May.19,2003 曲からみた『オケピ!』再演

5月3日 『オケピ!』 (愛知厚生年金会館)

        名古屋に来た目的は、実は『オケピ!』を観るため。3年前の初演のときは東京公演2回、大阪公演1回の計3回観てしまった。再演の今回は名古屋は初上演。それで今回は東京公演をパス。名古屋で観ることにしたのだ。

        大須演芸場を出て、大須から栄まで歩く。栄地下街をうろついたり、喫茶店で休んだりしながら時間を潰す。池下の駅のすぐ近くに厚生年金会館はあった。

        役者に変更があったこと、脚本に手直しがなされていたこと、曲が増え、一方で無くなった曲があったこと、舞台がちょっと変わったことなど、変化はあるが、基本的には3年前と同じ。江戸半太さんが『☆おあとがよろしいようで.....』3月17日付けで詳しく書いてくれているので、あまり書き加えることはない。私が3年前に『Every Day I Have the Blues』の2000年8月に書いたように、もう一度曲を追って気がついたことを書いてみよう。

        主演のコンダクター役は、真田広之から白井晃になった。これは甲乙つけがたい適役だと思うが、どちらかというと、オケピの中をあっちこっち動き回る真田の方が、気の弱くて優柔不断な性格が表現されていて私は好きだ。客電がまだ点いている状態で何気なく舞台に現れて演技が始まった前回とは違って、今回はキチンと客電を消してから芝居が始まる。

M1『オケピ!』
        ミュージカルといっても、最初の歌が始まるのは今回も開演してから、かなりたってから。13人の登場人物の性格やら立場が総て紹介されてから、初めて主題歌の『オケピ!』が全員で歌われる。ミュージカルではあっても、あくまでもドラマとして面白いものを作ろうとする三谷幸喜の計算は、どうしてもこういう構成になってしまうのだろう。

M2『彼らはそれぞれの問題を抱えて演奏する』
        今回聴き直してみても、よく出来ているナンバーだと思う。13人もいる登場人物の個性がここで、よりわかりやすくなる。注目は、前回あった布施明の『リフレイン』が今回は削られているのだが、この曲の中だけでは、そのまま残っていること。「♪こうして なんでもない一日が過ぎたとしても 僕は満足さ それが人生」と三拍子で歌われるこの曲は、私の大好きなナンバーなので、今回もたっぶり聴けると思っていただけに、ちょっと残念。

M3『ミュージシャンのタコについての考察』
        今回加えられたナンバー。コンダクター(白井)とハープ(天海祐希)のデュエット。デュエットだからというわけでもないだろうが、歌謡曲のようになってしまっている。国産ミュージカルとしては、これでいいのかもね。歌詞がまたなんとなくユーモラスなのもいい。

M4『乾燥機はあなた次第』
        コンダクター(白井)とヴァイオリン(戸田恵子)がからむナンバー。戸田恵子の歌は以前よりもよくなったという印象。戸田が押しまくる様がいい。

M5『くたばれ!ミュージカル』
        トランペット(寺脇康文)のナンバー。前から思っていたのだが、この曲は歌うのが難しい曲のように思う。前回の井原剛志も苦戦していたように思うが、今回の寺脇康文も乗りにくそう。歌詞はよくできているのになあ・・・。

M6『ミュージシャンのタコについての考察2』
        M3のコンダクターの部分をギター(川平慈英)が歌う。同じことを演っているという可笑しさが楽しい。白井よりも恥ずかしがっていないだけ笑いが来る。

M7『パーカッションの理想と現実』
        いい加減な生活や演奏をしているオケピの中の人間たちに直面する新人というのは、別に音楽の世界だけでなくても、社会人になって会社勤めを始めてみると誰でも経験すること。思い描いていた理想と、実社会は違っていたという、よくある現実。それだけに、このパーカッションの気持ちはわかる。前回は山本耕史で今回は小橋賢児。初々しいという演技が要求される、これも難しい役どころと歌い方だろう。

M8『恋のSAPOTA』
        SAPOTAはサポティと発音する南国の果物らしい。M1『オケピ!』を南国風にアレンジを変えて、コンダクターとハープで歌われる新曲。舞台も椰子の木の繁った南国のスライドをバックに写したりして甘い雰囲気になる。ふたりのデュエットが欲しいと前回言っていたのが実現された形。『ミュージシャンのタコに関する考察』だけでは弱いものね。

M9『It`s My Life』
        前回の『リフレイン』に替わるオーボエ(布施明)の新曲。イントロに『リフレイン』を一部残してくれていたはうれしいが、やっぱり『リフレイン』の方が良かった。これだとやや大仰になってしまう。毎日毎日が同じ生活の繰り返しだと歌うことで、あとの『オーボエ奏者の特別な一日』が生きてくると思うのだが。

M10『気になって演奏どころじゃない』
        これも新曲だと思う。思えば前回はチェロ(瀬戸カトリーヌ)、ピアノ(小日向文世)、ドラム(温水洋一)、サックス(相島一之)のナンバーが無かった記憶がある。この4人がそれぞれソロを取る楽しいナンバー。瀬戸カトリーヌはミスキャストだろうと思っていたのだが、実際に観てみると案外ハマリ役だった。前回の宮地雅子が良かったので、彼女でもこの曲を聴いてみたかった。サックスは前回は白井晃だった。そういえば歌、少なかったんだなあ。今回、白井晃は主役だから歌いまくっている。ドラムは菊池均也から温水洋一に替わり、サイドビジネスで扱っているのは洗剤から、ゼンジボンという実態のわからないものに変わった。温水もいいし、最後近くまでゼンジボンの正体がわからないのも上手い脚本になった。

