March.28,2006 新作落語は円丈師匠一派だけではない

3月19日 池袋演芸場3月中席夜の部

        開口一番の前座さんは三遊亭歌すみ。ネットを見てみたら、この芝居から前座に上がったようだ。『道灌』、滞りなくキチンと喋った。これがスタート・ラインなんだなあ。本当に「頑張って!」とエールを送りたい。

        池袋の本席は『新しい噺絵巻』と題して、新作落語が並ぶ。と書くと円丈一派が浮かぶが、今回はそういった系列ではない、もう一方の系列だ。どうも聴いた事が無い噺が並んでいる。

        「さるご贔屓さんの社長さんが、十何億かをかけて家を新築いたしまして、その新居に行ってまいりました。たいへん豪華な御宅だったんですが、なぜか床が傾いている。壁を傷つけるとなぜか赤い液体が流れてくる。これが欠陥(血管)住宅」 三遊亭歌彦『空海のひつぎ』。江戸時代の道具屋で売られている不思議な物体。それを目に付けたお侍が、これは何かと店主に尋ねると、これを売った人に訊いてくれと言う。売主のところに行くと、これは200年後の35mmのニコン・カメラ。男は200年後の人間で、マンホールに入ってトンネルを抜けて、井戸を上がっていったらそこは江戸時代だったと言う。どうやらあの井戸はタイムトンネルらしいと思ったお侍は、井戸に入る。タイトルの『空海のひつぎ』は、200年後の人間の発した「空間のゆがみ」を「空海のひつぎ」と聴き間違えてしまったことから来る。さて、200年後、平成18年の池袋にやってきたお侍は・・・・・。詳しくは書かないが、オチのためにカメラをニコン社製にしたのね。

        「英語で水は?」 「ウォーター」 「火は?」 「ライター」 「湯は?」 「沸イター」 「花は?」 「咲イター」 「フラワーだろうが!」 ロケット団は花粉症対策標語のネタ。

        入船亭扇治『早起き居候』。吉原の遊びが過ぎて勘当された若旦那。ところがこの若旦那、物凄い早起き。若旦那を引取った熊さんがこの若旦那の早起きをやめさせようと苦労する噺。早起きの放蕩息子なんて、本当にいるのかしらと思うのだが、なんだか熊さんの様が無性に可笑しい。

        古今亭菊千代『いただきもの』。植木屋の夫婦が出入りの旦那から食事の招待を受ける。実は旦那の奥さんから着物をいただいているのだが、植木屋の奥さんがそれを着ているところを、旦那夫婦が見たがっている。ところが、植木屋の女房は、その着物を質屋に入れてしまっていた。慌てて質から受け出してご招待にあずかると・・・・・・。いかにも女性が書きそうなネタ。男ではこういう関係性は書けないだろう。

        和楽社中の太神楽は、和楽小楽、それにこの日は和助ではなく小花ちゃん。小楽、小花の傘。小花の五階茶碗、3人でのナイフの交換取り。

        古今亭志ん太『結びの神』。博打で負けてすっからかんの兄ィが、、お稲荷さんのお社で一泊することにする。そこにはいろいろな願い事を書かれた紙が結わかれている。中にはこんなのもある。「ひとつお願いいたします 三遊亭円歌は悪い人 早くあの世に行きますように 馬風」 ふはははは。女が賽銭に包んだ紙を投げつけていくと、その紙には、「ユキジ様とユタカ様の仲が結ばれますように」と書かれている。兄ィは、この願いをお稲荷さんに代わって叶えてやろうとする。ふわっといい話だなあ。

        三遊亭円窓『九品院のそば食い地蔵』。そば屋にやってきた男、初めてそばというものを食べるらしく食べ方がわからない。その様子を見たそばっ食いの大工が、そばの食べ方を教えてあげる。するとよほど気に召したのかこの男、毎日通ってくることになる。そんなある日、男は少年を連れてやってくる・・・・・。気持ちのいい噺だ。しかしそれより何より、円窓のそばの食べっぷりがいい。いかにも旨そうなのだ。自分でそば屋をやっていながら旨そうだと感じるのだから、他のお客さんも急にそばを食べたくなるだろう。

