映画のページ
NL 2013 Min. 劇映画
出演者
Hannah Hoekstra
(Anna Rijnders - 心理学の学生)
Alex Hendrickx
(Stijn Rijnders - アンナの弟、身障者)
Isis Cabolet
(Sophie Welts - アンナと同居している女子大生)
Harry van Rijthoven
(Carlo - ステーンの主治医)
Robert de Hoog
(Tim Maas - アンナの元ボーイフレンド)
Matthijs van de Sande Bakhuyzen (Daan Thijsse)
Patrick Martens (Henry)
Gigi Ravelli
Liza Sips (Liesbeth)
Jeroen Spitzenberger (Jerry)
Mark van Eeuwen (Sim)
見た時期:2013年8月
★ 宣伝の仕方が悪い
ファンタの始めの方で見た作品。トレイラーを見た結果元々は外そうと思っていたのですが、スケジュールの都合でぶつかったいくつかの作品の中からこれを選ぶ羽目になりました。なので当初何も期待していませんでした。
トレイラーもインターネットの記事も、そしてファンタの解説もこの作品の良い所をスルーして、スマホで使えるアプリを上映中に見てもいいとか、無料ダウンロードできるなどの宣伝に終始していました。
私はまだテレビも家に無いという人間なので、他の便利な電化製品も揃っておらず、他の人に20年も30年も遅れて、やれ電子レンジを買っただの、新型冷蔵庫を買ったらデジタル表示がついていた、カルチャーショックを受けただの言っているような有様。
なので近年の携帯電話やスマホと呼ばれる物どころか、ドリュー・バリモアがスクリームの冒頭で使っていたような電話すら使ったことがありません。なのでスマホにも全く無知無関心。
というわけでこの作品についての関心も期待もゼロでした。
ところがびっくり。
確かに映画の中でスマホは重要な役割を担っていますが、それは例えば60年代の映画で、姿を現わさない脅迫者が何度も電話して来る時の電話機のようなもの。そういう映画でベル社が電話の大宣伝をしたような格好で、スマホは本来のストーリーの一部分を引き受けているだけでした。
その上 APP を生真面目に見て、内容をマジに受け取ったら、その人はスマホを捨ててしまうでしょうから、スマホやアプリケーションのメーカーに取っては逆効果とも言えます。
APP の正体は、最近ちょっとレベルを落としているオランダの犯罪映画、ホラー映画などの格を引き上げるのに貢献している、れっきとしたスリラーでした。
★ ディック・マース再来か
ディック・マースというオランダの映画監督をご存知でしょうか。70年代終わり頃にオランダの映画アカデミーを優秀な成績で卒業した人で、80年代前半に悪魔の密室という独創的な作品を作った人です。今でこそこの種の作品は時々作られますが、当時としては新しく、俳優のバランスもいいホラー映画の成功作です。発表された当初はあまり評判が良くなかったのですが、後にダウンとして監督自身がハリウッドでリメイクを作っています。オリジナルの方が雰囲気が良く、おもしろいです。またアムステルダム 怒りの追撃もマースの作品です。
この2作ほど個性の無い作品も何本か撮っている人ですが、悪魔の密室は彼1人でオランダに現代スリラー/ホラーの道筋を作ったと言えるぐらい当時は独創的でした。
私はファンタではオランダの作品もないがしろにせず、目を通す事が多いのですが、このところぱっとしません。他の場所にも書きましたが、本数が少ないにも関わらず同じベネルックスのベルギーが参加すると、ベルギーの方が職人的にきっちりした作品を出して来ます。
そんな中、APP はスリラーとして一定のレベルに達しています。女子大生を主人公にしてあり、若者に受けるように登場人物のバランスが取れています。普通の生活をしていた女子大生が事件に巻き込まれるという設定なので、天才的な探偵には設定しておらず、観客が納得してついて来られるようにできています。
事件に遭遇して打ちひしがれはするものの、元々は元気一杯の女子大生。なので後半は気を取り直して自力で積極的に調べ始めるという脚本の書き方にも納得が行きます。