M11『Who Are You』
        前回、芝居で演っていた部分が、このナンバーの冒頭でミュージカル・ナンバーとして付け加えられた。地味なイメージのビオラ(小林隆)が、ジャージ姿で踊るこのナンバー。前回もびっくりしたが、この役者さんなかなか歌も上手いし、踊りも上手い。『オケピ!ライブ・アルバム』のジャケットを見ても、一番そっくり返ったポーズをとっているのが小林隆。身体が柔らかいのだろう。

M12『ポジティブ・シンキング・マン』
        前回とは、次の『ハーピストの理想と現実』の順番が入れ替わっている。構成上、こちらの方がいいのかも知れない。ギター(川平慈英)の聞かせどころ。この役は変更が無くてよかった。他に適役が思いつかない。

M13『ハーピストの理想と現実』
        前回の松たか子も良かったが、今回の天海祐希がまたいい。もっと宝塚くさくなるのかと思って心配していたのだが、そんなことは無かった。宝塚での経験が逆にいい方に向ったかも知れない。前半は、前回のバージョンでは無かった、トランペット(寺脇康文)とのセリフのやり取りと、曲が加えられていて、そこが実にいい。松たか子では荷が重かったかも知れない。

M14『オケピ!(リプライズ)』
        歌に入る前に、全員それぞれの心の叫びがダーッと噴出するところがあってから、布施明の歌になる。そこが実にスリリングで快感。たいへんだと思うが、二部に入る期待を上手く盛り上げてくれる。



M15『アントラクト〜俺たちはサルじゃない』
        第二部も最初の30分くらい曲が無い。普通の芝居を観ている感じで素直に観ていられる。第二部は前回の公演とあまり変更が無い。そのために、曲は第一部に集中するということになってしまった。もっとも第二部は名曲ぞろいだから、怒涛のごとくの展開は目も眩むばかり。その突端がこのナンバー。ファゴットを中心にした胸がジーンと来る、メロディーが頭に残る印象的なナンバー。ファゴットが北川潤から岡田誠に替わったことで、曲に重みが加わった。しかし、芝居部分は北川潤の方が良かったから痛し痒し。

M16『オーボエ奏者の特別な一日』
        もう何も言う事は無い。布施明の歌と独白に聴いているうちに涙が出て来てしまう。きっとこの曲だけ聴いたらば感動しなかったかもしれない。ここが芝居の魅力なんだな。

M17『劇伴〜サックス奏者の活躍』
        トランペットとギターが、殴り合いの喧嘩をしているために、楽器を演奏する人が足りなくなり、サックス奏者がいろいろな楽器のところに走って行って演奏するというインスト。『ハーピストの理想と現実』を使って繰り広げられるアクションは楽しい。前回の白井晃の方が頼りになるという感じが出ていたが、今回の相島一之もいい。

M18『私を愛したすべての人へ』
        ハープが歌うナンバーだが、これは全面的に歌詞が書きかえられたようだ。女性はそんな考えはしないという意見が出て何回も推敲を重ねたという。例えば「♪あなたの胸の中で 他の夢を見る 本気になるのが恐いから」といった歌詞は、「♪あなたの胸の中で 震えていたのは 一人になるのが恐いから」になっている。なるほど、前者は男の考え、後者は女性の考えなのかもしれない。出だしも「♪いつも誰かがいて いつも一人じゃなかった だけど淋しくて 一人ぼっち」から、「♪いつも笑っていた いつもおどけてみせてた だけど淋しくて だけど哀しくて」となっている。いかにも女性らしい歌詞になって、ますます良くなっている。歌も松たか子よりも天海祐希の方が上手い。

M19『サバの缶詰』
        戸田恵子の独壇場。『サウンド・オブ・ミュージック』の『私のお気に入り』に発想が似ているが今回も気になったが、『私のお気に入り』が「♪バラの上の雫 子猫のヒゲ ピカピカの湯沸しリボン結びの贈り物・・・・・」とメルヘンチックに続くのに対して、こちらは「♪ほたるイカの塩辛 わたりガニの味噌汁 ところ天 ごぼう天 サバの缶詰」だから、いかにも現実的、日本的で面白い。

M20『ポジティブ・シンキング・マン(リプライズ)』
        M12を明るくしたナンバー。ソウル・ナンバーになっているのがうれしい。ただ、前回のようなセットではないので、踊りながら、舞台を上下にダイナミックに移動することができないのが淋しい。

M21『ただひとつの歌』
        ラスト・ナンバー。こちらも『サウンドメオブ・ミュージック』から『ドレミの歌』をいただいた気がしてしょうがないのだが、ついつい感動してしまうんだよね。

        名古屋初演とあって、初めて観るお客さんが多いせいか、後半に怒涛のごとく物語が動いていくところは、大きな反応があった。終演10時15分。名古屋でも慌てて家路へ急ぐ人が多かったようだ。

