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2008 USA 128 Min. 劇映画
出演者
Sean Penn
(Harvey Milk - サンフランシスコ市議会議員)
James Franco
(Scott Smith - ミルクの恋人)
Diego Luna
(Jack Lira - ミルクの新しい恋人)
Emile Hirsch
(Cleve Jones)
Joseph Cross
(Dick Pabich - ミルクの選挙対策係)
Brandon Boyce
(Jim Rivaldo - ミルクの選挙対策係)
Alison Pill
(Anne Kronenberg - ミルクの選挙対策係)
Josh Brolin
(Dan White - 市議会議員、ミルクの暗殺者)
Victor Garber
(George Moscone - 市長)
Denis O'Hare
(John Briggs - 国会議員)
Lucas Grabeel
(Danny Nicoletta - 写真家)
見た時期:2009年2月
USA 1999 98 Min. 劇映画
出演者
Tim Daly (Dan White)
Amy Van Nostrand
(Mary Ann White)
Trulie MacLeod (Eileen White)
Peter Coyote (Harvey Milk)
Stephen Young
(George Moscone)
Paul Miller (Ray Sloan)
見た時期:かなり前
USA 1984 90 Min. ドキュメンタリー映画
出演者
Harvey Milk
(サンフランシスコ市議会議員)
Anne Kronenberg
(選挙対策係)
Dianne Feinstein
(マスコーネの後サンフランシスコ市長、殺人が無ければホワイトの後継者の予定、ミルクの死体発見者)
George Moscone
(サンフランシスコ市長)
Dan White
(元警官、元消防夫、サンフランシスコ市議会議員)
Jerry Brown
(カリフォルニア州議員)
John Briggs
(カリフォルニア州議員)
Tom Ammiano
(ゲイ運動家、ブリッグスの協力者)
John Briggs
(国会議員)
見た時期:当時のベルリン映画祭
ペンが主演男優賞のオスカー受賞ですって。ちょっと考えてしまいます。それほどの演技かなあ。ペンは優秀な俳優とは思いますが、この作品の演技で・・・(?)という印象でした。まだギター弾きの恋の方が出来が良かったように思います。
★ ベルリン映画祭が終わった
今年のベルリン映画祭の翌日会場の1つだった映画館で上映。懸賞に当たったため無料。何年か前に The Times of Harvey Milk というドキュメンタリー、Execution of Justice というテレビ・ドラマを見た後の鑑賞です。
私に取ってはミルク関連で3作目になるショーン・ペン主演のミルク。見終わって、なぜこんな作品を作ったのかと感じました。ベルリンはゲイの町なので、市民の何割かはゲイの傾向があり、現在の市長もゲイだと当選する前から宣言しています。市民の反応はと言うと、もう何十年も前からの話なのですっかり慣れてしまって、目の前にいる人がゲイかそうでないかでその時の判断を変えたりする人はいないというのが実態です。ゲイ独特の催し、クラブ、飲み屋などはあるにはありますが、ゲイでない人との境界線というのは特に見えない状態です。ここに至るには紆余曲折があったにはあったのですが、あまり集団暴行、暗殺など物騒な話は聞きません。ずっと以前には公園などで個人が襲われるという話はありましたが、最近は聞かなくなりました。たまたま報道を目にしなかっただけなのか、数が減ったのかは分かりません。
これは一部分アメリカに負うところがあるかも知れません。戦う必要はアメリカの方にあって、先に権利を勝ち取ってくれたから他の国は楽だったのかも知れません。またベルリンという町が60年代から80年代終わりまで特殊な環境にあったことが理由かも知れません。ドイツ国内ではベルリンにゲイ亡命して来る人たちがいました。大部分は西ドイツの保守的な町が住みにくいため、学生の力の強かったベルリンに引っ越して来る人たちでした。アメリカ、イギリスなどから引っ越して来た人もいますし、当時交通が自由でない東から本当の意味で亡命して来ている人も何人かいました。まあ、何だかんだでベルリンは壁が開く前からゲイの割合の高い町でした。補助金を出したり何か特徴を出さないとあっという間に過疎になってしまう危険のある町がベルリンで、壁ができてから開くまでの間かなり大金をかけて援助されていた場所です。
