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Jo Nesbø's Headhunters

Morten Tyldum

Norwegen/D 2011 100 Min. 劇映画

出演者

Aksel Hennie
(Roger Brown - 表の顔: ヘッドハンター、裏の顔: 絵画泥棒)

Synnove Macody Lund
(Diana Brown - ロガーの妻、ギャラリスト)

Julie R. Olgaard
(Lotte - 表の顔: ロガーの不倫の相手、裏の顔: クラスの仲間)

Nikolaj Coster-Waldau
(Clas Greve - 元軍人、現在会社の社長)

Eivind Sander
(Ove Kjikerud - 表の顔: 警備員、裏の顔: ロガーの仲間)

Kyrre Haugen Sydness (Jeremias Lander - )

Reidar Sorensen (Brede Sperre)

Nils Jorgen Kaalstad (Stig)

Joachim Rafaelsen (Brugd)

Mats Mogeland (Sunded)

Gunnar Skramstad Johnsen
(Monsen - 警官)

Lars Skramstad Johnsen
(Monsen - 警官)

Baard Owe (Sindre Aa)

見た時期:2013年3月

要注意: ネタばれあり!

スリラーでネタがばれます。近年珍しいほど次の展開の予想のつかない作品です。なのでこの先を読む前に良く考えてください。

見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

原題は英語と同じく《ヘッドハンター》という意味です。原作はヨー・ネスボ。

★ リメイクの行方

比較的作品数の少ない監督です。監督やスタッフは非常にのんびりした感じで、この人たちがこんなスマートなスリラーを作ったのかと驚きます。普通のその辺に住んでいる若いお父さんといった感じの人たちです。

制作費はドイツからも出ているようです。最近不思議でしょうがないのは、ドイツの映画人には良い映画、良い脚本を嗅ぎ出す鼻があるようなのに、なぜドイツで作る作品はあんなにつまらなくなってしまうのだろうということ。

北ドイツの人にはスカンジナビア人にも通じるユーモアがあります。滅多なことではパニックにならないのんびりしたメンタリティーも北ドイツから北欧に向けて広がっています。そのメンタリティー丸出しで作ると近年連続して出たデンマークのユーモラスな作品になり、今回はノールウェイでも成功作が生まれました。私はノールウェイ人の知り合いもいたのですが、この映画と似たどこかゆっくりしたユーモアがあります。江戸っ子などのような頭の回転の速いユーモアではなく、のんびりしていてぼさっととんでもなくおかしな事を言う人がいます。

ヘッドハンターのカテゴリーはスリラーとかアクションなどと描かれていますが、コメディーとは書いてありません。しかし所々にコメディー要素が入っていて、一部はブラック・ユーモアもあります。

ヘッドハンターはこの予算規模としてはとんでもなく面白いので、ハリウッドでリメイクすればと考える不届き者が出るかも知れませんが、ああいう味はハリウッドに出る前、大西洋を渡る途中で消えて無くなってしまうでしょう。リメイクは決まってしまったようですが・・・。

ミレニアム・シリーズのリメイクのように舞台を外国に移さない選択もありますが、それならなぜオリジナルを見ないのかという話になってしまいます。また、ヘッドハンターをアメリカに移すとしてどの町で撮ればいいのかという問が浮上します。

主人公夫婦のような豪華な生活のできる町で、ヘッドハンターが活躍できる程度の近代都市でなければなりません。その上でああいう事件に巻き込まれ、すぐ田舎に出向くこともできる所を探すのが大変です。部分的にはスティーヴン・キングが舞台にするような町がいいと思いますが、高価な絵がかかっているような場所と、なかなか発見されないような人の行き来の少ない川辺も必要で、アメリカではすぐ思いつきません。むしろカナダに向いているかなと思います。

★ 表と裏の顔

原作はジョー・ネスボの小説。かなり脚色したそうです。映画にぴったりな脚本に仕上がっています。出演者もバランスが良いです。

主人公ロガーは168センチ。5センチ下駄を履いていて、俳優の本当の身長は173センチ。撮影はきっと周囲の人を5センチぐらいの台の上に乗せて やったのでしょう(笑)。