そして出来上がったのは、素人が巻き込まれる事件としては他所に出しても恥ずかしくないレベルのスリラー。
★ アプリとの遭遇
APP はアプリケーションの短縮形で、ここではスマホにインストールされたアイリスと言う名のアプリケーションです。
大学生活を謳歌し、親友も友人もいる心理学専攻の女子大生アンナはある日大学のパーティーに行きます。二日酔いの翌日自分のスマホに見知らぬアプリケーションがインストールされていて、彼女に話しかけて来ます。その名はアイリス。
当初は話しかけて来るだけ。暫くすると大学で授業を受けている最中にも話し掛けて来ます。時には先生に聞かれた事の答も教えてくれます。
間もなくアイリスは彼女を1人にしてくれなくなります。うるさく質問をして来ますし、いくらスイッチを切っても無駄。ゴミ箱に捨ててもまた戻って来ます。
★ アプリにまつわる出来事
順番は不正確ですが、こんな事が起きます。
まずは彼女に四六時中あれこれ話し掛けて来ます。大学の授業中なのでスイッチを切ったはずなのに、所構わずスイッチが入り、話しかけてくるため、教授に教員室に呼び出され叱られます。
ところがその教授、ある日大学構内で大演説を行った後ピストル自殺。その直前、授業中に教授がゲイの恋人となにやらやっているところが大スクリーンに映し出されてしまったのです。どうもこの教授もアイリスに攻撃された様子。
アンナと同居している親友のソフィー。2人は一緒に潜水の講習に通い、間もなくソフィーの資格試験が迫っていました。そのソフィーがあるボーイフレンドと不倫中のビデオが学生友達のスマホに流れてしまい、アンナとソフィーの仲は亀裂が入ります。
アンナは買ったスマホに不信感を持ち大手の電気屋に文句を言いに行くのですが、そこに並んでいる大型モニター全部に裸でアパートにいる姿が映し出され赤恥をかきます。
他のスマホと取り替えようと別な小さい電気屋に行きますが、何とその店ごと吹っ飛ばされてしまいます。彼女は店を出たばかりで無事ですが、店主は死んでしまいます。
ある夜、ソフィーは潜水の試験のためにプールに。ところがインストラクターでその日ソフィーの試験官なるはずの男はプールから締め出されてしまいます。彼女の危機を察してオートバイで駆けつけたアンナと、話を聞いた教官は必死で中に入ろうとしますが、ソフィーは気づかず水中へ。
そこへ電気のコードが水の中に落ち、ソフィーは感電死。この辺りはディック・マースの手法をパクリとは違う形で引き継いでいます。
後半狙われるのはアンナの弟。健康に大きな問題があり、これまで身障者だったのですが、医学の研究が進歩し、大きな希望が見えていました。その弟まではとばっちりを食らい、死にかけます。
★ 真犯人は近くにいた
適度に伏線をちらつかせ、適度に隠してある犯人は、彼女に振られた元ボーイフレンド。彼女の大学生活を熟知していないとできない事も起きるので、元ボーイフレンドというのは話が合います。
アンナのスマホにアイリスをインストールしたのは彼。パーティーの最中です。彼の専門はコンピューターのプログラミング。そしてアンナの弟の担当医の医学ソフトを作っているのが彼。なのでかなりアンナに近い所にいて、彼女の弱点も知っています。
ま、これよりももっと凄いプロットのスリラーも多々ありますが、コンパクトにまとまっていて、アンナ周辺の人物も特に大きな矛盾も無く描かれていて、ひどい後味も残しません。テレビ用よりはスケールが大きいです。ブロックバスターではありませんが、そういう路線は始めから狙っていません。ディック・マースの悪魔の密室の後継のスリラーとしては通用します。マースの方はホラー系で、エレベーターが妙な事をするという点は超常現象的な説明しかできませんが、APPは現実にできることにやや誇張を加えた程度で、観客としては「そういう事も可能かもしれない」と思える範囲です。
返す返すも残念なのは、小ぶりではあってもスリラーとしてきちんと自分の足で立てる作品に仕上がっているのに、スマホの宣伝ばかりされていることです。
この後どこへいきますか? 次の記事へ 前の記事へ 目次 映画のリスト 映画以外の話題 暴走機関車映画の表紙 暴走機関車のホームページ