壁が開いてからはベルリンを首都にするかしないかでかなり揉めました。以前長い間市長だった人が言っていましたが、ボンを首都にするという話がかなりの間力を持っていて、もしそうなったらベルリンはあっという間に過疎地になっただろうと言っていました。同じ政党内でボン派とベルリン派が血で血を洗うような厳しい戦いをしていたそうです。前市長は結局引退を迫られ辞めましたが、その後に出て来たゲイの市長は、それこそこの前市長がベルリンを首都にとごり押ししてくれたから今こうやって首都の市長でいられるのかなとも思います。
ベルリン映画祭が開催される時には必ず市長が登場して挨拶します。今年はアメリカ人のハーベイ・ミルクに関連する作品が複数出ています。ここでご紹介するのは最新作。ちょうど昨日ベルリン映画祭が終わったのでまた順番を変えてここでご紹介。
★ ミルクという人
ハーベイ・ミルクに関する作品はベルリンには以前から来ています。ベルリン映画祭やファンタ関連で見ました。ミルクはユダヤ系の人なので飲むミルクのドイツ語の《ミルヒ》という名前が先行したようですが、本名は英語の飲み物と全く同じミルクです。いくつかの職業、軍歴を経て出身地のニューヨークからサンフランシスコに移住。そこで写真屋を始めます。ミルクはそこから始まります。
ゲイに対して東海岸よりはリベラルだったらしいカリフォルニアに落ち着き、一般市民から市議会議員になります。日本では議員になるとそれが本職になってしまう人が多いですが、外国では議員は仮の姿と考える人も多く、本職を辞めない人もおり、国によっては議会は夕方やる所もあります。ミルクも写真屋続行。
落選したり、苦戦したりもしますが徐々に選挙戦術が上手くなり、協力者も増え、出世して行きます。注目されたのはゲイだと言って当選したこと。ゲイであることによる差別撤廃を主張し、組合などの根回しが成功し法的にゲイであることを理由に解雇ができないように法改正。
この時ポストの問題で争いが生じていたダン・ホワイトに恨まれ、ミルクと、選挙で協力体制にあった市長の2人が市庁舎で射殺されます。
ホワイトに対する判決は現代から見ると驚くような内容で、計画的な謀殺に当たらず、《計画的でない殺人罪》(ちゃんとスペアの弾丸まで用意し、見つからないように横の窓から侵入しているので計画性は十分に認められる状況だった)。懲役は10年にもならず、3分の2ほど服役して出所。ギャングではないので服役中行儀が良かったのでしょう。出所後家族の元に戻りますが、ミルク暗殺から10年もしないうちに自殺(自殺に追い込まれる経緯については Execution of Justice が詳しい)。
後記: まだマイケル・ジャクソンの医師の容疑の方が納得し易いです。業務上過失致死がアメリカでは《計画的でない殺人罪》となるそうで、それは単にジャクソンが自殺したのではなく、彼の死に第三者の手があったということだそうです。その第三者の手も、「ジャクソンをこうやって殺してやろう」と考えてのことではなく、自分のやった事が彼の死につながってしまったという意味で人を死なせてしまった場合と解釈するようです。それに比べるとホワイトの例はかなり曲解しないと成り立ちません。
ミルクではまだ政治に関わっていなかった中年男ミルクがかなり若い青年スコットと出会い、新婚生活(と言うか、同棲生活)に入るところから始まり、暗殺で終わります。最後にテロップで関係者がその後どうなったかの説明も出ます。
★ 3作を見終わって
実在の人物について映画を作るにはドキュメンタリーとドラマ化の2つが考えられます。私はミルクを見る前にその両方を見ています。取り扱い方は「かつてこういう人がいた、こういう死に方をした」という感じで、作る側はそこで好意的に編集するか批判的に編集するか、可能な限り距離を置いて中立を守るなどのスタンスを選択できます。私が見たドキュメンタリーとドラマの2つでは比較的好意的な扱いですが、極端なえこひいきは避けています。ドラマの方では中心をミルク議員でなく、暗殺者の方に置いていて、ミルクがなぜ暗殺の対象にされたか、犯人がなぜミルクを殺すところまで追い込まれて行ったのかという内面的な部分を大きく扱っています。
それぞれを見終わってミルク、犯人のホワイトという人物に対する理解が深まり、殺された人、殺した人の運命には同情しますが、見終わって映画に対しては負の感情は起こりませんでした。
今回見たミルクは何だかのっけから感じが違うぞと思いました。時代が70年代中心なので、ちょっとレトロ風にしてあり、当時の生活感覚を感じ取れるような画面です。70年代のファッションは今から見ると野暮ったいと感じる人もいますが、変だぞと思ったのはそのせいではありません。
他の2作を見た人がおやっと思うシーンが冒頭結構長く示されます。その中でアメリカでゲイの人が集まる飲み屋などが警察から急襲されます。当時は罪になったらしくジャーナリストのカメラが回る中で検挙。捕まる人ができるだけ顔を隠そうとする様子が長々と続きます。映画の構成としては、@当時はこういう状態だった、Aミルクという人物が現われ選挙で頭角をあらわして来た、B同僚議員から個人的な恨みを買って暗殺されたという風になっています。その@の部分なのですが、監督が映画をどういう方向に持って行きたいのかがよく分からないシーンです。