        この項は短く書こうと思っていたのに、案外長くなってしまった。


May.17,2003 ゆるゆるとした気持ちのいい時間と空間

5月3日 大須演芸場五月上席

        いつのころからの名古屋ファンなのである。これといって用がないのにフラフラと名古屋に泊りがけで出かけるのが好きだった。中日劇場での『名古屋嫁入り物語』、ライブハウス[ボトムライン]で見たスクリーミン・ジェイ・ホーキンス、一日中中京競馬場にいたこともあった。そんな私なのだが大須演芸場の存在は知っていたのだが、今まで行ったことが無かった。三遊亭円丈の『悲しみの大須』を聴いたのは三〜四年前だったろうか。大須演芸場をドキュメンタリー風に描いた落語。これを聴いて以来、一度は行かなくてはとは思っていたのだが、なかなか行くチャンスが無いまま今年まで来てしまった。ゴルデンウイーク後半初日、思いきって名古屋行きを決心した。

        午前九時ごろのひかりに飛び乗ったら、自由席はほぼ満席。三人がけの真中に、ひとつ空席を見つけ、なんとか座席を確保。名古屋までの二時間、ゆっくりと本を読む時間が持てたと、喜んで読みかけの小説を開くが、最近のつねで電車に乗った途端に眠気が襲ってきた。結局数ページ読んだだけで熟睡。

        十一時ごろ名古屋到着。「ああ、よく寝た」とホームに降り立つ。名古屋駅地下街をウロウロと歩き回る。昼飯は何にしよう。味噌煮込みうどんか、きしめんか、味噌カツか、ひつまぶしか・・・・・。名古屋の味はいろいろあって迷ってしまう。このために朝食は抜いてきたのだ。迷いに迷って、結局、地下街のとんかつ屋に入り、味噌カツを注文。柔らくてジューシーなカツに、甘い味噌。これなんだよね、名古屋の味は。

        地下鉄で大須へ移動。大須観音にお参りしてブラブラと歩いていると、大須演芸場はすぐに見つかった。



        午後一時ちょっと前に入場。入場料千五百円。渡されたプログラム替わりのチラシには一般千八百円となっているのだが、なぜか千五百円。扉を開けて客席に入ると、お客さんは十数人といったところ。伊東かおるが名古屋のおばちゃんのことを名古屋弁で面白おかしく描写している。席に着いてメモ用紙を取り出したところで、ありゃりゃ、伊東かおるの出番は終わってしまい、休憩に入ってしまった。チラシを眺めてみると本日の出演者六人。平日二回公演。土、日、祭二回半公演とある。どうやら十一時に始まった一回目が終了したところらしい。二時間で六人。ひとりの持ち時間二十分と、とてもわかりやすい構成になっているようだ。

        休憩時間といっても、ものの二分とたたないうちに二回目の公演が始まった。一回目を総て見終わってしまったらしいお客さんが何人か帰って、客席は私を含めて八人程度。ひととおり観て帰るお客さんと新たに入ってくるお客さんで、出入りが激しい。それでもピーク時には三十人くらいはお客さんが入っていた。

        最初に出てきたのは、「ゲスト・東京漫才」と書かれている夏子。夏子といっても女性ではない。若い男性ふたりの漫才コンビ。東京に住んでいる私でも、この人たちは初めて観た。「先日、街を歩いていたらもよおしてきて、公衆便所に入ったんですよ。済ませて壁の張り紙を見たら、『備え付けの紙以外流さないでください』だって。これじゃあクソ流せないでしょ」 「そういう意味じゃないよ」 「しょーがないから、クソを掴んで紙だけ流した」 汚いねえーの(笑)。それでもなかなか歯切れが良い漫才で感じがいい。東京太のお弟子さんらしいから漫才協団の所属か? とすると、東洋館あたりに出ているのだろうか? 東京の寄席定席で見かけるのも近いかもしれない。

        いよいよ地元の芸人さんの登場だ。柳家三亀司は江戸曲独楽。「東京には独楽の名人が多い。それと較べますと私なんか、月とスッポン、天と地、メダカとクジラ、象と蟻ンコ、御園座と大須演芸場・・・・・」 曲独楽で二十分というのは、やや持て余しぎみなのかも知れない。やたらと喋りが多い。「どうやって長いこと、こうやって喋っているかといいますと・・・・・まだ微妙に時間が余っている。独楽だけだと二分で終わります」 扇子の上で独楽を回す末広を披露すると、客席から「すご!」と声があがる。すかさず三亀司が「すごない!」と返す、このやりとりが面白い。最後は大技ともいえる衣紋流し。「前の独楽が壊れちゃって、新しいのを作ったら20g重くなっちっゃた。今は成功率が50%。今日はうまくいくかどうか?」 二回やって二回とも失敗。お時間で楽屋に消える。

        次のなごやのバタやんというのが不思議な芸人だった。田端義夫のそっくりさんということらしいのだが、似ているといえば似ている。マドロス姿にエレキギターを持って現れたのだが、ギターにコードが着いてない。ええっ!? 恐れていたとおり、この人はギターは弾かないのだ。田端義夫のカラオケをかけて歌うだけ。「デビュー五年目。元は菓子職人だったの。仕事を息子に譲って今はこんなことやってる。菓子職人時代はゴマの入った菓子が得意。だから今もゴマカシで演ってます」 『十九の春』 『肩で風きるマドロスさん』 『月の出船』 『別れ船』 『梅と兵隊』 私の知っている曲、知らない曲、そんなことおかまいなしに、なごやのバタやんは気持ちよさそうに歌っている。リクエストに答えて『帰り船』 『大利根月夜唄』。