        林家正雀『皿留』。皿回しの名人留さんが1ヵ月も牢に入れられていると長屋中の噂。住民が何があったのだろうと想像しあう導入部で笑いを取る。そのあと、実は長患いのオフクロのために、悪いと知りながら上野の山の桜の枝を2本折った容疑で捕まった留さんと奉行の政談ものになる。枝一本につき指1本を折るという決まりから、指2本を折るということになるのだが、上手い結末へと持っていくのが政談ものの決まり。これ、なかなか良く出来た噺だよなあ。もっと普通の寄席でも演ったらいいのに。

        ひざは林家正楽の紙切り。鋏試しは、[相合傘] [藤娘]の2枚。ご注文は[猫定] [池袋演芸場] [堀部安兵衛]の3枚。[猫定]は「私、落語あんまりよく知らないんです」 [池袋演芸場]は「どこの演芸場を切っても同じです」なんて言い訳しながら、それでも見事なもんだ。

        さてトリが桂南喬『身代わり』。器量しの女房を貰ったというのに、吉原に居続けたい若旦那。あるとき自分と瓜二つな男に出会う。これ幸いとこの男を自分の身代わりに家に残し、自分はというと吉原に入り浸り。こう書くと『干物箱』を思い出すのだが、ここから先が『六尺棒』的展開になり、さらには人情噺になるという、てんこ盛りの噺。やや長いかなあとも思うのだが、どうしてどうして客を惹きつける力は凄い。

        円丈的新作落語は、 荒唐無稽結構、何でもありという空間を広げてきたが、このもう一方での新作落語の流れは、ややおとなしく古風ではあるものの、どうしてどうして、しっかりとまだ新作を作り続けているようだ。こちらも期待が大。

        ところで、正楽師匠に[堀部安兵衛]を切ってもらったのは、かくいう私なのであります。


March.22,2006 歌舞伎をうまく自分の世界に引き込んだ三谷幸喜

3月18日 PARCO歌舞伎
       『決闘! 高田馬場』

        歌舞伎を観るという習慣が無い。落語が好きなのだから、当然歌舞伎も好きなのだろうと思われがちなのだが、観ないんですねえ。以前、何回か国立劇場や歌舞伎座に足を運んだ事はある。しかし結果はいつも爆睡。あのときとはこっちも変わってきているから、案外今観に行くと面白く観られるのかもしれないし、下手をすると夢中になってしまうかもしれない。それはそれで怖いのだけど。しかし、三谷幸喜作・演出となれば行きたくなるではないか。

        幕が上がる前のお囃子の音あわせが鳴る中で、笛が『古畑任三郎』のテーマ曲をサラリと吹いてみせるところから、場内は大爆笑。お囃子が鳴り始めて、何と歌っているのか正確には憶えていないのだが、「♪ばばばばばば ばばばばばば 高田馬場 PARCO歌舞伎 見参!」で、もう興奮に叩き込まれる。

        喧嘩の仲裁でメシを食っている中山安兵衛が、実は長屋の住民の好意で、偽の喧嘩の仲裁に行っている事。そしてどうやら安兵衛自身も、そのことを知っているらしいという設定がいかにも三谷幸喜らしい発想。活劇場面を入れた派手なオープニングから(客席階段を花道に使ってみせるのはほとんど前半だけ)一転、広い舞台を狭く使うという長屋での長屋の住民との仲を描く場面。なぜ、それに続いて安兵衛が酒びたりになったのかを描く場面を経て(途中の人形劇が可笑しい。染五郎が演りながら笑いをこらえきれずに噴きだしていた)、いよいよ安兵衛が走り出す。安兵衛以外にも全員が走り出す。こうなると今まで広いと感じていたPARCO劇場は狭くなる。回り舞台(ハードル跳びには大爆笑)やカーテン状の幕をうまく使って疾走感を出していた。安兵衛が走り出すと客席から手拍子が起こると聞いていたが、なるほど、これは無意識に手拍子を叩いてしまう。