ロガーは小柄な人が持ちそうな劣等感について自分で良く分かっていて、埋め合わせに色々やばい事をやっています。1つは使い捨ての不倫。その時間だけを楽しむなら OK。女の子が彼を友達に紹介したりしようものならポイ捨てです。

確かに168センチと言うとドイツや北欧ではかなり小柄、その他の欧州でも比較的小柄な方に入ります。そして会社などで人を雇う時、なぜか男性は大柄な人の方がチャンスが多いとも言われます。

他方、その欧州の北半分で職業上確実な成功を収めている人に小柄な人が多いのも事実です。私の主観的な見解では、その不利さゆえに土壇場でがんばる人が小柄な人に多いと言えます。小柄な人にはあまりドイツ的な超きっちり屋はいません。積極的に人の中に入って行き、どんどん自分のペースで話を進める人が比較的多いです。

そして良く考えてください。マラドーナは165センチ(大成功したサッカー選手、監督)、ダニー・デ・ヴィートは156センチ(大成功した映画制作者)、ダスティン・ホフマンは167センチ(大成功した俳優)です。実力は小さい人に詰まっているという印象を受けてしまいます。

彼の裏の顔は絵画の窃盗。ルパン顔負けの専門職で、これまで足がついたことはありません。完璧主義者でしっかり準備をしています。この仕事には共犯者がいます。盗む理由はお金。背が高く美人の妻ディアナを満足させるためにはお金が必要と思っているのです。自分の借金を返す必要もありますが、裏の仕事をする時カリカリ焦っている感じはありません。妻のディアナはギャラリスト。ロガーが資金援助をし、これからキャリアが開けていくところです。今はまだ赤字。

ロガーの不運の1つは彼がギャラリストという仕事をきっちり理解していなかった点。ギャラリストに取っては隔週や月に1回金曜日の夕方ワインやシャンペンを飲みながら個展のオープニングに付き合うのが重要な仕事。自分が関わっている芸術家を中心に、招待状を出しまくり、やって来た人に芸術家を紹介しながら、次の展示会の話をさりげなくしたり、見込みのありそうな芸術家の作品の値段が上がって行くようにそっと口を滑らしてみたりしますが、1番大切なのは大勢の人に笑顔を振りまき、次の個展のオープニングにもまた来てもらうように仕向けることです。

金曜日の夕方以外は新人の作品を吟味したり、招待状の注文をしたり、色々な人に事務的な用事で会うのですが、金曜日の夕方だけはギャリストも話の中心に入り、色々な人をちやほやしたり、ちやほやされたりするのが仕事。この部分は重要なのです。

そして自分の身の空いている金曜日の夕方には他のギャラリーのオープニングに行くという仕事もあり、そこでもちやほやしたり、されたりが重要な鍵です。こういった社交から次の仕事が生まれるからです。

私は70年代、80年代に暫くアマチュアに毛の生えたようなレベルの新人画家の集団を知っていたため、こういった事を目の前で見たことがあります。ドイツ人の芸術に対する寛容度には驚いたのですが、どんなに無名の新人画家でも時々個展をやり、どんなに安い値段でもある程度商取引は成立しています。売りたくない絵は10万円なんて値段をつけ、それ以外の作品は数千円から数万円などでした。

皆まだ全くの無名画家だったため、個展の売り上げで食べて行くことは不可能で、国からの補助金を生活費にして生きていました。日本ではその頃個展を開くことが非常に難しい時代だったので、絵画には全く関係の無い私でもドイツの環境は日本人画家ならうらやむだろうなあと思いました。

裏を返せばしかし日本人がちょっと奮発してドイツで何度か個展を開くのは簡単。円が徐々に強くなっていた時代でもあるので、日本人の金銭感覚からするとそれほど凄いお金はかかりません。帰国してから履歴書に麗々しく「外国で個展・・・」と書いてあるのを見てあまりびっくりしない方がいいとも思います。

このレベルを卒業し、徐々にプロフェッショナルな画商の世話を受けるようになると、やがて国際的に名の知れた画家などになれます。ベルリンを見る限りかなり裾が広かったです。そのうちの何パーセントが本物の芸術家に育って行ったのかは不明。広い畑にたくさん種を蒔いて肥料をやり、本物が出現するのを待つという気の長い作業でした。そんな所に政府が大金を投資するのを見て、芸術に対するドイツの懐の広さに驚いたものです。この補助金は財政が苦しくなり近年は廃止されたり減額されているはずです。

