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日独病院の食事比べ

2005年ごろまでのドイツと、2011年の日本

考えた時期:2011年11月

井上さんに食発されて、いえ、触発されて、日独病院食事比較をしてみようと思いつきました。

私は生まれて初めて入院したのが6年前。しかし周囲の人が入院して、お見舞いに何度も行っているので病院の食事は見て知っていました。中には入院中の人が食べたくない物が出たというので、おこぼれを頂戴したこともあります。

★ 見た目とシステム

ドイツの病院の食事は日本人の目から見るとお粗末に見えます。食事のシステムはしかしとても良くできています。日本も今では同じようなものでしょうが、ドイツは結構前からこんなシステムになっていました。

コンピューターに患者の状況が入っていて、「今日午前10時から手術」とか決まっていると、「前日の夕食の後は水も飲んでは行けない」とか、「朝食抜き」とかが決まっていて、その人の食事は運ばれて来ません。

病院なのだから入院理由の病状に合わせた調整は当然のこととして、入院の時にアレルギーだとか、直接の入院理由と関係の無い特性もしっかり聞かれ、ピーナッツ・アレルギー、糖尿病など食べ物で影響の出る人には特別の配慮がなされます。コンピューターを使ってシステマッチックにやるので特別料金は取られません。

話はそこに留まらず、個人的な嗜好も考慮。今でこそ当たり前のようになっていますが、結構前から菜食主義専用のメニユも用意されていました。

★ システム外の親切さ

私が「ケーキは要らない」とデザートを断わると、代わりに「ヨーグルトでも食べないか」とその食事のメニユに載っていない物を持って来てくれたりしました。

食事時には必ずコーヒー、カフェイン抜きコーヒー、紅茶、それ以外のお茶(薬草茶など)などが選べ、「ミルクがいい」というとメニユに入っていないのにミルクを持って来てくれたりします。水はそれとは別にビンごともらえます。炭酸水と炭酸の入っていない水があります。

飲み物は食事について来る他に廊下に置いてあって、飲みたければ好きなだけ飲み放題状態。この飲み物は訪問者も飲めます。なのに所々料金を取られる自動販売機も置いてあって、どうなっているんだろうと思うこともあります。自動販売機はやや安目の料金のような気がします。私はある病院ではお見舞いに来ただけなのに、「同じ階にある台所に入って好きな飲み物を勝手に取って来ていい」とまで言われました。

私の話は全て国立の大学病院、公的な立場の病院の話ですが、ドイツでこれ以外の病院と言うと赤十字ぐらいで、赤十字も一種公的と言えます。私的な病院もあるのではないかと思いますが、普通のドイツ人が入院というと、主としてこう言った大規模病院になります。

★ 食べ切れない

上でも少し触れたようにドイツの食事はぱっと見るとお粗末に見えます。しかしかなり食べでがあり、運動をしない患者には食べ切れないぐらいの量にも思えます。朝食と夕食はパンが2枚。大きさは片手を広げたぐらい、厚さは5ミリぐらいで、灰色パン。黒パンというほど黒くなく、トーストよりはグレーがかっています。ドイツではごく普通のパン。この種のパンはトーストに比べるとお腹に入った後ボリュームを感じます。トーストは一旦胃の中に入るとあっという間に消えてしまうような感じです。

そこにバターかマーガリンがついていて、それにチーズ、ハムがつきます。病院によって多少違いがあるでしょうが、ジャムがついていたようにも思います。

日本人ですとちょっと寂しい気がしますが、これを全部食べるのは結構大変。見た目よりお腹にたまります。飲み物が入るとお腹一杯。

ドイツのメインは昼食で、《暖かいご飯》と呼ばれます。病院だけでなくドイツでは朝夕飲み物以外は温かくないご飯を食べる伝統があり、《冷たいご飯》と呼ばれます。今もこの伝統を守っている人もいます。朝食にスクランブルド・エッグなどをつけると大喜びしてもらえたりするので、こちらがびっくりすることもあります。