        波たかしの漫談。「発泡酒、タバコ、値上げだって。ここ(大須演芸場)なんて上げないの。上げようとしたらどうなるかわからないもの。直すにも改造費用かかる。解体するだけだってお金かかるでしょ。だから、東海地震にまかせることにしてんだって。今だって、いつ天井が落ちるかわかりません。そのときは天井から下がっている提灯がまず揺れるから、そうしたらゆっくり逃げても間に合う」 新宿末広亭も同じじゃないかなあ。

        マジックの多嶋ゆきおが出てきたときがお客さんの入りのピーク。「よく入っているね。拍手もらったの正月以来。私、こんな大勢の前で演ったことない」 ネッカチーフを結ぶと、結び目だけがはずれるマジック。二回演ってみせたところで、客席から「もう一回やれー!」の声。「これは二回しかできなんです。出すネタが、ふたつしかないの!」 花の色が変わるマジックの種明かしを子供に演ってみせ、「明日また来いや。明日来たら舞台上げてやっから」 鮮やかな手際という人ではないし、話術も達者というわけでもないのだが、客席とのゆるゆるとしたやりとりが可笑しい人だ。いるんだね、こういう不思議な人が。

        大分から出て来て今ではすっかり名古屋人になってしまった伊東かおるがトリ。千昌夫の『味噌汁の詩』の替え歌で『味噌煮込みの詩』を歌ってくれた。「初めて名古屋の味噌汁見たときは、墨汁かと思った」 「煮込みうどんの山本屋、どこの店行っても本店って書いてあるわ」 「ういろう、あんまりうみゃーないわな」 「守口漬、見た目が悪いでかんわ。とぐろ巻いてるで」 名古屋弁で名古屋のことを語り出すとお客さんの反応が大きい。「そこの[モカ]って喫茶店、おばあちゃんでいっぱいや。テーブルにお線香立てている。そこのおばあちゃんとすっかり仲良くなってもーたわ。おばあちゃんが『パン、ひきちぎってコーヒーに浸けて食ってみい』って。あれ、うみゃーで。あれ以来ずーっと浸けてくっとるわ」 知らなかった名古屋弁も大分教えてもらった。「トキントキンにする」はエンピツの芯の先を細く削ること。薄いコーヒーは「しゃりんしゃりんだがね」 昔は物真似も演っていたという伊東かおる。「似てねえが、たまにはいいがね」と、小林旭を演ると言う。「(楽屋に)オレのマフラー!」と言うと、楽屋からトイレット・ペーパーが投げられる。適当な長さに切って、それを首に巻くと、本当に小林旭みたいになるから不思議。ややオーバー・アクションでの『ごめんね』。似てるじゃないの!!

        これで二回目の公演が終了。これからあと半分公演が始まるわけだが。夏子がまた出てきたところで劇場を出る。どうやら二十人でも大入りらしい。芸人さんたちが、お客さんが多いと喜んでいる姿がかわいい。またいつか、来てみよう。それまで、まだ続いていてくれるといいのだが。



May.13,2003 内緒の内緒の内緒の話

4月29日 鶴瓶噺2003『男祭り』 (青山円形劇場)

        笑福亭鶴瓶のフリートーク企画の番外編。入場者は男性限定。女性ぬきで、男だけの内緒話をしようという会。覚悟はしていたが、会場に入ると、当然ながら、まあ見事に客席は男ばかり。ホモの集会か? といった塩梅(笑)。

        定刻、大音響と共に幕が落ちて、舞台の上には鶴瓶ひとりが立っている。なんとボンテージ・ファッション。ますますホモの集会っぽくなってきたが、それにしても鶴瓶にボンテージは似合わない(笑)。「こんな格好させられて、死んだ師匠には見せたら怒られますわ。『なさけない』言うて・・・」

        ここから、まるまる2時間に渡って鶴瓶のトークが繰り広げられたのだが、ここには書けません。一応、男性のみにということで話したことでもあるから、女性が読んでしまうといけないし・・・・・。シモネタがほとんどで、男性客には大いに受ける。ドーッと笑いが来る。「こんなんでええのん?」と客席に向って確認しながらのトークなのだが、これが実に面白いのだ。

        今でも、ときどきこの日のトークを思い出す。メモも取らなかったが、空で書けるトークがいくつもある。でも書かないもんね。それがエチケットというもの。ましてや、インターネットには載せられません。後半になって、それこそ女性には話せないというよりも、ちょっと人に話すとヤバイというネタまで飛び出す始末。

        この日の話は私の心の中だけに仕舞っておこう。みなさま、ごめんなさい。


May.10,2003 圧巻、国本武春のひとり三味線ロック

4月27日 第287回花形演芸会 (国立演芸場)

        はたしてこの顔づけで、お客さんの入りはどうだろうかと思っていたら、大入り満員。立見が出ている。ええっ! いったい誰がお目当てのお客さんが集まっているんだろう。長井秀和、2丁拳銃、ドランクドラゴンといった若手お笑い芸人目当てなのか、国本武春のファンが集まったのか、はたまたトリの喬太郎を期待してのことなのか? それにしても濃い顔づけだ。