あるセミプロの画家が山のように似たパターンの絵を描き、倉庫に貯蔵しているのを見たことがあります。どこかのエージェントを介してたまには売っているらしいのですが、何年か経って知ったのは、この人株で食べていたということ。絵では生計は立っていませんでした。

もう1人私の趣味とは合いませんがエネルギッシュな絵を描いている画家を知っていました。その人はそれなりに絵心があるのかと思いました。当時の西ベルリンの一等地にアパートを借りていて、どうやって暮らしているのだろうと思ったら、ある大金持ちの御曹司でした。親の商売に賛成できずにベルリンに来て暮らしていたようですが、やはり絵で生計は立っていなかったようです。

ロガーの妻ディアナの経営しているギャラリーはこういった新人セミプロの域を出た、結構な値段の絵を扱っています。

そしてロガーの表の顔はヘッドハンター。大企業に人材を斡旋していますが、こちらも成功しています。人の心理をよく心得ているのが強み。

★ ミッドライフ・クライシスか

これまでは順調だった裏表の人生がある日を境に両方共狂い始めます。結婚7年目の妻は子供を欲しがっているのですが、ロガーは拒否。後で分かるのですが、妻を独占したくて、自分の子供にすら取られたくないのです。妻はその事で少し悩んでいます。

妻は美人で有能なのでギャラリーのオープニングなどに大勢の成功した男性がやって来て、ロガーは少し嫉妬心を抱いています。絵画泥棒のための情報はヘッドハンティングをしていると顧客やその知り合いなどから耳に入ります。妻やギャラリーに集まる知り合いからも入ります。

ちょうど今ロガーが浮気をしている相手はロッテ。そのロッテがロガーを友達に紹介したいと言い出したのでバッサリ。容赦なく関係を切ってしまいます。

ある日、裏の仕事仲間で建物の警報装置を切ってくれる警備員オーヴェを訪ねると口外無用のはずの仕事の打ち合わせ中にロシア人の娼婦が家に入って来ます。オーヴェは家中にピストルを置いています。ロガーは絵を盗む時は単独行動。相手に出くわさないように時間を調節し、武器は一切使いません。なのでオーヴェが武器を持っているのが気に入りません。

妻から入った情報を元に非常に高価な絵を盗むことにしたその日、押し入った家に妻の携帯が置いてあることに気づきます。どうやらこの絵の持ち主と妻は不倫をしている様子。その男は妻のギャラリーのオープニングに来ていた背の高い美男子のクラス。まんまと絵を掠め取ったものの、この発見はロガーに取っては大ショック。

次の日、仕事に出ようと思ってガレージに行くと車内にオーヴェの死体が。誰かに毒を注射された様子。死体を川に放り込むと水の冷たさにオーヴェが正気を取り戻したのでびっくり。あわてて助け上げて彼の山小屋に連れ戻します。何とか目を覚まさせますが、オーヴェは病院に行くと言って聞きません。それは困るということで争っているうちにロガーがオーヴェの銃を発砲してしまいオーヴェは本当に死んでしまいます。外にはクラスの姿が。

その後どんどん土壺にはまって行き、警察に捕まってしまいます。ロガーは罠にかけられたのですが、彼を追って殺そうとしているのはクラス。警察に捕まえさせるだけでは足りず、パトカーごと大型ローリーで崖から突き落としてしまいます。助かったのはロガー1人。確認に来たクラスがいる間は死んだふりをして難を逃れ、その後は顔の潰れた刑事の1人とアイデンティティーを交換し逃亡に成功。

変装し、1度ふったロッテのアパートにかくまってもらいますが、彼女は何とクラスに連絡を入れてしまいます。ロッテを脅して事情を聞き正す ととんでもない話が飛び出します。

★ とんでもない話

クラスとロッテは元からグル。クラスは元オランダの会社の社長で、追跡のスペシャリストでしたが、会社の経営が傾きかけていました。そこで思いついたのは、ライバル社に1度就職し、そこの企業秘密をごっそり持って元の会社に戻るという手。ロガーに対しては経営から身を引くと思わせ、クラスの思惑通りロガーは彼をヘッドハンティングして、ライバル社へ売り込みます。クラスはそのロガーの近くにロッテを張り付かせていました。