        早代わりも楽しい。安兵衛役の染五郎は、もう一役敵方の中津川祐範を演るのだが、最初の鶏小屋を使った早代わりはお見事の一言。走り出してからの中津川祐範から安兵衛に戻らなきゃいけないところは、うまく笑いを取ってみせる。安兵衛の昔のライバル役小野寺右京を演じた市川亀治郎という役者は達者で目を見張った。亀治郎も敵方の村上庄左衛門を演じるのだが、さらには女形で安兵衛を慕う堀部ホリ役のひとり三役。これも走り出してからのギャグにつながる。又八(と堀部弥兵衛の二役)の中村勘太郎もいい役者だ。実はカメレオンという、この芝居の重要な役で、後半の心の揺れを見せる演技と、亀治郎との釘打ちギャグでの笑いを取るのを一度にこなす。

        それにしても歌舞伎役者の実力には驚かされた。凄い役者が揃っているものだ。三谷幸喜は、PARCO劇場という場と、三谷流喜劇というフィールドにうまく歌舞伎を持ち込んだ感がある。もう一度観たいという気にさせるのだが、そうもいかない。細かなことは忘れているところもある。WOWOWの実況中継でもう一度確かめよう。


March.20,2006 人間の理性を取っ払ってみせる動物園

3月12日 ポツドール
       『夢の城』 (THEATER/TOPS)

        脚本・演出の三浦大輔が『愛の渦』で岸田國士戯曲賞を取ったということ以外、何の知識もないままにチケットを買った。結構過激な劇団だとあとから聞かされて、ちょっぴり怖いもの見たさではあったが行ってみた。

        驚いたのは、この芝居、台詞がまったく無いのだ。役者から台詞を奪ってしまって、動きだけで表現させる。1時間30分、ついに台詞は役者から発しられなかった。

        黒い幕が上がると、狭いワンルームの一室。上手奥に玄関。上手手前が流し。中央奥がバス兼トイレ。家具と呼べるものはほとんど見当たらない。小さな冷蔵庫があるのと、下手に常に点けっぱなしになっているテレビ。部屋はそれこそ足の踏み場がないくらい、いろいろなものが散乱していて、いわゆる片付けられない人の部屋。壁や押入の戸にはいろいろなポスターが貼られている。そこに8人の若者が集団で生活している。男5人、女3人。布団らしきものもあるようなないようなところで雑魚寝状態。どうみても過密な空間で、寝る空間もみっちり。それでもそれぞれは自分の空間を決めているらしく、ほぼその場所を自分の居場所にしている。そこでの24時間を観客は見せられることになる。

        始まりは午前2時。真夜中だというのに全員が起きている。下手のテレビはテレビゲーム・モードになっていて男たちが夢中になっている。上手では2組の男女がセックスをしている。やがてゲームに飽きた男が、このセックスに乱交する。男も女も、この芝居に出てくる若者は茶髪姿。まっとうな生活をしているとは思えない集団だ。やがて3人目の女が帰ってくるが、この女も乱交セックスに加わろうとするが、なぜか相手にされない。

        朝になり、みんなはそれぞれに出かけていく。どこへ行くのかはわからないが、どうも仕事に行くのでもなさそうだ。というのも午後には、次々に帰宅してくる。テレビは相変わらず点けっぱなし。なぜか朝からプロ野球中継が流れている。それをボンヤリと眺めている男。漫画本を読み続けている男。そして昼間からセックスをしている男女。何かの拍子に突然と始まる喧嘩。

        ほとんど昼夜関係なく、この部屋の男女たちはだらだらとした日常を繰り返す。それを延々と観客は観せられるのだが、食生活はどうなっているのか、個人個人でコンビニで調達しているのだろうかと思い始めた夕方、突然、ひとりの女が流しで調理を始める。なにやら素材を切って鍋に入れ、雑炊のようなものを作っているらしい。やがて出来上がった鍋を舞台中央付近に持っていくと、住民が集ってきて、勝手に茶碗に中のものをよそい食べ始める。コミュニティらしきものはあるらしい。それでも登場人物たちは無言だ。