        前座、金原亭駒丸『真田小僧』。頑張ってね。

        この秋、単独で真打昇進が決まった古今亭菊之丞、決定の電話を貰ったのが去年の十二月十三日とのことだという。十五日に私は小さな落語会で菊之丞からこのことを聞いているから、あのときは決定から二日後だったんだ。昇進決定の電話を貰ったときのドタバタした裏話をマクラに、『棒鱈』へ。もともと色気のある人だから、料理屋の女将が上手いのは当然だが、ふたりの江戸っ子、田舎侍もいい。秋の披露興行に向け、頑張れー! 陰ながら応援してるよー。

        現代日本のレニー・ブルースともいうべき長井秀和。その放送コード、ギリギリの笑いは、やっぱりナマが一番。有名人を実名で皮肉るから、ここにも書けないことが多いんだけどね。「ブッシュは、この戦争でイラクの首都がバクダッドだと、作戦を聞かされて初めて憶えた。この戦争はブッシュにいい勉強になっている。間違いない!」 あっ、書いちゃった。「契約は無人だけれど、取り立ての人材は豊富」 「病気になったら、医療ミスにも耐える体を作ってから入院しろ」 「子供に『借りたものは返しなさい』というのは、大人になっても借りてもいない国家の膨大な借金を返さなければならないから、とりあえず余計な借金はして欲しくないという大人の悪知恵なんだ」 秘密の集会に参加したような気分になる。こんな明るくて広いところではなく、薄暗い地下のライブ・ハウスで聴きたいね、この人。

        2丁拳銃の漫才。吉本でもう十年くらい演っている人たちらしい。アニメのアテレコのネタ、テレビショッピングのネタと続いたのだが、私にはいまひとつ笑えなかった。こういうネタが今の人たちには面白いのだろうか? 客席はけっこう若い人たちの笑い声があった。最後は川谷修士が帰省した折にオカンと銭湯に行くというコント風のネタ。うーん。歌も演る人たちらしい、そっちの方を聴いてみたいな。

        国本武春は、この日は浪曲ではなく三味線を抱えて歌を歌う。三味線をギターのようにリズミカルに弾き始める。「手拍子はどうした? 演芸だからといってボーッとしていてはいけません」 国本武春は去年の暮の『ミラクル忠臣蔵』で体験したが、観客にいろいろなことをさせるのだ。乗り乗りで一曲目『堪忍ブギ』。「♪ぶんぶんぶん ぶっ飛ばしちゃえ ぶんぶんぶん ぶっ飛ばしちゃえ・・・・・」手拍子しながら会場は大合唱だ。「堪忍袋の尾が切れた人といえば、浅野内匠頭」と『忠臣蔵』へ。殿中刃傷の場の演技を観客にも演らせるのだから、それこそボーッと見ているわけにいかない。ロック調の『殿中・刃傷』からバラード風の『田村邸の別れ』、ファンク調の『吉良邸討ち入り』。とても耳に残る曲ばかりなのだよ。私も去年CDを買ったのだが、これ、絶対のお薦め。国本武春『ザ・忠臣蔵』、買って損はないよ。それにしても国本武春のテンションの高さ、バチさばきの巧みさはどうだ。中トリだけど、もうこれがトリだったとしてもいいんじゃないかというくらい。

        ドランクドラゴンのコント二本。『爆笑オンエアバトル』で何回か観ているが、塚地という特異なキャラクターと、鈴木の何ともいい間のツッコミが楽しいコンビだ。この人たちのコントは本当に面白い。暴走する塚地に困惑する鈴木というパターンが多く、それがなんとも可笑しいのだ。

『新幹線アナウンス』
        塚地が車掌、鈴木が乗客。ヘンなアナウンスをする車掌に鈴木がツッ込む。この車掌、自己紹介を始めたり、歌を歌い出したり、物真似を始めたり、お便りを紹介したりと、ほとんどDJ気分。

『日本遊技研究部』
        テレビ番組『素晴らしき青春学校』、レポーターの鈴木がある中学校の日本遊技研究部の部長塚地を取材するというコント。緊張しまくりの塚地、トンチンカンな答えを連発する。

        柳貴家小雪の太神楽。五階茶碗、ひとつ毬、水芸。にこやかに笑顔を浮かべながら鮮やかに演じられた曲芸だが、あとで小雪ちゃんのホームページを読んだら、この前日から背中に激痛が走って曲芸どころじゃなかったとのこと。芸人さん、それも身体を使う芸人さんは人知れずに頑張っているんだなあ。

        ドランクドラゴンまでで帰ったお客さんが何人かいた。若い女性ばかり。いつものことだが、若手お笑い芸人目当てで来ている人たちだ。そんな人たちにも是非、トリの柳家喬太郎は観て欲しかった。いつものイントロから池袋案内が始まる。東武、西武、三越、いけふくろう、純喫茶蔵王、サルビア、タジマ米店・・・・・。「サルビアのアイスコーヒー、キリンの大ジョッキで出てくる。ストローがついて来るけど、人間、条件反射で取っ手持って飲んじゃう」 ツクリかと思ったら、先日入ったら本当にキリンのジョッキで出てくるのね、ここ。



