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パニック・ルーム /
Panic Room /
The Panic Room

David Fincher

2002 USA 112 Min.

出演者

Jodie Foster
(Meg Altman - 離婚したばかりの母)

Kristen Stewart
(Sarah Altman - メグとスティーヴンの娘)

Patrick Bauchau
(Stephen Altman - メグの前夫)

Forest Whitiker
(Burnham - 泥棒)

Jared Leto
(Junior - 泥棒)

Dwight Yoakam
(Raul - 泥棒)

Ann Magnuson
(Lydia Lynch - 不動産屋)

見た時期:2002年6月

要注意: ネタばれあり!

これだけいい人材が集まったのになぜ上手く行かないのか・・・。

トラブルに見舞われた作品だそうです。ニコール・キッドマンが降り、代役でフォスターが演じたそうです。この役は確かにキッドマンの方が似合います。フォスターには知的だ、勇気があるなどというイメージが付きまとい、しかも最初から緊張した表情で登場されてしまうと、どうもぴったり来ません。フォスターは時々非常に魅力的な笑みを見せますが、コンタクトのように緊張したような、凍りついたような表情を見せる時があります。今回もこのスタイルで来ました。当然かも知れません。不本意な離婚をしたばかりで、娘と一緒に新しい家に越して来て、新居ではまだ荷物も片付いていません。お金は充分あるようですが、冷え冷えとした雰囲気が漂います。そこへ予想もしない押し込み強盗が現われます。娘を守りながら強盗を追っ払わなければなりません。ここから女手一つで知恵、勇気をしぼり出して、恐怖、時間との戦いが始まります。

そこへフォスターが出て来ると、《どうせ彼女ならやり遂げるだろう》と思えてしまうのです。ギャングの方は統一が取れたティームではないので、計算が狂うことがあります。フォスターならそういう隙も狙うでしょう。キッドマンですと、うちひしがれた母親、子供と2人で新しい生活を始めるところだけれど、まだ 途方にくれているという役を上手に演じるのではないかと思います。ここで観客の同情を集めておかないと後が続けにくいですし、どうせ助かると分かっていても、観客をはらはらさせなければ行けません。

ばらしませんが、話の途中でさらに状況を難しくする事実が明るみに出て、母親の負担は増えるばかり。筋書きでは《そのあたりからキッドマンが居直って娘と自分を守るために敢然とギャングに立ち向かう》という風に考えてあったのだと思います。フォスターは最初から強そうで、私は《いつやっつけるのか》と、そればかり待っていました。

舞台になる家は泥棒が入ったおかげで荒らされてしまいますが、そういう事件がなければなかなか素敵な構造になっています。今時のアメリカにこんなに広いアパートがあるのかと感心するほどです。前の持ち主が凝り過ぎて、防犯用にパニック・ルームというのを作らせ、そこに入ると外からは侵入できないという設定になっています。ですからこの部屋も主演の1つと言えます。人間が中に住める金庫のようなものです。そういう部屋を持つ豪華な家を映すカメラが良くないです。観客が自分で考えればいいようなシーンでカメラが観客の思考を誘導します。「放っといてくれ」と言いたくなってしまいます。撮影に凝り過ぎて過干渉になっています。

ここで少し内容に突っ込んだ情報が出ます。見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

悪党は引っ越して来たばかりのメグの持ち物を狙っているのではなく、家にあらかじめ隠してあった高価な遺産の品を回収に来たのですが、人が入居しているので予定が狂ってしまいます。泥棒の1人は遺産の関係者、もう1人はパニック・ルームの設計に携わった人。3人目は予定に入っていなかった人物。ティームワークの悪い3人組の悪党役を引き受けた男優も良さが全然引き出されていません。仲間の折り合いが悪いというのは、スリルを増すので構わないのです。そして俳優たちは特に手を抜いて演じているわけではなく、脚本に沿ってちゃんと仕事をしています。この3人、上手に使えばぞっとするようなスリルも出せたかもしれないと、ちょっと惜しく思います。

ジャレッド・レトはレゲーの歌手のような出で立ちで、カッとしやすくいつ何を始めるか分からない若手ギャング。この押し込みのきっかけを作る人物です。きれいな顔の男が悪役をやるという発想は悪くありません。フィンチャーがファイト・クラブに起用した人で、その後レクイエム・フォー・ドリームでやや悪役に近づいています。しかしパニック・ルームでは彼の個性が出切っていません。フォレスト・ウィティカーについてはもう諦めていました。この人世間の評判は非常にいいのですが、私が見た映画ではどこが良いのか全然分かりませんでした。ソフティーと呼ばれる、人当たりが柔らかく、親切そうな、気のいいおじさんタイプで、私生活で付き合うには良さそうな人ですが、俳優として演じる役としてはどうもふにゃっとして行けません。完全に諦め切っていたら、出ました、フォーン・ブースが。ここで彼は思慮深く、人間味がありながら、きりっとした警部を演じています。今までのようなちょっと下を向いた弱そうな目線でありながら、頭はしっかり働いているという、将来はコロンボかというようなキャラクターです。パニック・ルームはそれより前の作品で、冒頭から《こいつは本当の悪党ではない》とばれてしまうような役です。

頭にも書きましたが、これほど何かやれそうな俳優、スタッフが集まったのに、なぜうまく機能しなかったのでしょう。皆がニコール・キッドマンを期待していて、それが外れたから気が抜けてしまったのでしょうか。キッドマンの代わりとして、メグ・ライアンを呼んで来たらどうだったか。ふと考えてもみました。主人公がメグという名前だったからと、ただそれだけの理由です。意外とそれ良かったかも知れません。3分の1しかコメディーを演じていないにも関わらず、ラブ・コメディーの女王というレッテルを貼られてしまい、本人はいささか迷惑していたようです。その反動でか、最近セックス映画を撮ったのですが、世間の評判は今一つしっくりいかないようです。いきなり純愛のアイドルから濃厚なセックスでは、ファンがついて来られないのでしょう。もし、メグがこの作品のメグを演じたら良かったかも知れません。ちょっと弱そうな出だし、子供が危機に陥ると俄然張り切り始める女性、という風にすればブ・コメディーを脱皮しつつ、かつてのファンににあまり嫌悪感を抱かせずに移行できたかも知れません。しかし私は映画会社の契約とか、系列などに詳しくないので、そんな事が可能なのかは分かりません。

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