        一日が循環した真夜中。この部屋の住人たちは、みんなでカラオケにでも行ったのだろう。酔っ払って帰ってくる。酔いつぶれて寝てしまう。そんな中、冒頭でセックスに加えてもらえなかった女がすすり泣きを始める。

        なんだか、人間観察というよりはアニマル化した若者の生態を見せられているような芝居だ。なんだか吐き気がしてくるようなものを観せられたような感じになってしまうのだが、ひるがえって考えてみると、「現代の日本社会って、こんなものさ」と突きつけられているような気になってくる。理性を取っ払ってしまったら、私たちは、一日中テレビを眺め続け、セックスのことばかり考えて生きていくのかもしれない。

        凄い芝居だった。観る方もきつかったが、役者さんたちはもっときつかったろう。


March.19,2006 栄助の突っ込み落語

3月11日 深夜寄席 (末廣亭)

        国立演芸場を出て、一旦帰宅。軽く昼寝などしてから新宿へ出る。午後9時に到着すると、もう長い列が出来ている。開場したばかりのときは、さほどの入りとは思えなかったのだが、このところの深夜寄席は開演時間近くなると、来るわ来るわ、続々とお客さんが入ってくる。開演5分前あたりから桟敷が埋まり始め、この5分で、あっという間に満員。ざっと200人近くは入ったろう。

        「私もよく酒を飲みますが、中にはナポレオンなんて高級なブランディを傾けるなんて方もおいでですが、私も人の名前がついた酒を飲みに行きます。・・・・・大五郎というんですが。ウーロン茶で割ると、見た目もナポレオン。もっとも、こちらは紙コップ。東大病院泌尿器科なんて書いてある」 柳家麟太郎『一目上がり』

        「飲む打つ買う、なんて御道楽がありますが、私もやります。栄養ドリンクを飲む、針を打つ、金魚を飼う・・・っていたって健康志向なんですが」 入船亭遊一『干物箱』はいい仕上がりだ。特に、クライマックスで善公が花魁から若旦那に届いた手紙を読んで、自分の悪口が書かれているのを知ったときのキレっぷりが可笑しい。これだけキレれば親父さんやってきちゃう。

        「エアギターってご存知でしょうか? 金剛地武志という人が2年連続世界第4位ということで話題になっていますが、ギターを弾くふりをするパフォーマンスなんです。落語で扇子を箸に見立ててそばを食べるふりをします。これはエアヌードル。また、キセルに見立てて煙草を吸うふりをする。これはエアスモーク。エア落語っていうんですかねえ。みなさんも面白くなくても笑ってくださいね。エアスマイル」 若い客層をうまくつかんで、春風亭栄助は三遊亭円丈にもらった『いたちの留吉』へ。どう変えてもかまわないと師匠に言われた事をいいことに、まったく違う話にしてしまい、元の『いたちの留吉』は跡形もなくなくなってしまったというのだが・・・・・。原型として残っているのは、説教ばかりしたがる老年の留吉という設定だけ。円丈版では刑務所を出所してきた留吉が初めてハンバーガー・ショップに入り、ハンバーガーを食べる噺なのだが、栄助版は、留吉が末廣亭に入ってきて、『寿限無』を演っている前座に突っ込みを入れる噺。最近栄助の新作にはまっている私なのだが、この人の作る落語の構造が何となく見えてきたような気がする。栄助という人の新作落語は、ボケと突っ込みの間合いが落語を突き抜けて、漫才のボケ、突っ込みの感覚にまで行ってしまう。これが今までにない可笑しさ、新鮮さなのかもしれない。今回の『いたちの留吉』は突っ込みの面白さ。『落語家インタビュー』は突っ込み的ボケの面白さだった。逆にボケの面白さは、ひとりコントのベトナム人の噺家。ボケの面白さと突っ込みの面白さ両方が混然としてるのが『怪談話し下手』。これからももっと栄助さんの新作を聴きたい。これからも期待してますよ。

