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ファイヤーウォール /
Firewall

Richard Loncraine

2006 USA 105 Min. 劇映画

出演者

Harrison Ford
(Jack Stanfield - 銀行のコンピューター・セキュリティー担当社員)

Virginia Madsen
(Beth Stanfield - 建築家、ジャックの妻)

Carly Schroeder
(Sarah Stanfield - ジャックの娘)

Jimmy Bennett
(Andy Stanfield - ジャックの息子)

Alan Arkin
(Arlin Forester -銀行の頭取)

Robert Patrick
(Gary Mitchell - 銀行の重役)

Robert Forster
(Harry - ジャックの同僚)

Mary Lynn Rajskub
(Janet Stone - ジャックの秘書)

Matthew Currie Holmes
(Bobby - ジャックの秘書にデートを迫る銀行員)

Paul Bettany
(Bill Cox - 悪漢)

Nikolaj Coster-Waldau
(Liam - ビルの手下)

Vince Vieluf
(Pim - ビルの手下)

Kett Turton
(Vel - ビルの手下、PC技術者)

Vincent Gale
(Willy - ビルの手下)

Eric Keenleyside
(Alan Hughes - ジャックの賭けの負債を催促に来る男)

見た時期:2006年4月

1番最初に私はハリソン・フォードのファンではないとお断わりしておきましょう。しかし映画界にこういう大スターがいるのは別に邪魔だという気もしませんし、人には色々な役目があるのだろうという風に考えています。

ファイヤーウォールはハリソン・フォードのハリソン・フォードらしい作品。3月号の某有名映画雑誌には「ベテランらしく、実生活でできない事をスクリーンではできるように演技する男」と誉めてありました。ベタニーはようやくEメイルが扱える程度、フォードは完全なPC音痴で、2人ともサーバーのセキュリティー管理などという事は全く分からないそうです。私といい勝負です。(私たちと共にあるという気がするではありませんか。親近感がわいて来そうです。)監督が専門家を呼んで来て、クラッシュ・コースをやり、その結果フォードはどうにかああいう箱を見てどちらが前、どちらが後ろか見分けがつくようになったとのこと。これはかなりアンダーステートメントだとは思いますが、フォードがキーボードを叩くシーンなどはスタントを使っている可能性があります。

実際にファイヤーウォールを見てみると、2人がPCに弱くても、台本を読んでいれば成立するストーリーです。それなのに専門家を呼んでクラッシュ・コースというのは2人とも努力賞。ベタニーはあの目を生かして冷血漢を演じれば良く、フォードは雨の中を走ったり、屋根につかまって移動したりして、最後は悪漢を退治すればいいのです。

3月号は数ページ割いてわりと好意的に書いていたのですが、同じ雑誌の4月号はずっと前の方に同じぐらいのページ数を割いて、フォード自身の存在を否定するような論調でたっぷり辛口の批評が載っていました。「どうなっているんだ、同じ会社なのに・・・?毎月編集長が変わるんか?」と思ってしまいました。

私はフォードという人については良くも悪くも評価しておらず、スターの典型なのだと納得していました。ハリウッドには演技がさほど上手でない(=上手でも見せるチャンスをもらえない、不器用であまり演技派、役者路線で売り出そうとしない、下手糞で最初から演技で勝負する気がない)人を連れて来て、映画会社やエージェントが裏方に有能なスタッフをずらっと揃え、輝きあるスターに仕立ててしまうことがあります。その人は超大スターというレッテルを貼られ、軽く10年は持ちこたえ、映画関係者は金の卵を生む鶏としてできるだけ長くキープしようとします。マンネリと言われるまでほとんど同じイメージで売り、それが時代の趨勢にもぴったり合い、その時代の見本、お手本、理想像のような役をもらうことが多いです。オスカーとはあまり縁がない人が多いですが、オスカー以上の威厳があり、老年に入ると功労賞が来るという仕掛けです。