        池袋案内からだと古典ということは無さそうと思っていた。はて、『派出所ビーナス』かな?と思っていたら、『母恋くらげ』だった。小学生の遠足でのバスガイドの女性と子供とのやり取りが爆笑ものの噺で、私は大好きなネタのひとつ。「みんなで歌を歌いながらいきましょうね。あとから着いて来てね」と歌いだすのが小坂一也の『青春サイクリング』だの、灰田勝彦の『野球小僧』だの、守屋浩の『ぼくは泣いちっち』だの、懐メロばかり。「知らない!!」 「ババア!!」と言う子供に、「だまれクソガキ。何だったらわかるの?」 「ポケモン!」 「知らない」 「勉強不足!」 「殺すわよ」 

        みかんを食べる仕種を念入りに演ってみせて、「こんなに演らなくてもいいんですけどね、古典出来ないと思われるのシャクだから」と言ってみたり、「私でお終いなの。古典でなくてごめーん」と言ってみたりするのも笑いに繋がると確信してだろう。


May.7,2003 土曜東京散歩道

4月26日 立川志の輔独演会 (サンパール荒川)

        サンパール荒川というホールは初めて行くところだ。都電荒川線で行くらしいのだが、地図を見てみたら、三ノ輪から歩いてもそれほどの距離ではなさそうに思えた。早めに家を出て地下鉄日比谷線三ノ輪駅を下車した。三ノ輪に降り立ったのは何十年ぶりだろう。ここには高校時代の担任の先生の家があり、何回か家を訪問したことがあるのだ。

        このN先生は数学の教師だった。最初のうちはこの先生とウマが合わず、何かというと私はこの先生に反抗していた。N先生も私のことを快く思っていなかったらしい。私たちの仲はピリピリとしていた。それがあるときだった。ホームルームで、N先生は映画の話を始めた。黒澤明、小津安二郎、溝口健ニ、今村昌平、大島渚・・・・・。日本の映画監督の話を次々と始めるではないか。へえー、先生、映画好きだったのか。それからだった。反目していた私たちが急接近したのは。そのころ私は日曜日になると名画座に通い詰めていた。私が『天国と地獄』が好きだと言うと、黒澤明が好きなN先生は、「お前はまだ『生きる』を見ていないだろう。なあんだ『野良犬』もまだなのか。あれを見ないうちは黒澤を語ってはいかんな」とさかんにハッパをかけるのだった。先生とはよく一緒に映画館に行ったものだった。そのうちに先生の家までよく遊びに行くようになっていた。

        N先生、あれからどうなされたろうか? 私は先生の家のあったところに記憶を辿って行ってみた。先生の家はまだあのときの場所にあった。ちょっと改装をされたようだが、ほとんどあのときのままだった。どうしよう、思いきってチャイムを押してみようか? 家の周囲を回ってみながら考えたのだが、どうもお留守らしい。またあとで寄ってみるか。私は背を向けて、サンパール荒川に行く事にした。

        思ったとおり、ものの十分も歩いたらサンパール荒川に着いてしまった。二時の開演時間にはまだ間がある。どこかで昼食にしようとあたりを見まわすと、このサンパール荒川の二階に精養軒が入っているではないか。ちょうどランチ・タイムでランチ・メニューの看板が出ている。入口で日替わりのランチのチケットを買う。席に着いてチケットを渡し、読みかけの本を開いて読み始めたら、ほどなく、クリーム・コーン・ポタージュのカップと、ライスの皿と、ワンディッシュに盛られた料理が出てきた。本日のランチは、鱈のポワレ茸ソース、メンチカツレツ、ロールキャベツ、それに野菜がたっぷり。これにコーヒーがついて950円だ。安くて旨いランチが食べられてうれしくなる。開演直前まで、のんびりと精養軒で過ごす。

        前座は立川志の八『道具屋』。頑張ってね。

        「笑いながら健康になる。こんないいことはありません。笑うということはですね、毛細血管の先の先まで血液が行くということです。これはつまり、温泉に入ったことと同じなんですね。ここまでのこと、ガッテンしていただきましたでしょうか?」 NHKの『ためしてガッテン』で日常生活の知恵を毎週紹介している立川志の輔には、普段落語など聴かない人たちにもファンが多い。客層が他の落語会と微妙に違うのがこの人の会の特徴。

        不祥事を起こした松浪健四郎議員が、お詫びの為にチョンマゲを切ったことに触れ、「別にチョンマゲを切ってくれと言ったけじゃない。坊主になれとかいう次元じゃない。末は博士か大臣かなんて言われていましたがね、総ての職業にいい人と悪い人がいるんですよ。どんな職種がいいというわけじゃないんです」と、『親の顔』に入った。これでこの噺をナマで聴くのは三回目。それでも何回聴いても可笑しい。あまりにユニークな答案を書いた子供に、先生が親を呼んで話を聞こうとする。呼び出しを受けたおとうさん、なんで呼び出されたのかわからない。知り合いに訊いてみる。「何で行かなきゃならないんだろうね」 「会いたいんじゃない?」 「誰に?」 「あんたに」 「・・・オレが答案用紙書いたんじゃないよ。書いたのは息子だよ」 「出した息子の親を見たいんじゃない?」 「どうして?」 親の顔が見たいという意味がわからないらしいこの親にしてこの子ありだったという、今や志の輔の代表作ともいうべき新作。あまりに可笑しいので涙が出るほど笑ってしまった。