        トリを締めた古今亭志ん太『試し酒』も良かった。いかにも古今亭の芸風の『試し酒』で、うっとりと聴き惚れてしまった。いいねいいね。

        ハネて、栄助さんと軽く立ち話。4月の件よろしく。


March.18,2006 久しぶりに行った国立演芸場の定席

3月11日 国立演芸場3月中席

        国立演芸場も定席の場合は、正式な開演前から前座が上がる。開演15分前に客席に入ったら、もう桂夏丸『玄関の扉』を演っていた。桂米丸の作品なのだが、やや古臭くなってきてしまっている印象。夏丸さんには、新しい新作に挑戦して欲しいな。

        坊主頭の三笑亭恋生。若い噺家さんは、普段みんなラフな格好で、ナップザックに商売道具の着物やらを入れて寄席に向うことが多い。「交番の前で不審尋問を受けちゃいまして。『ザックの中のものを出しなさい』 中から帯や羽織、草履が出てくると、『ああ、お坊さんですか。どうぞいらしてください』」 歌舞伎役者や、中近東のある有名な(笑)人物にも似ていると言われる恋生。お坊さんが一番似合っているのかも。ネタは『初天神』

        宮田陽・昇の漫才は、いつもの『47都道府県』。今までの漫才は、突っ込む側がボケる側をひっぱたくというパターンだったのが、このふたりの場合はボケる側がひっぱたくという逆転の発想。「各県の海産物。北海道」 「しゃけ」 「三重」 「伊勢海老」 「広島」 「紅葉饅頭」 「海にいるものだよ」 「加山雄三」 「いつも海にいるけど食べられないだろ。ほら、広島で有名な二文字で堅い殻が付いている・・・」 「亀」

        「床屋で髪を洗ってもらいますと、前にかがんでシャンプーを落とす場合と、逆にそっくり返った格好で落とす場合があります。そっくり返った形は・・・・イナバウアー」 すっかり荒川静香人気だね。三遊亭円馬は、そのまま『浮世床』へ。囲碁、将棋から芝居見物の夢の話。「『褒めて欲しいところがあったら、私の腿んところをツンツンと叩いてくださいって言ったんだよ。腿の外側が外ロース。内側が内ロース、真ん中がソーセージ」 しょーがないなあ(笑)。

        伊藤夢葉のマジック。カードやロープの普通のマジックだが、この人も話術が達者。寄席のマジックはこうでなくちゃ。

        桂歌春『鮑のし』。この人、動物電気の辻修のヘアスタイルと似ていて、ついつい辻修のクネクネとした動きの一発芸などを思い出して、クスクスと笑い通しになってしまった。ふはははは。

        山遊亭金太郎『替わり目』をキチンと最後のサゲまで。ここまでいかないと、この題名はわからない。

        松乃家扇鶴の音曲。「♪猫になりたや あの家の猫に ついたお方の膝枕 袂咥え じゃれて口説がしてみたい」って、ようよう!

        トリは三笑亭夢丸の新江戸噺『小桜』。ああ、4年まえに聞いたやつだ。印象はあのときと変わりはない。ただ、ちょっと長すぎるような気がして来た。よく出来ている噺なのだが、今回は途中ちょっと聴いていてダレてきてしまった。それでもラストは綺麗な終わり方だよなあ。骨格は日本的な幽霊噺(女性の霊が特定の人につく)なのだが、人情噺でもある。

        久しぶりに国立演芸場の定席に行ってみた。客層は年齢層が高い。一方で噺家の出してくるネタもトリの夢丸新江戸噺を除くと、『初天神』 『浮世床』 『鮑のし』 『替わり目』と、寄席のスタンダードが並んでいた。


March.13,2006 シチュエーション・コメディ+ゲームねた

3月4日 シベリア少女鉄道
      『ここでキスして。』 (紀伊國屋サザンシアター)

        末廣亭を出てサザンシアターへ。シベリア少女鉄道、前回の公演『スラムダンク』は、秋の翁庵寄席とバッティングしてしまい涙ながらに見送ってしまったので、今回はリキが入っている。

        地方のある旅館が舞台。セットは『笑顔の行方』と同じように二階建て。一階上手が玄関で、下手にエレベーターがあり、二階部分の下手同じ位置にもエレベーター。上手には旅館の一室。日本の伝統的な芝居だと、玄関は下手と決まっているのだが、あえて逆にしたのだろうか? もちろん本物のエレベーターが設置されているわけではないだろうから、おそらく役者さんたちは贋物のエレベーター・セットの裏を抜けて上へ行ったり下へ行ったりとしていたわけで、それを想像するだけで可笑しい。

