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2003 Japan 116 Min. 劇映画
出演者
ビートたけし (市)
浅野忠信
(服部源之助 - 浪人)
夏川結衣
(しの - 服部の妻)
大楠道代
(うめ - いなかのおばさん)
ガダルカナル・タカ
(新吉 - うめの甥、ばくちをうつぐうたら)
大家由祐子
(きく - 元金持ちの娘)
橘大五郎
(せい、せいたろう - きくの弟)
岸部一徳 (銀蔵)
石倉三郎 (扇屋)
柄本明
(飲み屋のおやじ)
見た時期:2004年6月
後記: ドイツ語のタイトルが判明したので書いておきますが、間違っていますねえ。確か座頭市の職業はあんま。今風に言うと風俗でないマッサージ師です。世間的なステータスから言うと侠客。武家の人間ではありません。どちらかと言えばやくざの方向。外国では今でも刀を振り回す日本人は全部侍と思われていますねえ。ドイツ語のタイトルを直訳すると、《座頭市 - 盲目の侍》です。
一緒に見たドイツ人が、角砂糖1個くれて、「さとういち」だって。腐っちゃう、こういう駄洒落を簡単に作られてしまうと。これで終わりかと安心していたら、「この前の砂糖は、ふるさと」なんて追い討ちをかけて来る。
ベルリンという町は北野が大好きなので、座頭市はそのうち来ると思っていました。従来の北野作品とはやや違い、エンターテイメントを強調してあるというので、私も楽しみにしていました。上映は日本語で、ドイツ語の字幕がついていました。
40年ほど前に始まったシリーズのリメイク。元のシリーズは実に26作に及んでいます。ざっとご紹介。
・ 座頭市物語
・ 続座頭市物語
・ 新座頭市物語
・ 座頭市兇状旅
・ 座頭市喧嘩旅
・ 座頭市千両首
・ 座頭市あばれ凧
・ 座頭市血笑旅
・ 座頭市関所破り
・ 座頭市二段斬り
・ 座頭市逆手斬り
・ 座頭市地獄旅
・ 座頭市の歌が聞える
・ 座頭市海を渡る
・ 座頭市鉄火旅
・ 座頭市牢破り
・ 座頭市血煙り街道
・ 座頭市果し状
・ 座頭市喧嘩太鼓
・ 座頭市と用心棒
・ 座頭市あばれ火祭り
・ 新座頭市・破れ!唐人剣
・ 座頭市御用旅
・ 新座頭市物語・折れた杖
・ 新座頭市物語・笠間の血祭り
・ 座頭市
北野の座頭市に至るまでに膨大な数の劇場映画が作られています。主演はずっと勝新太郎。
このほかにテレビ・シリーズもあり、60年代、70年代は座頭市が日本の日常生活の一部でした。勝新太郎の破天荒な人生は有名ですが、彼は座頭市のみで生きていたわけではなく、他のシリーズもありましたし、単独の作品でもいい味を出していました。元々は三味線の家の出らしいので、寺内たけしになってもおかしくなかったのですが、音楽界には長くとどまらず、映画界に入りました。50年代からやっていたようですが、調子が出て来るのが中村玉緒と結婚した頃から。座頭市シリーズと共にどんどん上へ。結局かみさんに迷惑かけっぱなしの人生でしたが、映画人としては成功。
私は座頭市の追っかけはやっていませんでしたが、見た作品はいくつかあります。ですから座頭市フレーバーは知っています。
という前提で考えると、北野がリメイクする時には大変なプレッシャーがあったかも知れません。なにせ、寅さんと同じぐらい人に知られ、好かれているシリーズですからね。おなじみの監督というのが数人いて、特に三隅、安田が常連だったようです。最後の方は勝新太郎もメガホンをとっています。
もう何本も撮っている上に俳優としての経験も長い北野が座頭市をやるということに異存はありませんが、これまでのイメージがあるので本人はやりにくかっただろうなと思いました。そういう難しい前提条件を考慮すると、それにしては上手に作ったな、と思いました。楽しかったです。
ちょっと太目に見える勝新太郎に比べ細身の北野。髪がブロンドと世間では大騒ぎしていましたが、私には白髪に見え、さほど違和感はありませんでした。座頭市に必要なのは市に充分対抗できる悪役。それをよく考えてキャスティングしたと見え、満足。岸部一徳で渋さを出し、浅野忠信で狂気にも似た怖さを出し、その浅野忠信と同じぐらいの使い手の市が登場、と見せ場が上手に作られています。隅に置けない柄本明もちゃんと隅に配置してあり、悪党に物足りなさはありません。
斬りまくって血飛沫というのが座頭市の見せ場ですが、そこは適度に調整し、他に見た映画に比べ、 残酷さを押さえてあります。北野がエンターテイメント性を強調したのも分かります。画面で「君、それ、映画なんだから、マジに取っちゃ行けないよ」と言っています。映画での残酷描写について考え過ぎて、却って暴力抜きでもっと残酷な作品を作ってしまったミヒャエル・ハネケとは逆の路線です。殺陣のベテランの北野がステージでやるパーフォーマンスを画面で取り入れ、ある種の規則、「君は斬られたんだからここでばったり倒れるんだよ」みたいな面があります。血の色を赤にするか、白黒映画を撮って墨汁にするかもおもしろい問題です。北野はあまり血らしく見えない赤にしています。映画が白黒で、撮影の時どんな色でやっているのか分からない映画でも驚愕の流血シーンというのは撮れます。その方が我々の創造力をかき立てるので、人によってはその方が残酷と感じる場合もあるでしょう。私たちは市は居合抜きの名手で、あの盲人の杖は実は・・・という規則も知っていますから、今か今かと斬り合いのシーンを待っています。知らないドイツ人はビックリするかも知れませんが・・・。