        志の輔二席目。「落語って、ボーッと聴いてたってわからないでしょ。頭使わなきゃならない。金払って頭使う。理不尽な芸なんですよ」 文楽の話から、歌舞伎の話になり、やがて『仲村仲蔵』に入っていった。名題になって初めて貰った役が『忠臣蔵』の定九郎という、下っ端の役者が演る役だった仲村仲蔵。なんとかこの役に工夫が出来ないかと思案しているうちに、雨に降られて蕎麦屋で休んでいるところに飛びこんできた浪人者の姿を見て、「これだ!」と思いつく。今までに無かった定九郎を演じた仲蔵。ところが客席はシーンとしている。失敗したかと小屋を飛び出した仲蔵が町を歩いていると、芝居見物を終えたお客さんが出てくる。口々に仲蔵の芝居を褒めているのだ。あまりにいい芝居に声も出なかったのだ。「人間、驚いて息を吸うと、声出ねえな」 「おらあ、おらあ今日ほど生きてて良かったと思ったことはない。今日、芝居を見て、長生きして良かったよ」 思わず涙が出てしまった。

        一席目で大笑いして涙。二席目で感動して涙。志の輔にはすっかり涙を流されてしまった。また三ノ輪まで歩く。N先生の家まで行ってチャイムを押す。しばらく待ったが反応がない。どうやら、やっぱりお留守のようだ。むやみやたらと歩きたくなってきた。三ノ輪から入谷、上野のオートバイ街へと出る。最後に乗っていたオートバイをここのショップに売ってしまったのは、もう十年も前のことだっけ。今度は、休日といえばオートバイでツーリングに行っていた日々のことを思い出した。そうしたら、また歩きたくなってきた。御徒町、秋葉原、御茶ノ水、そして神保町に辿りついたときには、すっかりあたりは暗くなってい。こちらも疲れた。さて、帰りますか。


May.4,2003 また玉ちゃんにやられた

4月20日 ポカスカジャンの脱線音楽祭・スペシャル版
       『ドレミファおやじは歌う』 (新宿シアター・アップル)

        あらあら、気がついてみたら前回のボカスカジャンの単独ライブは去年の1月だったから、これって、1年と3ヶ月ぶり? シアター・アップル満員の入り。

『津軽ボサ』
        バックにバンバンバザール(ギター2、ベース、ドラムス)と杉浦哲郎(キーボード)を迎えての、玉ちゃんお馴染みの曲。『イパネマの娘』のメロディーで津軽弁の歌詞を歌う。内容は・・・・・書けません!! いつもは3番までだったが、今回は4番が加わった。4番の歌詞も・・・・・書けません!!

『三年目のマイケルの真実』
        マイケル・ジャクソンとバシール記者のやり取りを『三年目の浮気』のメロディーに乗せて歌う。マイケル役を省吾、バシール役をノンチン。インタビューの模様を『スリラー』と『ビート・イット』と『三年目の浮気』に合わせて誇張して再現。いかにもバシール記者というノンチンもいいし、「ワウ!」とときどき奇声を発する省吾のマイケル・ジャクソンが可笑しい。

『ノンチン祭り』
        メンバー紹介を兼ねたコーナー。ノンチンについての即興の歌をバンバンバザール、杉浦哲郎、省吾、玉ちゃんが歌う。ネブタ・ビートのドラム、チョッパーベース、カーテイス・メイフィールド風のギター、ジャンク・ピアノを指定して歌いまくった玉ちゃんが座をさらった感じ。

『ポカスカ宗教メドレー』
        テレビでは絶対に出来ないという曲。もちろんここにも書けましぇん!! 替え歌メドレーでズラリ、『喜びの歌』 『ガッツだぜ!!』 『UFO』 『マイ・レディー』 『結婚するって本当ですか』 『リンダ・リンダ・リンダ』 『ホテル・リバーサイド』 『花』 『クリスマス・イヴ』 『桃色吐息』 『港のヨーコ、ヨコハマ、ヨコスカ』 『最後のニュース』 『さよなら』 『三百六十五歩のマーチ』が並ぶのは壮観。玉ちゃんが『天国への階段』のイントロを弾いたところでエンディング。

『早口言葉のJ.B.』
        歌詞が「赤菜っ葉青菜っ葉青菜っ葉赤菜っ葉」だけで、省吾がジェームス・ブラウンの真似をする。似てる似てる。ジェームスおじさんの動きもよく研究しているから、知っている人はより笑えたはず。

『レゲエ早口言葉』
        「お綾や母親にお謝りなさい お綾やお湯屋に行くと八百屋にお言い」をレゲエで歌う。これがポカスカジャンにかかると見事にレゲエになってしまうのだから面白い。

『フリージャズ早口言葉』
        これは凄い。三人がふたつずつの早口言葉を担当してフリー・ジャズに仕上げる。ノンチンが「隣の客はよく柿食う客だ」と「東京特許許可局」。省吾が「すもももももももものうち」と「庭に二羽ニワトリがいる」。玉ちゃんが「ぶぐばぐぶぐばぐ みぶぐばぐ 合わせてぶぐばぐ むぶぐばぐ」。これがどうなるかというと・・・、タモリと坂田明と山下洋輔に演らせてみたいところ。いやいや、ポカスカジャンのもいい出来でした。