ドキュメンタリーに出るミルクは本人。アーカイヴのフィルムなどを集めて来ています。ドラマ化された方ではミルクの役をピーター・コヨーテがやっていて、良い感じに仕上がっています。ミルクを穏やかな人物ととらえて演じていたので、見終わって好感が残ります。無論ミルクは殺されてしまうので悲劇の人ですが、抑えの利いた演技のためお涙頂戴にならず、結末に向かって冷静に話が進んで行きます。
対する犯人役のティム・デイリーは自分の中にミルクに対する反感と恐れがどんどん溜まって行く過程を演じています。なので結末の所で観客はダン・ホワイト(犯人)が大嫌いになってしまいますが、それだけ上手に演じていたということになります。彼は制作に積極的に関わった人だと後で知ってびっくりしました。
ミルクの冒頭のシーンはコヨーテの脚本を拝借してきたのかと思うぐらいそっくりで、「あっ、ぱくった」とその時は思いました。良く考えてみると、ミルク本人が死の直前に暗殺を予期して言い残していたテープがあるので、その事実を再現すると両方の作品が似てしまうのでしょう。2人の俳優でちょっと違うのはコヨーテからはナルシスムが漂わない点です。本当のミルクがその点でどちらの俳優に近いのか、あるいは全く違うのかは判断できませんでした。ドキュメンタリーを見たのがかなり前なので記憶が怪しく、比較できませんでした。
ショーン・ペンはミルクという人物を勉強してから演じたと思います。ミルクの1番最後にチラッと出て来る本人の姿とペンのメイク、外見は確かに似ています。コヨーテはミルク本人のそっくりさんではありません。恐らくはペンのミルクの方がずっと本人に近いのでしょう。ところがミルクの性格、行動、考え方の掘り下げ方が浅く、私は見終わって不快感すら覚えました。私はゲイ運動に関しては部外者のようなものなので、それほどミルクという人物に感情移入はしていません。劇映画を比較しているだけ。ですからどのぐらい本人にそっくりかということよりも、描かれた人物の中身がこちらにどのぐらい伝わるかの方が重要。劇映画としてはコヨーテの勝ちです。
ある人物を取り上げてこういう作り方をする場合、普通は監督は観客がその人物を理解し、ある程度好きになることを期待しているのではと思います。ミルクは人物の批判映画でないのです。なのに嫌な後味が残るというのはどういうことでしょう。ペンのアプローチのどこかに誤算があったのか、あるいはペン自身がこういう方向を望んだのか。
ペンがこうなのでちょっと気の毒なのがミルクの恋人を演じたフランコ。この人の実力には作品を見るたびに驚かされますが、ミルクでも主役の邪魔をしないように気をつけながら1人気を吐いています。ミルクが一目惚れしてすぐ同棲を始めるのがスコットを演じるフランコ。
ミルクと楽しい時を過ごし、やがて選挙にのめり込んで行くミルクから離れます。そして当選してからパーティーで再会。ミルクの事が心から離れていないけれど新しい生活を始めた男という役です。短いシーンでも感情を込めて演じています。ミルクの方もスコットを忘れたわけではないというシーンがあるのですが、ペンの演技は通り一遍。ペンも大根役者ではないので、手を抜いたのかと疑っているところです。
コヨーテの演技が全体の印象をアップさせている、ペンの演技が全体の印象をダウンさせているという結果に終わっています。なんでやねん。
★ ダン・ホワイトを演じる2人
ミルクを見始めて暫くした時直毛、スーツ姿の男が出て来ました。「あっ、この男だ!」と思ったのはコヨーテの映画を見たことのある人全員。会場にはゲイのカップルが何人か来ていましたから、中には気付いた人がいたはず。ジョシュ・ブローリンが演じていますが、コヨーテの作品のデイリーもこれとそっくりのアウトフィットでした。
Execution of Justice でのホワイトの演技が良かったので、アウトフィットがそっくりなブローリンには両方の作品を見た観客の間ではボーナス・ポイントがついてしまいます。ミルクでは彼に使った時間が比較的短く、ブローリンが演技を披露するチャンスは少なかったです。
★ ペンという難しい俳優
ミルクはペンに負うところが大きい作品で、そのペンがこういう表現を選んだため、この作品のみを見た観客にはミルクという人物がそれほど良く映らないのではと思います。ゲイでない観客の場合ボーナス・ポイントをつけないので(=ミルクという人物に感情移入しないために)、違和感を抱く人も多いのではと思いました。
ペンの作品はいくつか見ましたが、見終わった時に下手ではないがペンが演じる人物に好感が持てないというのが私のこれまでの経験です。たまたま見た作品の主人公がとんでもない奴だった(そういう役だった)という場合と、一応普通の男性を描いている場合がありましたが、どちらでも私は好きになれませんでした。これがペンの個性かと思います。しかしドイツではペンは好かれているらしく、最近の映画雑誌の批評ではミルクは完璧だという評価です。
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