February.20,2003 バッド・エンディング

        こんなに賛否両論が極端に出た映画も珍しいのではないか? ギャスパー・ノエ監督の『アレックス』である。もっとも私の目にした批評は概ね否定派のものが多い。『週間文春』2月13日号の『シネマチャート』という5人の評論家の短評コーナーでは、5人が5人とも☆ひとつ。「残酷でグロテスクな描写にはついて行けない」 「人の生理的不快感を刺激するのが迫力とでも思っているのだろうか」 「伝えたい思いはわかるが、末梢神経を刺激しつづける手口にはがっかりした」 「後味の悪さは天下一品」 「レイプの描写は衝撃的というより悪意を感じる」

        配給会社の『アレックス』公式サイトのBBSでは、観た人の感想が載っているが、かなりの人が否定的な意見を述べていて、それに少数の人が弁護を続けるといった状態が続いている。『アレックス』に関しては、ベルリンさんが去年の夏に見ていて、詳しい感想を書いている。私もベルリンさんの考えとほぼ同じだ。冷静になって考えれば、本当の暴力というものはこういうものだというのをギャスパー・ノエは提示してみせ、いかに暴力というもので人が傷ついてしまうものかを観客に見せたかったのだと思う。

        ホモの溜まり場で、消火器で相手の顔面を滅多打ちにするシーンは、映像をCGなどで処理しているとわかっていても不快感がある。正視に耐えないくらい辛い。ホモの溜まり場に入った手持ちカメラはマルキュス(ヴァンサン・カッセル)とピエール(アルベール・デュポンテル)を追い続けるわけではなく、暗い迷路のようなクラブの中をひたすら揺れながら移動して行くから、観客の方は船酔い状態だ。そのあとの顔面滅多打ちだから不快感は並大抵ではない。

        もうひとつ批判の対象になっているのが地下道でのレイプ・シーン。身体の線がくっきりと浮かび上がっているイブニング・ドレスを着たアレックス(モニカ・ベルッチ)を、ホモという設定のテニア(ジョー・プレスティア)がアナル・レイプする。これも生理的にかなりキツイ。女性が見ても辛いだろうし、男である自分が見てもアナル・レイプは辛い。ここは、カメラを地面に置きっぱなしで、十分くらい続くショッキングなシーン。私が見たときには、ここで立ちあがって帰ってしまった老夫婦が一組いた。

        確かに、こんなシーンを見せられて不快感を感じない人は少ないだろう。しかも、この映画は時間の流れが逆になっている。ラスト・シーンが最初に来て、次々と前に戻っていくという方法を採っているので、なんだかわからないという人もいるのだろう。『メメント』ほどではないが、自己モンタージュをしていかなければならない作業を強いられるので、イライラしてしまうのも事実だろう。私は逆にこの自己モンタージュを楽しんだ口なのだが。

        ゲーム機のアドベーンチャー・ゲーム、ゲーム・ノベルをやったことのある人なら、選択肢によっては、[バッド・エンディング]というところに到達して、ゲーム・セットになってしまうという経験を持ったことがあるだろう。『アレックス』は、この[バッド・エンディング]に入ってしまったのと似ている。ただ、ゲームでは前の選択肢に戻ればゲームを続けられる。『アレックス』は後戻りできない。現実の人生だってそうだろう。前の選択肢には決して戻れないのだ。


February.9,2003 シャーリーン・チョイかサンディー・ラムか



        日本語には無い漢字をパソコンで出すのは出来ないのだが、この『我老婆口吾多句秤』(うーん)というのは、英語タイトルが『My Wife Is 18』となっている。あらあら、これは『奥様は18歳』か? と思ったら、岡崎友紀、石立鉄夫のテレビドラマ『奥様は18歳』そのままの展開。高校教師とその教え子の女子生徒が結婚して、そのことはクラスメイトたちには内緒にしているというストーリー。主演がイーキン・チェンと、TWINSの片割れシャーリーン・チョイ。

        チャン(イーキン・チェン)は、イギリスの大学で修士論文を提出しているのだが、8年たった30歳になっても、女性心理が理解できていないと卒業させてもらえないでいる。そこへやってきたのが高校生のヨーヨー(シャーリーン・チョイ)。ふたりは、それぞれのおじいさんとおばあさんの間で、知らないうちに交わされた許婚同士。そんな取り決めなど時代遅れだと思うふたりなのだが、形だけ結婚したということにして結婚届を出すことにする。一年後には離婚届を出してしまえばいいではないかというわけである。

        イギリスにいる両親とは別生活のヨーヨーは香港でひとり暮らしをして高校に通っている。やがて、チャンのおばあさんが亡くなり、チャンがヨーヨーに渡してくれと頼まれた翡翠の腕輪を持って香港にやってくる。しばらく香港にいることになったというチャンに、ホテルに泊まるならお金がもったいないから、一緒に住もうと言い出す。

        チャンは、ミッション・ハイスクールで非常勤の心理学の教師の仕事を頼まれて登校するが、これがお決まりで、その高校がヨーヨーも通う学校だったというわけ。こうして、ふたりが形の上だけでも結婚しているというのを秘密にして生活が始まる。

        もちろんふたりは形だけ結婚したことになっているだけだから、それぞれに恋をしている相手がいる。ヨーヨーはバスケットボールをやっている素敵な彼氏、チャンは高校の同僚の体育教師リー先生。この体育教師役のサンディー・ラム(林珊珊)がいいのだ。ヨーヨーの相手は遊び人で、仲間がたくさんいるというのは、去年の10月に書いた『這個夏天有異性』のときと同じような役回り。一方、リー先生の方は、すっかりチャンにぞっこん。自分から積極的にチャンにモーションをかけていく。

        さあ果して、このふたりはどうなるのか? チャンの立場で見ていると、どう考えても、まだしょんべん臭いヨーヨーは鬱陶しく思える。先月書いた『一碌蔗』の役回りが、どちらかというと古風だったのに対して、今回のはいかにも現代っ子という感じなのだが、前倒れぎみの格好だとか、デレデレした喋り方が鼻に憑く。まだ分別もついていない単なるガキとしか見えないのだ。そこへいくと、リー先生の健康的かつ大人の匂い立つような色気は魅力的だ。健康的な男なら、どうしてもリー先生の方に行くでしょ。

        監督はジェームス・ユン。アイドルTWINSのシャーリーン・チョンのファンも満足させつつ、単なるアイドル映画に終わらせていないのはさすが。    


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