January.20,2005 グロテスクオムニバスホラー

        韓国、タイ、香港のオムニバス・ホラー『スリー』(三更)の続編『三更2』は、早々この3月には『美しい夜、残酷な朝』のタイトルで日本公開が決まったようだ。今度は日本、香港、韓国のオムニバスで、日本パートが長谷川京子が主演で、監督が三池崇史だから、公開しても動員が見込まれるからだろう。



        一話目が日本の『ボックス』(Box)なのだが、残念なことに、これが一番見劣りしてしまう。長谷川京子は北の町に住む小説家。子供のころ彼女には双子の姉がいた。ふたりは箱を使った入れ替わりのマジックを演るマジシャンのトリックのネタだったのだが、姉の方ばかりを可愛がられいるのを嫉妬して、姉を事故死に見せかけて殺してしまったという過去を背負っている・・・・・。

        長谷川京子が綺麗に撮れているのはいいのだが、なんだか全体に台詞がよく聞き取れない。せっかく日本語で観られる唯一のパートなのに、何を言っているのかよくわからないのだよ。物語も演出も一昔前のATG映画のようで、映像的には綺麗なのだが、「何、これ?」という感じ。せっかく香港、韓国相手に日本映画の実力を見せてあげたいところなのだが、これじゃあなあ。

        二話目が先行して長尺版が公開された香港の『餃子』(Dumplings)。これに関しては先月書いた。ようするにあれを縮めて30分ほどにしたもの。ただ決定的に違うのがラストシーン。バイ・リンが中国本土で天秤を担いでいるシーンのあとのミリアム・ヨンのシーンが両バージョンでは違っている。短縮版では、かなり露骨な表現になっていて、さらにはカメラに向かって見せるミリアム・ヨンの表情がかなりホラー映画しちゃっている。長尺版の方だと、もうすこしソフトな表現にしているし、そのあとで過去の結婚式のシーンを加えて余韻を持たせている。どちらがいいとは言えないのだが、この短縮版のラストは確かに短編映画向きといえるだろう。

        三話目が韓国の『割愛』(Cut)。若くして地位も名声も手に入れた映画監督が、その日の撮影を終えて帰宅してみると、妻はピアノの前でピアノ線で身動きが出来ないように縛られている。侵入者の男は、監督を気絶させて縛り付ける。室内にはどこから連れて来たのか子供がひとりソファーに腰掛けている。侵入者は自分は映画のエキストラで、監督の映画にも出演したことがあり、辛い思いをしたと言う。そして、監督にこの子供を殺せと命令する。そんなことは出来ないと迷っていると、男は身動きの出来ない奥さんの指を斧で1本1本切り落としていく・・・・・。かなり緊迫感のある映画だ。ただ、私には生理的に辛かった。男が単なる異常者というのも辛い。ラストもグロテスクで、二度と観たいとは思えなかった。


January.10,2005 『少林サッカー』を軽々超えた『カンフー・ハッスル』

        『少林サッカー』香港公開から2年半。あの90年代に毎年何本もの喜劇映画に出演して、日本にも密かにマニアックないたチャウ・シンチー。チャウ・シンチーは、新世紀に入って多作から、より完成度の高い映画を作るために足を止めたようだ。それは確実にいいことだった。それなりの作品を何本も作るよりも、一本の傑作を作った方がいい。

        それでもチャウ・シンチーの新作映画は早く観たい。この二年半、いかに待ち遠しかったことか。当初予想していたのは、次回作はきっと『少林サッカー2』に違いないと思っていた。香港代表となってワールド・カップに出場して、より珍妙、奇天烈な相手と戦う話に違いないと信じ込んでいたのだ。それが、「どうも次回作はカンフー映画。しかも、かなりマジらしいよ」という声が聞こえてくると心配になってきた。笑いの要素を外したチャウ・シンチー映画など、あまり興味が湧かない。

        『少林サッカー』(少林足球)のときは先に輸入DVDで観て、こんな面白い映画をなぜ日本ではすぐさま公開しないんだとヤキモキしたものだが、今回の『カンフー・ハッスル』は、香港公開とほとんど同時期。輸入DVDが出回る前に映画館で観ることができた。

        冒頭の斧頭会のシーンから目を奪われた。このギャング組織の非道さを描く強烈なカウンターアタック。こりゃ、本当にマジにカンフー映画を作っているのかと思わせる。そしてようやくチャウ・シンチーの登場。ラム・ジーチョンとのダメ人間コンビが豚小屋砦に入ってきたときから、笑いの要素が少ないのではないかという不安はあっさりと覆った。もういつもの台詞と映像の笑いが炸裂するチャウ・シンチー乗りが続く。豚小屋砦の住民は、どうも今回もヘンな顔の人間を集めるということに重点を置いたようで、見事に個性派集団。この連中を眺めているだけで可笑しさが込み上げてくる。

        ひょんなことから、豚小屋砦の住民と斧頭会が全面対決と発展するのが、この映画のストーリーなのだが、その原因を作ったのがなんとチャウ・シンチーの軽率な行為だったというのが、これまた面白い。「なあんだ、もともとお前のせいじゃんっ」と、突っ込みを入れたくなってくる。

        斧頭会の斧を持ったミュージカル映画風のシーンも楽しいが、ここでチャウ・シンチーが針金一本で鍵を開けることが出来る名手だということを見せる。これがあとの伏線になっているのだから上手いなあと思う。

        チャウ・シンチーが家主夫人にナイフを投げつけようとしたところから展開するCGを使った追いかけっこも楽しい。CGをこんなに楽しく使えるのは、やっぱりチャウ・シンチーをおいて無い。このあとチャウ・シンチーが脅威の回復力わ持った体質だというのが、これまたうまい伏線として提示される。

        いよいよ斧頭会の豚小屋砦殴り込み。豚小屋砦の隠れカンフーマスター三人組対斧頭会の闘いは極上のカンフー映画を観る思いだ。ベテランのカンフー役者の技を存分に楽しめる。このへんはチャウ・シンチーの今までのカンフー映画を支えてきた役者さんたちへのオマージュに思えてくる。

        これだけのカンフーの達人を集めたところで、チャウ・シンチーは、またCGを使って、凄い闘いを用意している。斧頭会の刺客古琴波動拳を使う2人組みだ。ここで最強のカンフーの使い手を出したと思いきや、そこに現れたのが家主夫婦。これが、また輪をかけて強い。この間、ほとんどチャウ・シンチーは本筋とは関係なくなり、ダメ人間ぶりばかりが強調されることになる。

        斧頭会の差し金で、異人類研究センターに忍び込み、究極の殺し屋火雲邪神を脱走されるのもチャウ・シンチー。全ての原因を作るのはいつもチャウ・シンチー自身だ。火雲邪神と家主夫婦の闘いというのも壮絶。これでもう出尽くしたという感のあるところで、映画はまだまだ終わらない。いよいよ見せ場のチャウ・シンチー対火雲邪神との闘いが始まる。ここでのチャウ・シンチーはひたすらかっこいい。「ずるいよ」というくらいの見せ場を用意している。これが演りたいために、ここまで、ダメ人間の役で通してきたのが歴然としている。だってそうでしょう。最初から強く、精神的にも立派な主人公なら誰も共感しないものね。このシーンは『マトリックス』シリーズの逆輸入か。

        チャウ・シンチーの最高傑作が誕生した気がする。DVDが出る前にもう一度映画館に足を運ぼうかと思っている。それくらい再見に耐えられる傑作だ。


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