『渡る世間は鬼ばかり早口言葉』
        早口言葉を織り交ぜて、ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』を演るというネタ。元ネタを知らない私にはチト面白さがいまひとつわからなかった。

『武田鉄也早口言葉』
        省吾が『母に捧げるバラード』に早口言葉を織り交ぜて歌う。これが単なる物真似ではなく、ちゃんと芸になっているのが偉い。ますます芸域を広げてきたようだ。

『浜田省吾早口言葉』
        浜田省吾には興味が無いので元歌がわからない。しかし、ノンチンの歌う「♪バスガス爆発 バスバスガス爆発・・・」というフレーズは妙に可笑しい。みんなで大合唱。

『さだまさし早口言葉』
        玉ちゃんは、「隣の客はよく柿食う客だ」をさだまさしで。どことなく『雨やどり』に似たメロディーと内容。うはは。

『ガリガリ君』
        着ぐるみのガリガリ君登場。ガリガリ君CMソング実演。

ゲスト・大福神
        野音では大魔人として登場したワハハ本舗の村井経理部長のコーナー。加川良の『教訓』と『伝道』。ちょっと辛かった。ごめんなさい。

『親父ありがとう』
        25分の大作。三人三様に自分の親父に対して捧げる組曲。最初がノンチン、次が省吾、それぞれが父親のどこか滑稽な姿を歌ったのに対して、最後の玉ちゃんのが凄かった。前者ふたりがどこかフォーク調でほのぼのとしていたのに、玉ちゃんのパートは力強いフォーク・ロック調に変化する。「♪おーれの おーやじは 最低だーあったー」と歌い出したのにはびっくりした。酒乱で暴力的、仕事は一定しない、博打には目が無く借金だらけ、ついに両親は離婚って・・・・・すっ、凄い家庭環境。今までのノンチンと省吾の歌が全部ぶっ飛んでしまった。去年は自分の離婚話をネタにして座を総てさらってしまった玉ちゃんだが、また今回もやられた。「親父ー! バカヤロー!」という心からの叫びは、マジだったようだ。

『ポカスカ・ロック・メドレー』
        お得意のナンバー『韓国ロック』(旬なのだが、危なくてテレビでは出来ない)、『ワイルドで行こう 子連れ狼バージョン』、『サーフィン与作』(ビーチボーイズ・サウンドにアレンジした『与作』)、『ジョニー・B・グッド 剣の舞アレンジ』、『ウィ・ウィル・ロック・ユー 新宿二丁目アレンジ』(とても書けません)、『スタンド・バイ・ミー 日本語訳バージョン』(♪オー、ダーリンダーリン、スッテンコロリン、スッテンコロリンと省吾が歌うたびに転がる。ご苦労さま)、これまたお得意『笑点ベンチャーズ』、『ホテル円山町』(イーグルスの『ホテル・カリフォルニア』と島津ゆたかの『ホテル』をドッキング)、『おふくろさんだふるわーるど』(森進一の『おふくろさん』をサッチモ風に。スキャットたっぷり)。

アンコール・『オヤジーザス』
        これも代表作となってきた感がある、村木賢吉の『親父の海』をゴスペルにしたもの。やっぱりポカスカジャンは3人で熱狂モードに入ったときが一番いい。

        2時間半のライヴが終わって頭に残ったのはやっぱり玉ちゃん。もう玉ちゃんしか印象に残っていないんだから。それくらい放蕩親父の歌は凄かった。前回に続いて飛び道具にやられた。ロックしているんだよね、この人。


May.2,2003 どこまでパロディがわかっただろう?

4月19日 劇団☆新感線『花の紅天狗』 (ル・テアトル銀座)

        このところハマってしまっている劇団☆新感線。『アテルイ』や『阿修羅場の瞳』もいいが、『ドラゴンロック』シリーズのようなオバカ路線がまたたまらなく楽しい。この『花の紅天狗』の再演は本当にうれしい。オバカ物ミュージカルだと聞いていたが、まさにこれ全篇がパロディ。下敷きになっているのが、あるマンガなのだが、それすら知らなくても充分に楽しめる。[ガラスの亀]で気がつく人がいて大笑いがおきる。

        いったいどのくらいのパロディが詰め込められているのか。どこまでわかるかは観た人によって差があるだろう。[ガラスの亀]は『亀は生きている』というナンバーでも語られるが、これはもうクイーンの曲を知っていれば知っているほど笑える。一度しか聴いていないが、出だしはもちろん『ウィ・ウィル・ロック・ユー』だし、『ボヘミアン・ラプソディー』はあるは、『サムバディ・ツゥ・ラブ』はあるは、『タイ・ユア・マザー・ダウン』はあるは、『伝説のチャンピオン』はあるは、いったいどれだけのクイーンの曲を使っているのだろう。クイーンの曲を一部ずつ使ってひとつの曲にしちゃったらしい。すんげー!

        池田成志が最初に登場するところでは『白鳥の湖』が流れる。これはもちろん『熱海殺人事件』。「この曲は嫌いだ」というセリフはアドリブなのか(笑)?

        一番気に入っているのが劇中劇の『必殺洗濯人』。よくもまあ、こんなバカバカしいことをマジメに取り組むものだ。これはエネルギーがいるだろうに。

        劇団☆新感線、次は夏に『阿修羅場の瞳』の再演。年末にも新作の本公演が予定されているとか。今、エネルギー全開って感じだね。


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