        シベリア少女鉄道を観るのはこれで三作目だが、前半部、これが一番しっかり出来ていた。旅館を舞台にしたいわゆるシチュエーション・コメディで、「あら? 『The有頂天ホテル』?」という感じ。旅館の主と女将、板前と若い中居、地方議員とその息子、それに謎の金髪女がからむ。登場人物それぞれが隠していることがあり、それを誤魔化すために嘘の上塗りをしていくという典型的な展開で、果たしてどうなってしまうのだろうかという興味で引っ張っていく。へえー、こういうことも出来る劇団なんだと驚く。役者の演技も今までになくいいし、演出のテンポもいい。「ええーっ! これがシベ少?」と目を見張っていると、お約束どおり怒涛のネタへと移行する。

        シチュエーション・コメディは、この危機的状況をどう乗り切るのかという興味で進行するのだが、ラスト近くサイレンが鳴り出し、error標示が出て、「物語が破綻しました」というアナウンスが流れる。すると議員と若い仲居以外の人間が、ゲーム機のキャラクターのようになってしまう。ふたりは何とか物語を続けさせようとして人物を配置し直そうと動き出す。ゲーム機の中のキャラクターになってしまった人物は、コントローラーによって動かされるように動くが、それがなかなか思うように動けない。なんとか辻褄合わせをしようとするシチュエーション・コメディをこういう動きによって表現してみせるという方法に笑い出してしまった。

        きちんとハッピーエンドに持ち込み、今回もカーテンコール無し。人を喰った演出家の微笑みが今回も見えるような気がする。こういう芝居、私は好きなのだが、なかなか人を誘って行かれないのが残念。なんだか人によっては怒り出してしまうような気がするからだ。でも、こんな芝居があってもいいんじゃないかな。芝居なんてそんなものでしょ。


March.5,2006 2階が開いた!!

3月4日 新宿末廣亭3月上席

        午後4時をわずかに回った頃に入場。驚いたことに場内満員。最後列で立って観ていようかと思ったら、どうやらテレビの取材が入っているらしく、三脚にビデオカメラを乗せた人が撮影中だ。お茶子さんに案内されて2階席へ・・・ええーっ! 2階席を開けたの!! その2階席もほぼ満席状態。一番手前の空いている席に座る。実は末廣亭の2階席に座るのは初めて。遠い。高座までこんな距離があるのか。高座では昼の部の主任、三笑亭可楽がさかんにマクラをふっている最中。パチンコとカラオケの今昔といった話題をやっている。「昔のパチンコといったら、左手で玉を一つずつ穴に入れて弾いていた。それが今や自動で玉が入っていて、弾くレバーもただ押さえているだけ。そのうちにフィーバー台なんてのが出てきて、今はコンピューター相手でしょ。コンピューターと戦っちゃあ勝てっこない。だから私はもう行きません・・・・・まあ、たまには行きますけどね・・・・・週に3回くらい」 「カラオケも昔は入っている曲数が少なかった。今は何万曲もあるでしょ。私もうまいんだから。『パピプペポ』の人よりうまいよ」 ここで客席からドッと笑いが来たのは先に出た三遊亭遊三が、この日も『パピプ』を演ったからに違いない。そのままネタの『寝床』へ。なるほど。義太夫好きの大家さんに無理矢理に下手くそな義太夫を聴かされるのはたまったものではない。一度は逃げた店子たちも店だてをくらっちゃあかなわないからと戻ってくる。酒と料理を食べながら大家さんの出を持つ。「下戸だから、お茶を飲むって? 頭はっきりしちゃうぞ!」 「くーっ! この刺身のワサビ効くなあ。義太夫で泣けないから、ワサビで泣かすってやつだな」 「三味線の音が聴こえてきたぞ。始まると味が変わってしまうから、今のうちに食っとけ!」 「火事場でもの食ってるようだな。せわしなくっていけねえ」 やだねえ、こんな食事(笑)。