ドイツに来た初期の頃私はお腹が空くので朝起き出すとスパゲッティーを作って平らげ、それから大学に行き勉強をしていたのですが、その話をしたら「その方(ほう)は狂人か」というような目で見られたことがあり、それ以来朝食はたっぷり食べ、口はしっかり閉ざして誰にも言わなくなりました。

知識を何キロも鞄に詰めて持ち歩くだけでもかなりの運動量。その上教室で「頭を使え」と言われると、どうしてもエネルギーの消費量が増え、朝早くからお腹に一杯食べ物を詰めておかないと昼まで持ちません。当時はまだ黒パンに馴染んでいなかったので、あのパンにそれほどのエネルギーが詰まっているとは知らなかったのです。

話を昼食に戻して、日替わりメニユで、菜食主義でなければ肉も出ます。メニユにいくつか選択肢がある病院が多いようです。私が入っていた時も毎日「何を食べる?」と看護士の人が聞きに来ました。

 ・ メインと呼ばれるのが肉など。
 ・ 《横っちょについている物》と呼ばれるのが、ヌードル、お米、グリーンピース、インゲン、ニンジン他の野菜の煮たもの。大抵はどれか1つ。
 ・ 日によりますが、どかっと中身のたくさん入ったスープ、シチューのようなものもメインとして出ます。
 ・ 小さなサラダ。
 ・ デザートに果物入りのヨーグルトや小さなケーキ。

こうなるともう私の小さな胃には入り切れません。ドイツ人の普通の男性でも残す人がいます。

昼食にメインで出る食事は病院食堂で訪問者用に有料で出されていることもあります。結構高い値段がついています。この食べ物に近いのが大学食堂の食事。それと比べると倍ぐらいの値段です。ただ大学食堂に比べ病室、病院の食堂で出される食事は、消毒薬の匂いがしないという利点があります。

ドイツを含む中央ヨーロッパの食事は病院でなくとも見た目が日本より悪いという欠点があります。味は家庭料理に近く、長い間食べても飽きません。妙なソースや調味料で誤魔化す手法は使っておらず、さらっとした味の物が多いです。塩、胡椒や欧州ではクラシックなハーブが使われます。健康的と言えます。

井上さんが最初に報告した食事とドイツの朝食、夕食と比べると、

 ・ パンの質が違う。ドイツでは井上さんの写真のようなパンは売っていますが、普通の食事にはあまり出ません。所謂黒パン系の灰色パンが主流。井上さんの所のパンですとドイツ人には腹持ちが悪く、あっという間にお腹を空かせてしまいます。
 ・ 普通のサラダはこんなに凝っていない。時には昼食として片隅にこういうのが出ることもありますが、量はかなり少ないです。キャベツやニンジンのような野菜を千切りにして酢に漬けたものもサラダとして出されます。ドレッシングはあまり凝っていません。
 ・ ミルクが500cc出るのは凄いですね。こちらではミルクは普段出ません。ただ、欲しいと言うと、マグカップ(250cc)で貰え、おかわりも可能なようです。

ドイツの昼食に当たるようなのが、井上さんの次の写真。日本はやはりご飯が多いですね。主食だもの。その次の写真のご飯は麦飯だそうですが、ドイツではまだ麦飯は見たことがありません。しかし麦をシリアルという形で食べる人は多いです。入院中には出ません。

サラダはかなり量が多いように見えます。ドイツはメインになる肉などがドカンと中心になり、同じ皿にニンジンの煮付けとか、豆がつきます。お米も比較的頻繁に使われます。どんぶりやお茶碗に分けで出さず、メインの肉などと同じ皿に乗ります。そのため、メインの食事につくソースがお米にもかかります。たまには《横につける物》が2種類のこともあります。日本では子供に出すような、1枚で3つぐらいの料理を分けて出せるようなお皿ですと、サラダなどは小さい所にちょこっと入っています。

井上さんの最後の晩餐はちょっと懐かしくなりました。長い間目にしていなかった麦ご飯、酢味噌、千歳飴・・・。こういう事情でなければ素敵なご飯だと思います。飴を出すなんて、気が利いているなあと思います。

食事の専門家井上さんが、これから暫く流動食というのは小説家からペンを取り上げるようなもの。

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