クラスはロガーの背後でディアナと不倫。ロガーがクラスをヘッドハンティングする気になったのは、妻からの情報がきっかけ。ギャラリストの妻にクラスは非常に値の高い絵画の情報を教えていました。

2人の浮気を知ったロガーはクラスをライバル会社に売り込む際、クラス以外にも候補者がいると言い出します。ヘッドハンティングの会談を終えてロガーが建物から出て来た時、ロッテが現われ、復縁したいと言い出します。その際彼女はロガーの髪に妙な液体を塗りつけます。

ロガーの側から見るとクラスが妻に伝え、妻がロガーに伝えた絵の情報をを元に、絵を掻っ攫いました。そこで偶然妻とクラスの不倫を発見したので、クラスの再就職に便宜を図るのを中止。

クラスの側から見ると、追跡の専門家なので事前にロガーの身辺をチェック。彼が乗りそうな絵の話を用意し、妻のギャラリーのオープニングに居合わせ、ちょっと世間話をしている間にチラッと会社経営から引退する話をちらつかせ、ロガーが食いつくのを待っていました。

ディアナとロッテがどの程度話を承知していたのかは後半まで明かされません。

★ 予定から脱線

ロガーもクラスも計画から甚だしく脱線して行きます。

共犯のロッテに命じてロガーの髪に追跡に使えるヘアー・ゲルを塗り込ませてあるので、ロガーはどこへ逃げても追いかけられます。ロガーは服や持ち物をそっくり入れ替えてもクラスが追って来るので大恐慌。

盗んだはずの絵は贋作。なのでロガーが盗品斡旋業に渡してもお金にはなりません。ロガーはそれを知らない・・・。

車に仕掛けられていた毒はロガーを狙ったものだったのかも知れません。いずれにしろここで誰かが1人死ぬはずでしたが、ロガーは死なず、相棒のオーヴェもその場では生き残ります。

殺人どころか武器に手をやるつもりも無かったのに、オーヴェが死んでしまいます。今後絵画泥棒をやるなら新しい相棒を見つけなければなりませんし、今はともかく死体をどうにかしなければなりません。

クラスからしつこく追いかけられていたロガーは前半は怪我をして入院。そこへやって来た警官に逮捕され、パトカーで連行されます。クラスはすぐロガーを発見して追って来ます。ここで1度死んだことになるロガー。

後半死んだ警官とアイデンティティーを交換した後、ロガーは変装のために髪を剃ってしまいます。これでクラスの追跡が不可能になってしまいます。この時はロガーが死んだと思っているクラス。

せっかく髪を剃ってしまい、クラスも死んだと思っていたのですが、今度はロッテがクラスにロガーが来たと連絡してしまいます。ロッテをただの不倫相手だと思って助けてもらおうとしたロガーが甘かった・・・。

ロガーが命を狙われたのはクラスが確実にライバル会社に就職できるという思惑が外れたため。

這う這うの体で帰宅したロガーは妻に、妻はロガーにお互いに秘密を告白。誤解は解け、2人は将来をやり直す計画を練りますが、そのためには目の前の問題を解決しなければなりません。罠を仕掛けてクラスをはめなければなりません。

撃ち合いになることを計算に入れ、銃弾を空砲に入れ替えたり、証拠品をわざと犯行現場に置いたり、わざと目撃者に見られるような場所で撃ち合いを始めたりします。最後にクラスに全部罪を擦り付けてしまい、死体があるのは彼のせいという風に見えるようにしてしまいます。ついでに絵を盗んだのもクラスとオーヴェのせいになってしまいます。挙句に2人が撃ち合い両方とも死亡というシナリオ。

★ みんなで笑おう

ま、優秀な CSI ならいずれ真実にたどり着くでしょうが、これはあくまでもコメディー。ブルース・ウィリスの隣のヒットマンのような乗りで見てください。

最後ご都合主義のようにハッピーエンドになってしまうのですが、それまでロジャーがあまり酷い目に遭うので許せてしまいます。そしてこの作品の強みは、たくさん映画を見ていた人の予想も次々はずし、次の展開の予想がつかないところ。

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