        昼の部と夜の部は入れ替え無しなのだが、なぜかドッと帰る人がいる。下へ降りて前の方の椅子席に座る。このところ視力が衰えてきているから、このくらいの距離でないと演者の顔が見えない。開口一番の前座さんは女流講談、神田蘭。いきなり講談から始まるというのも意表をつかれた感じ。なかなかチャーミングな女性で、まだ二年目だというのに、どうしてどうして上手いよ。『真田雪村大阪出陣』の修羅場をさわりを聴かせてくれたが、いい調子だ。女流講談の世界はますます充実してきているなあ。

        三遊亭遊喜『鰻屋』。「この鰻は太っていて美味しそうだねえ」 「いや、実は骨と皮ばかり。粉飾決算みたいなもので、名前をライブドア」 「鰻に名前を付けてるのかい? このクルクルクルクル回っているのは・・・・・4回転したね」 「それはミキティ」 「この上体を後ろに大きくそらして泳いでいるのは?」 「それはイナバウアー」 テンポのいい楽しい高座だった。

        ギタレレ漫談のぴろき。ラジオの演芸番組では何回か聴いたことがあるのだが、観るのは初めて。ギタレレというのはギターとウクレレの中間くらいの大きさの楽器。弦は6本だが、音はウクレレに近い。ネタとネタの間にギタレレを弾きながら♪明るく陽気にいきましょう と歌うのがこの人の演り方。でもネタはいわゆる自虐ネタ。だからこの途中に入る歌も自虐的に投げやりぎみなのが可笑しい。「おふくろの誕生日に何かプレゼントをあげようと思って、『何が欲しい』って訊いたら、『もっと、しっかりした息子が欲しかった』と言われました」 「こう見えても、ペットはよく懐くんです。最近懐いているのは・・・・・閑古鳥です」 ひろしの場合は、うらぶれたホストという感じだが、ぴろきの場合は・・・・・うらぶれた中年のオジサン(笑)。

        「鍋奉行なんて人がいますね。鍋の前でやたらと仕切りたがる人。そうかと思うと出てくるアクを取るのに一生懸命な人がいる。これをアク代官と言います。何にもしないで、ただ見ている女性。これはマチ娘。お会計の時点で仕切りたがる人。これは勘定奉行。領収書を貰いたがる人。これは上様」 三遊亭遊之介『浮世床』から、与太郎の戦争ごっこ、囲碁、将棋。

        遅い出番のはずだった春風亭小柳枝がここで出てきて、『長屋の花見』を軽快に聴かせてくれた。もうそんな時期かあ。「長屋中 歯を食いしばる 花見かな」

        都家歌六のノコギリ音楽。『憧れのハワイ航路』 『影を慕いて』 『夜のタンゴ』 『フィガロの結婚・恋とはどんなものかしら』 『フニクリフニクラ』。この色物は面白いのだけれど、さすがに5曲も聴いていると飽きてくる。もう少し工夫があるともっと面白くなるのだけどなあ。

        桂歌春は漫談。あるとき高座に上がったらお客さんがひとりだった。怖気ずくお客さん。スキを見て逃げようとするお客さんと、そのお客さんを帰らせまいとお茶子さんも協力しての攻防戦を爆笑のうちに活写してみせた。こんなにたくさんのお客さんがいる最近の寄席では考えられないよね。

        春風亭柳好『壷算』だ。この人にかかると、この話に出てくる瀬戸物屋の主人、壷を買いに来た男、そして兄ィまでもが善人に思えてくる。なんだかホンワリした味わいの『壷算』。それでいて、兄ィが、考え込んでしまっている主人を見て「どうせ来ているお客さんも、半数くらいわからないんだ」とチャチャを入れてみたり、さらに考え込んでいる主人に「♪よ〜く考えよう お金は大事だよ〜」なんて歌って混乱させてみたり、案外意地悪いのかも。

        ここで午後6時30分。このあと芝居に行く予定があるので、末廣亭を後にする。土曜の昼とはいえ、よくお客さんがよく入っているよなあ。どうやら本当にブームらしい。


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