必殺仕掛け人、必殺仕置き人などのコンセプト と同じで、《かわいそうな目に遭った人がいる、復讐の手助けをする》といった筋。単純で分かり易いですが、他の映画やテレビ・シリーズと違い、かわいそうな目に遭った人が死んでから、仕置き人が遺志を継いで復讐に乗り出すという筋ではありません。そういうタイプの話を見るたびに私は《死んでしまったら、後で復讐しても本人に分からないじゃないか》と怒っていたのです。テレビや映画で観客の涙を誘うのにはいいですが、私はいつも《あれじゃ、遅過ぎる》と思っていたのです。そのあたりは北野の筋では助かった人がこれから楽しく暮らせるというハッピーエンド。ハッピーエンドもたまにはいいことです。全体の印象はマカロニ・ウエスタン風で、一匹狼がある町に来たところでそこのトラブルを解決する羽目になるという、巻き込まれ型の話です。マカロニ・ウエスタンは日本の 映画からも影響を受けていますから、北野は日本の映画の伝統を直接受継いだと言った方がいいのかも知れません。
浅野が頑張ってしまい、斬る度に血が流れるので、血生臭い話です。それで息抜きができるように、所々愉快なシーンが盛り込んであります。日本の映画 を見ていて、北野映画も知っていると、《あっ、来るぞ》と分かるジョークもあるのですが、ユニークで《この人がこんな事をやるのか》と感心したのが、田んぼで野良仕事をしている男たち。音楽に合わせて鍬を動かしています。ラース・フォン・トゥリアのミュージカルにも似たようなシーンがあったと記憶していますが、北野の方が挿入の仕方が良かったです。
あまり深くないストーリーですが、いつものように市が旅をしています。按摩の仕事をし、息抜きにばくち場へ。ウエスタンのように悪に牛耳られた町へ迷い込みます。ボスが他のボスの乗っ取りをどんどん進めている最中。やくざのボスでも仁義というものがあり、ルールを守って悪い事をやっていたのですが、そこへもっと悪い奴が来るのです。確かブレードもそんな話でしたねえ。同じ町に2人の美人芸者が旅して来ます。ただの芸者ではなく、人を殺めたりもします。何か謎がありそう。市は賭場で知り合った男と一緒に勝ちまくり、儲けた金で女を呼んで・・・というところだったのですが、娘2人が妙な事をするのを見破ります。大事には至らず、2人からわけを聞きます。ここからは必殺仕掛け人風の筋運び。10年ほど前は金持ちの家の子供だった2人。ある日盗賊に襲われ一家皆殺しの目に遭います。かろうじて生き残り、生きて行くためには援助交際と踊り、三味線で・・・という悲しい身の上話。市たちは納得しますが、手がかりが少ないのですぐには動けません。適度にご都合主義が入りますが、2人が恨んでいる男たちと、町で悪事をやり放題のワルに関係があって・・・最後は復讐劇で終わります。
これだけではあまりに単純だというので、浅野忠信のエピソードも入れてあります。この人は《いち》に縁があると見え、殺し屋 1 に続き今回は座頭市です。彼は元々は殿様のいるれっきとした侍でした。ところがさすらいの浪人が現われ、1番できるはずの服部も軽くやられてしまうのです。名誉を傷つけられ、浪人に。奥方と流れ歩いて、にっくき浪人を見つけ出し、恨みを晴らさなければお天道様に顔向けができないという窮地。加えて奥方が病弱。金があれば治療ができるのに、ということで旅をしては仕事探し。やくざの用心棒などが見つけ易いアルバイトなので、剣術の特技を生かしてというわけです。奥方はしかし亭主の人斬りで自分を養ってもらうということについて行けません。ちなみにこの作品には用心棒、やくざ、浪人、侍など外国人が喜びそうなニッポン用語が次々出 て来ます。
ちょっと気になったのが木刀。殿様の屋敷の中の剣術シーンで、真剣でなく木刀でやりあい、負けた方がバンバン叩かれているのですが、竹刀でなく木刀ですと、人は死んでしまうのではないかと思うのです。たとえ木とは言っても日本の木刀はバランスを考えて作られていて、さほど大きな力を入れなくても背骨ぐらいは軽く折れてしまうのではないかと気の毒な俳優の心配をしてしまいました。
わりと満足したのは、ただ市が悪人に牛耳られている町を掃除するだけではなく、しっかりカムフラージュされて10年間隠れていた男を見つけ出すシーン があったからです。エンターテイメントだからと思ってぼんやりして見ていたのですが、結末に近づき「あれはどうなってんだろう」と思っていたら、もう1つ秘密が隠れていたのです。しかし最後市の目が実は見えたというのはちょっとねえ。あれは止めておいた方が良かったかとも思います。全体としてはやや弱めの作品で、勝新太郎の方が骨太という感じがします。しかし2時間楽しんだかと聞かれれば、まあ、楽しかったと言えるでしょう。
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