こういうポジションに選ばれた人はある意味で幸運、ある意味で本人にとっては不幸なのかも知れません。フォードがまさに過去40年それだったのではないかと思います。60年代後半から映画、テレビに関わり始め、70年代後半から上り調子、80年後半から一種の安定期、飽和状態に入り、90年代後半からは《腐っても鯛》期。フォードは鯛ではあるけれど値が下がり始めていると気付いている人。それにも関わらずプライベートな理由でか、制作側の理由でか、映画を撮り続けなければならず、ファイヤーウォールではあまり乗り気ではないような様子が見えました。しかしそれでもきっちり自分の役目を知っていて、まるで兵士のようにその役目は果たしています。そのため私は雑誌の4月号の酷評はフェアではないと感じました。

ベルリンでは公開最初の週に午後8時台(最高のポジション)とその次のプログラムに乗っていましたが、2週目からは午後10時半のみに後退。それもかなり小さなホールに移動していました。他の映画を選んでも良かったのに私が敢えてファイヤーウォールを選んだのは、雑誌のどちらの評が正しいのか好奇心がわいたからです。「さすがベテラン、プロとして自分の役目を果たしている」というのと「もう誰もお前なんか見たくないんだ、帰れ」というのではあまりにも開きが大き過ぎます。それを同じ会社の雑誌でフォード特集としてわざわざページを割いて1月ずらして出しているのですから。

結局私はフォードが自分の役目に忠実に仕事をし、悪漢ベタニーもそれにぴったり照準を合わせ、気の毒な人質、首にされた秘書なども《フォードを中心として作る作品》に良いハーモニーで協力していると思いました。ですからフォードを見に来る人からは合格点がもらえると思います。かつての英雄インディアナ・ジョーンズやハン・ソロのイメージを壊したりはしていません。戦前の生まれだという年齢を本人も周囲も理解し、元気のいい活劇から徐々に渋い静かな役に移動し、ロマンス・グレーの紳士に変わり、それでも時々アクションを入れ、と匙加減は大スターのフォードに良く合っていると思うのです。《年齢を考え》という意味ではかつては惑星、人類、アメリカを救う英雄だった人が、必死で家族を救うお父ちゃんになるのも時代の要求に合わせた《お手本おやじ》としてフォードに良く合っています。まずは大きな所へドーンと討って出て、40年の間に周囲の事情に合わせて相応に焦点を絞ったのだと考えれば、間違った路線ではないと思うのです。

実は私にはフォードはコメディー路線もいいのではないかと思えます。レスリー・ニールセンのような極端な方向転換をしたり、本職を差し置いてスラップ・スティック系に行くのではなく、紳士のイメージはしっかりキープし、そこにちょっと間の抜けたフレーバーを加えるのです。彼にはピーター・セラーズやロベルト・ベンニーニが演じるような、現実を全く理解しない、受け入れないタイプのコメディーは向かず、現実を分かっているため目の前で起きた妙な出来事に当惑するというタイプの笑いがいいのではないかと思います。ハリウッド的殺人事件ではその兆しが見えたように思います。残念ながらあの路線をさらに追求という風になっていませんが。逆に彼にあまり合っていないと思えたのはランダム・ハーツホワット・ライズ・ビニース。90年代後半から K-19なども含めこれまでと違うタイプの作品に挑戦していますが、私にはハリウッド的殺人事件のみ将来性が見込めるように感じられます。ハリウッドが今後もシリアス・ヒーローのフォードで金の卵を狙うのか、フォードがこれからもスクリーンに登場したいのかなど、舞台裏の方針に左右されますが、もし今後もやるつもりなのだったら、ややテンションを落としたアクションと2枚目半のコメディーで見たいです。元ボンドのピアス・ブロスナンが徐々に脱皮に成功しているので(間もなくブロスナンのコメディー出します)、元ヒーローのフォードがコメディーに向かっても、観客は受け入れられるのではないかと思えます。

