです。どういういきさつでグループが成立したかを語る、練習風景を映す、家族の横顔を出す、レコーディング、コンサート、ツアーの様子を映すぐらいで、あまり他にできる事はありません。ドイツ人が作ったからこういう雰囲気になっている、とは言えるかも知れませんが、まじめな、ちょっとまじめ過ぎるぐらいの雰囲気が伝わって来ます。

理由は分かりませんが、地元の女性たちと結婚して幸せな家庭を持っていて、プロモーションも家族ぐるみでやっているヘンリーとヘルムートがほとんど笑いません。ドイツに長く住んで横目で観察していると、ドイツ人というのは結構ユーモラスで、自分たちも笑うのが好きなんですけれど。しかし2人は人生をこのバンドに賭け、ルーマニア語を習得し、契約の話、レコーディングの打ち合わせなど、ルーマニア語でこなしています。これは非常に友好的な態度だと言えます。

どんなにきれいな事を言っても欧州にはやはり国のランクみたいなものがあって、ドイツは上の方、ルーマニアはあまり上でない所に位置しています。こういう力関係があると、弱い立場の国の人が、強い立場の国の言葉を勉強する方が、反対の場合より多くなります。そういう現実を知っていると、ベルリンの中心街からルーマニアのどこかにドイツ人が電話して、そこでルーマニア語が使われているというのは言及に値します。

音楽的には上に書いたように、点がちょっと辛くなります。しかしバンドがバスでいろんな都市を回っている様子などからは、家庭的な楽しさが伝わって来ます。村で使っている楽器はかなり古くてでこぼこですが、ベルリンや東京でコンサートをやっている時は、やはりきれいに磨いたぴかぴかの楽器を使っています。東京にも行きました。渋谷の大道で演奏を始めようとして警官ともめます。欧州ではあまりうるさい事を言われず道路で音楽を演奏して、お金をもらうことができます。よく行われていますし、役所もわりと簡単に許可を与えているようです。日本はそのあたり、道路というものの考え方が違うので、欧州のように気軽にというわけには行きません。

映画制作にあたって補助金が出ています。最近徐々に調子が上がって来ているとは言え、ドイツの映画制作が補助金無しで成立するケースはわずかです。ドキュメンタリー風の作品、これといった大きなドラマがない作品、見せられるまで観客は知らなかったというようなテーマでは、まだ一人立ちは難しいです。それでもこの10年の動きはその前の20年に比べると「活発化して来た、成功する作品も出て来た」と言えますし、もっと重要なのですが「楽しい作品が出るようになって来た」と言えます。日本に行くのはポルノかインテリ過ぎて理解できない作品ばかりという時代はとにかく終わりました。めでたいことです。

参考作品: ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブモータウン

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画一般の話題     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