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2005 USA/D 109 Min. 劇映画
出演者
Kristen Bell
(Mary Lane - 純情うら若い女性)
Christian Campbell
(Jimmy Harper - 純情な若者)
Alan Cumming
(講師、Goat-Man、大統領)
Steven Weber
(Jack Stone - やくざ、George Washington)
Ana Gasteyer
(Mae Coleman - ジャックの情婦)
John Kassir
(Ralph Wiley、Uncle Sam)
Amy Spanger
(Sally DeBains、自由の女神)
Stephen E. Miller
(Paul Kochinski - ポーランド系の聴衆)
Neve Campbell
(Miss Poppy - ウエイトレス)
Robert Torti
(キリスト)
John Mann
(悪魔)
Christine Lakin
(ジャンヌ・ダルク)
Ross Atley
(シェークスピア)
見た時期:2005年12月
2005年ファンタ参加作品
2005年ゲイ映画祭参加作品
監督の名前からしてふざけていますが、この作品は1936年にマジで作られた Reefer Madness のパロディー版リメイクです。オリジナルを見ていないので、どこまで真似したのかは不明。リメイクはミュージカルで、ファンタとしては珍しいタイプの作品です。ファンタに出た作品の一部が年末に行われるゲイ映画祭に登場することがあるのですが、Reefer Madness も出ました。ベルリンに住んでいると「ゲイだ」、「それがどうした」という感覚になってしまうので、目立ちませんが、確かにゲイの人が喜びそうなシーンが無いわけではありません。しかしゲイはテーマの中心ではありません。
「この作品が日本へ行くか」と聞かれると、「まず無理だろう」という答になります。私も薦めていいものやら迷ってしまうのです。エンターテイメントとしてはかなり出来が良く、気合十分の作品なのですが、日本の法律と摩擦が起きることは間違いありません。吸っている、いえ、扱っているテーマがマリファナで、全編スパスパ、まるでスモーキング・ブギのように吸いまくるシーンばかりです。煙草すら吸えない私には関係の無いテーマなので、他人事と思っていればいいのですが、この作品が税関でストップしてしまう可能性は大。「マリファナだ」、「それがどうした」というわけには行かないでしょう。
ドイツはマリファナは一定の制限の中で吸える国なので、こういう映画が来ても警察が乗り出して来ることはありません。しかしマリファナがその先の麻薬につながるきっかけを作ってしまうから、入り口を制限するという考え方をする国があってもおかしくないので、そういう国がこういう映画の輸入を好ましく思わないということは納得が行きます。
残念なのは、この映画気合が入っていて、出来がいいという点。オリジナルの映画が目指したマリファナ撲滅キャンペーンをおちょくって当時の政治をからかっているのですが、全編ほとんど歌。アメリカというのは時々禁酒法のような物を作って極端なキャンペーンをやりますが、そういう風に反マリファナキャンペーンを始めようとしたらしいのです。この辺はオリジナルを見ていないので、伝聞です。
ある市民集会で講師が映画を見せながら市民にマリファナがいかに有害かを教え、子供たちをマリファナから守ろうと説明するというのがリメイクの方のストーリーです。見せられる映画の中にマリーとジミーという若者が登場し、マリファナのおかげで2人にいかなる悲劇が襲ったかを2時間弱かけて説明するのです。観客がその大袈裟さ、ばかばかしさを笑うようにできているのですが、こういう風に禁止されてしまう内容が何か他の事だったらと思うと複雑な気分で、私はあまりアハハと笑えませんでした。
出来が良いと言うのはミュージカルにしたところ。現代のアメリカにもこんなにたくさん才能のある俳優がいるんだと、層の厚さに改めて驚かされました。誰がクリスチャン・キャンベルなんて男を知っていますか。ほとんど誰も知らないと思います。そのクリスチャン・キャンベルが主演のジミー。クリスティン・ベルなんて名前も私は聞いたことがありませんでした。その彼女がロミオとジュリエットならジュリエットに当たる役。そこへ悪党のジャック、情婦のメイ、もう1人の女サリー、男ラルフが絡んで、純真な若者ジミーとマリーをマリファナ地獄へ連れ込むという話です。
歌の上手さに圧倒されたのがクリスティン・ベルとアナ・ガスタイヤー。ベルのソプラノはかなり上まで行き、キャンベルのテノールと上手くハモります。クラシックな発声もできますが、ブルースを歌わせても行けそうな歌いぶりです。アナ・ガスタイヤーはクラシックでなく、ポップス系の発声ですが、オリビア・ニュートン・ジョンを横に押し出してしまえるぐらいの実力です。この2人が特に上手いと思うのは、音程をはずさない、声にパワーがあるというだけでなく、舞台で歌うと他の人が全員脇役に見えるぐらいの歌いぶりだからです。こういう2人が出てしまったので、他がやや不利ですが、男性3人も力量はかなり。そしてサリー役のエイミー・スパンガーも鼻の差で2人の女性に差をつけられただけで、レベルとしてはかなり上の方を行っています。そういう人たちをさっとかき集めてテレビ映画を作ってしまえるぐらいの国、それがアメリカのショービズなのだと改めて感心したところです。
無論ミュージカルなので歌だけでなく踊りも出て来ます。普通は通り一辺のミュージカル的な演出ですが、クリスチャン・キャンベルの妹、ネイヴ・キャンベルが出て来るシーンは本格的なダンスです。彼女の踊りの実力はバレー・カンパニーで紹介済み。その他にファンタジー・シーンでエキゾティックな踊りのショーがあります。普通はこういうシーンはばかばかしくて本気で見ないのですが、この作品ではインド映画の踊りのシーンをヒントにしたらしく、楽しくできています。
日本にこれだけの実力があるかと問われると、現代劇はここまでは行かないが上昇中とは言えるかも知れません。頑張っている人もいるらしく、歌も含めて若い人の発声、発音をもう少し何とかすれば、踊り、アクション、衣装、舞台装置などではアメリカを追い越さないまでも、比べて恥ずかしくないレベルに向かいつつあるように思います。年配の人には発声の問題をクリアした人もいるようです。伝統芸能の方はその辺を全部クリアしてできのいい舞台を張れる人ばかりで、歌舞伎は何を隠そう、サーカス、アクション付きのミュージカルであります。台詞を理解するために古典乙一から勉強し直さないとダメというのが若い層に取って難しい問題ではありますが。アメリカに比べ層の厚さでは負けるかも知れませんが、60年代、70年代にミュージカル、ミュージカルと騒いでいた人たちのミュージカル・コンプレックスは克服できたのではないかと思います。
さて、Reefer Madness の方ですが、日本にこれだけの人材を紹介するためには、何か法律と摩擦の起きないテーマを探して撮り直すしかありません。ダンス・シーンや講義のシーンで大勢の人が必要だったので、出演者数は多いです。しかし予算はきつかったのか、1人で2役、3役やっている人もいます。この作品にはパロディーであるからこそミュージカルで輝くという相関関係もあり、大メロドラマをマジにミュージカルで演じたらアホらしくて見ていられないかも知れません。というわけでこの作品をどうやって紹介したらいいんだろうと最初から最後まで悩み通しでした。
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