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2004 HK 88 Min. 劇映画
出演者
李心潔/Angelica Lee
(馮子清/Chi Ching - 新婦の付き添い、事件の被害者を目撃)
Hong Dou Liu
(馮子清の母親)
Candice Chan (花嫁)
Carlos Koo
(新郎新婦の介添え人)
林嘉欣/Lam Kar Yan
(孫玲/Suen Ling - ホテルの事件の容疑者)
許志安/Andy Hui Chi-On
(李偉民/Raymond - 馮子清の恋人で、孫玲の愛人)
黄浩然/Raymond Wong
(Ah-Keung)
廖啓智/Liu Kai-ch
(Lee Wah-Biu - 刑事)
文頌嫻/Annie Man
(Ah-Shan)
周永恆/Roy Chow
(Chi Ming)
見た時期:2004年8月
井上さんが緑の掲示板で触れていた作品です。
ちょっと前に気合の入っていない作品を2本ご紹介しましたが、ここからまたテンションを上げましょう。
テンションを比較すると、今年は韓国の作品の方がハラハラ、ドキドキします。アジアの作品の中ではカオマは中程度の出来。お粗末という意味ではありません。こういう作りの作品はドイツ人にあまり高く評価されませんが、私は見ていて満足しました。スケジュールの配置が良かったこともあります。出たのは2日目。1日目はオープニング作品と追加の1本だけですから、言わばカオマは本格的に始まった初日に出たようなもの。そういう意味ではちょうど良かったです。その後にかなりテンションの高い作品、特に拷問や肉体的にきつそうな作品も並びますので、スッキリ話が進み、あまりえぐいシーンの無いカオマを最初に見ておいて、徐々にエスカレートという趣向は正しい判断かと思われます。私はそのほかに香港のビルやホテルの様子、住宅、人の服など、町の様子も楽しめ、その点でも良かったと思っています。
作品のテーマは臓器移植、金持ちと貧乏人、女性蔑視、他人との同化などですが、しつこくなる手前で止まっており、えぐいという印象にはなりません。
臓器移植の問題は色々な映画で取り上げられていますが、ここではその辺の人を襲って勝手に内蔵を取ってしまう輩がいるという設定になっています。薬品で意識不明にしておいて勝手に取ってしまうのです。そこまでやっておきながら命を奪ってしまうことはありません。いろいろ大変とは言え、腎臓は1つあればとりあえず生きられます。
金持ちと貧乏人というテーマは雑誌などではしつこ過ぎると批判が出ています。私はそれほどしつこいとは感じませんでした。両者の間にいくら友情が生じても、橋を架け完全にお互いを理解ということは難しいです。金持ちが財力を使って援助しようとしても貧乏な方はプライドを傷つけられる場合もありますし、逆にどんどん欲を出されて際限無くぶったくられるということもあります。子供の頃から何不自由なく育っている人はおおらかでいいかも知れませんが、人の感情に無神経な振る舞いが出て来ることもあるでしょう。逆に毎日の生活にあくせくしたことがない人は、アイデンティティーの問題に苦しんだり、足が地に付いていない、人間の事が全然分かっていないなどという批判に晒されることもあるでしょう。お金だけの問題ではなく階級問題がまだ根強く残っている欧州ではこのテーマは理解し易いはずです。
今年のファンタでは女性蔑視のシーンも目立ち、時代が変わったなあと感じさせられました。せっかく20年かけて勝ち取って来た権利、社会の認識が逆行し始めているのが見える時があります。そういう風潮ですから、カオマで男性の身勝手が描かれ、それを恨む女性が主人公というのは、逆行に逆行。引っ込んでしまう男性のおかげでトラブルになってしまう女性たちとか、女性を欲望の対象としか見ていなかった男性が生んだ悲劇という捉え方の作品、このところ欧米では減っている視点がアジアの作品にはありました。 主人公と婚約中の男性は尊敬の念を抱いている婚約者と、セックスの道具としてしか考えていない貧乏人の女性にそれぞれはっきりとした態度をむき出します。それが結末に向かって複雑な動き、悲劇を生み出して行きます。その辺の図式がはっきりしていて私には分かり易かったです。
私の理解の範囲を越えてしまうのですが、映画の中だけでなく日常生活にも自分という存在を白紙、空っぽにして、他人に100%同化しようと試みる人がいるようです。そういう人に出会ったことがあり、《自分のエゴを捨てるのはいいけれど、アイデンティティーまで捨ててしまった人間が長く生きていけるのだろうか》とマジで考えたことがあります。主人公の間ではそういう心理状態が生じ、ここから事件は意外な結末に向かいます。人に極端に同化しても長く生きる方法を思いついた主人公、ここは予想を裏切るユニークさです。
というわけで、いくつかの重要な、しかし決して多過ぎないテーマを上手にミックスして意外な展開を見せる作品です。意外さの度合いは結構大きいのですが、気張らず、大げさにならず、上手に流しています。
友人の結婚式がありホテルにいた馮子清は酔っ払って廊下を歩いていて血まみれの女性にばったり。この女性は泥酔させられ、意識を失っている間に腎臓を片方取られ、気づいたら氷の入った風呂桶の中。そこから這い出して来て、助けを求めるところでした。
保安カメラに映っていたので、間もなく容疑者孫玲が浮上。取調べ中に孫玲が自分は李偉民と肉体関係があると言い出したため、警察はその痴情関係のゴタゴタだろうという処理。どういうわけか孫玲は逮捕されることも無く、職場に戻っている不思議。
馮子清は李偉民と婚約のような関係にありながら、腎臓を患っているため性生活は無理。李偉民はその憂さを孫玲で晴らしており、孫玲に対しては肉体的な関心しかないという関係。このバランスがホテルの事件以降崩れ始めます。馮子清は孫玲に命を救ってもらうような出来事に遭遇し、自分の事情もかんがみ、孫玲とは対立しません。これまで半ばヤケクソで暮らしていたのも孫玲の登場で気持ちが妙におさまり、友情すら沸いてくるという、常人には理解のできない状態になって行きます。それまでは友人や家族がいても孤独だったのでしょう。
孫玲はと言えば、これまで恵まれない環境にいて、学業は中断、母親は事故で意識不明のまま入院中、頼れる親戚はいない様子。先輩の李偉民との肉体関係では尊厳ゼロ、体のみを求められるため、落ち込む毎日。逆に馮子清が優しくしてくれるので、妙な事になっています。
こういう中馮子清には違法ルートの腎臓提供の連絡が入って来ます。金持ちなのでお金は十分(とは言うものの、アメリカではドナーが身内にいて、あとは手術するだけとなっていても1000万円ほどかかるのだそうです。金持ちにとってもそう安くはありませんねえ)。馮子清の血液型がまれなためほとんど諦めていましたが、馮子清に合う臓器が見つかったという連絡。ここから恐怖の展開になります。
もっと良い作品にできるのにという声は時々聞こえました。優秀賞は無理かも知れませんが、敢闘賞ぐらいはあげてもいいかと思います。事件の筋はわりと単純ですが、心理状態が屈折しているというのが見せ場。その辺は丹念に作ろうという努力が見えます。欧米でリメイクしてもいいかと思えるような作品です。うら若い女性というのを止めてケイト・ブランシェットやケイト・ウィンスレットを使ったらかなり行けるのではないかと思います。口数の少ない謎の男はノーマン・レーダスにやらせ、ミッシング・ハイウェイの敗者復活戦に持ち込んではどうでしょう。・・・などと勝手な事言っていますが、捨てる所より拾う所のある作品です。
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