July.12,2004 いささかうっとうしい女の話ではありますが
香港を走り回っているミニバス。ふいの旅行者には案外使いにくいのだが、土地の人には便利な交通手段であるらしい。どこででも降ろしてくれるから足として使いやすいらしい。25年前、初めての香港旅行で友人と乗ってみた。クルマのフロントガラスのところに行き先が書いてあるので、この方面なら自分たちの宿泊先のホテルのあたりを通るだろうと勘を付けて乗ってみたのだが走るルートが私たちの予想したものとはまったく違っていて、気がつくとどこだかわからない場所で降りていた。そんなミニバスの運転手を主人公にしたのが『忘不了』(Lost in Time)。
監督は『つきせぬ想い』のイー・トンシン。思えばアニタ・ユンを知ったのは、あの『つきせぬ想い』であった。『つきせぬ想い』の相手役がラウ・チンワンだったが、イー・トンシンはまたここでも、濃い顔のラウ・チンワンを起用している。これがまたいいのだ。
ルイス・クーはミニバスの運転手。ある晩、たまたまお客さんはセシリア・チャンひとり。街角でバスを停めると、「ここで降りないんですか?」とセシリア・チャンに訊く。「どうして私がここで降りるとわかるの?」 「いつもあなたを乗せているから」 「よくわかるわね」 「不機嫌そうな顔をしているもの。誰だってあなたのことは忘れないよ」 「(クルマの中でかかっている音楽を聴きながら)この曲を聴いていたいから、聴き終えたら降りるわ」 「じゃあ、このCDをあげよう・・・・・いや、よそう。君が乗った時はいつもこの曲をかけよう」 う〜ん、憎い台詞じやないですか。それにルイス・クーのあのソフトな顔立ち。これで女の人はグッときちゃうんだろうなあ。
ルイス・クーには別れた前妻との間に男の子がひとりいる。それを承知でセシリア・チャンはルイス・クーと結婚することにする。そんなある日、ルイス・クーの運転するミニバスがトレイラーと衝突。事故を知った同じミニバス・ドライバー仲間のラウ・チンワンが現場に駆けつけたときには、もうルイス・クーは死んでしまっている。
フィアンセを失ったセシリア・チャンは、ルイス・クーの乗っていたミニバスを修理に出し、自らもミニバス・ドライバーとなって、残された男の子をひとりで育てていこうとする。これからがいささかうっとうしい。セシリア・チャンは『Running on Karma』にも出ていたきれいな女優さんだが、その痩せた身体が生活に疲れた女性の役をやると、見ていて辛くなってくる。慣れないミニバス・ドライバーの仕事でお金が思うように儲からない上、ミニバスの修理代を払ってスッカラカン。生活費は底を尽き、部屋代も払えない。さらに子供の面倒もみなくてはならないしとなって疲れ果てている。さらにはセシリア・チャンの両親とも不仲なのだが、観ているうちに、これはどうやらセシリア・チャンの性格にも問題があることがわかってくる。無鉄砲で強情でわがまま。縄張りを無視して客を乗せるは、喧嘩は売るは、仲間との協調性はないはで、見ていてうんざりしてくる。
そんな様子をみてラウ・チンワンは彼女と、男の子に気を使って手を差し伸べてあげる。ところが、そんな様子をドライバー仲間がやっかみはじめる。実際にラウ・チンワンもセシリア・チャンに惹かれていくのだが、実はそんなラウ・チンワンにも秘密があったのだ・・・・・・。
ラストでラウ・チンワンの秘密が明かされ、セシリア・チャンにプロポーズするところが感動的になっている。さすがイー・トンシン、憎いラストを用意していた。ここで、セシリア・チャンが実にいい顔をする。それまでのうっとうしさが抜けた素直な表情になる。これなら誰でも惚れちゃうね。
なんだか無性に香港へ行ってミニバスに乗りたくなってきてしまった。セシリア・チャンみたいな美人のドライバーがいるといいのだけど。