さて、肝心のファイヤーウォールですが、タイトルの通り IT 犯罪スリラー。この作品の怖さは最初のクレジットの所にテンコ盛りされています。映画館でご覧になる方は、是非目を凝らしてどうぞ。出演者の名前が列挙されている間、バーコードが示され、人間が人間らしい存在を拒否され、ナンバーやコードに過ぎないことが示されます。その上、ベタニー演じる悪漢のコックスがフォード演じるスタンフィールドの家族を襲う前に着々と準備をしているシーンが無言で出ます。ごみから何から、スタンフィールド一家の事を100%知り尽くすまでじっとデーターを集めまわります。何ヶ月も情報収集をした後に5人でスタンフィールド一家に乗り込みます。フォードが活躍する劇はそこから始まります。この手際の良さはなかなかのもの。そういう意味ではフォードのために作られた作品と言えます。

会社におけるスタンフィールドの立場の説明も手際が良く、最初の15分か20分の間に、スタンフィールドの役職、彼の会社内での立場、会社の合併の事情、秘書との信頼関係、家族関係がさっと分かります。最近こういう手際のいい説明があり、残りは主演の活躍に集中するという作品が減っているように思います。時間の配分で私は合格点をつけました。

冒頭のシーンが終わると間を置かずコックスがスタンフィールドが出勤した直後に家族を人質に取るシーンに移り、間もなくスタンフィールドに脅しがかかります。(余談ですが、銀行の正面のシーンは何となく最近見たような気がしました。その上家族が住んでいる家も見覚えがあるような気がして・・・考え過ぎかなあ。それとも経費節約のために同じ家を2つの映画に使ったんだろうか。)スタンフィールドは最初何度か警察に届けようとしたり、小細工をして危機を乗り切ろうとしますが、冷たい目のコックスの方が数段上手。部下にしっかり見晴らせていたり、抵抗を予測した作戦を取っています。

何の目的で家族を人質に取ったのか最初はっきりしませんが、インサイド・マンほど長くは隠さず、間もなくコックスたちが現金や物品を狙っているのではなく、高額の金を外国の口座に振り込ませようとしていることが分かります。銀行のトップ10の高額な預金者の口座を身包み剥いで、カリブ海の島にある口座へ送金させるのが目的でした。そのためにセキュリティーの壁を破る必要があり、スタンフィールドが狙われたのです。自分で作ったファイヤーウォールなので、コックスの目を盗んで証拠を残したり通報する方法がありそうなものですが、敵は若手のコンピューター技術者をスタッフに加えていて、歯が立ちません。結局ドルで9桁の金額が動いてしまいます。

コックスは仲間を殺すことも計算に入れてあり、最後は1人勝ちを狙っています。スタンフィールドは人質を取られてから社内での行動が極端になり、周囲に不審感を抱かれます。コックスは片がついた時、人質と仲間を消し、罪はスタンフィールドに擦り付けるという最終計画を持っています。

このプランに意外な所から綻びが生じます。まずスタンフォード夫人のベスが仲間の1人の心理的な弱さを見抜き、「あなたは凶悪な人間ではない」と説得にかかります。次にコックスがスタンフォードに無理やり持たせている発信機と同じ原理で動く別な物をスタンフォードが家族救出のために使います。同じ品を悪用も善用もできますし、相手がそれで自分を困らせるのなら、自分も相手をそれで困らせることができるという理屈です。

もちろんスターのハリソン・フォードが主演ですから、最後は悪漢が死に、何もかもがうまく行きます。そしてスターのハリソン・フォードが主演ですから、彼はえぐいことはやりません。そしてハリソン・フォードが主演ですから、不可能に見える窮地から見事に自分だけでなく、家族全員、そして成り行き上ひどい扱いを受けた女性も救います。スターのお約束は守られています。

雑誌記者には意地の悪い人もいるので、正統派路線を歩んでいるスターに、売り出しの路線と違う事をやってみろと要求することもあるのでしょう。4月号の記事はそういうひねくれた人が、正統派路線を歩むフォードにいらついて書いたのかも知れません。メグ・ラインのように道を踏み外してくれた方が書く方はおもしろいでしょう。しかしハリウッドにはスターというカテゴリーがあり、そこに選ばれた人が淡々とその道を歩んでいて、観客の中には教科書のような正統派を見たいと思っている人もいるでしょう。そういう人向きの作品に仕上がっています。「文句あるか」とフォードに聞かれたら、「いえ、それで結構です」と言いたくなるような作品です。

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