某メーカー製コモンモードフィルタ(コモンモードチョーク)の疑問
ここでは、アマチュア無線局のTVIやノイズ対策グッズとしてコモンモードフィルタ(以下CMF)についての疑問を呈したい。
話が大げさに聞こえるが大それた事ではなく、製品として販売されているCMFの中身をのぞいたら「アレ!」となったからここで取り上げておく事にした。
某メーカーのCMF内部構造
あるメーカー製CMFの内部写真を左に示した。これを見てハッとする人は、いわゆるノーマルモードとコモンモードについてよく理解している人だろう。
写真(CQ誌再撮&トリミング)には非金属(樹脂製)ケースにM型コネクタが取り付けられ、フェライトと思われるトロイダルコアに同軸ケーブルが巻かれコネクタにハンダ付け処理されている。写真のフレーム外だが、反対側も同様にM型コネクタに接続されている。
これを見て何も感じない人は、直流か低周波しか分からない人で、無線の理解に乏しいと思ってよい。
高周波は信号源から同軸ケーブルの芯線経由で負荷に伝わり、シールド経由で信号源にリターンする。もっと言えば芯線の表面を負荷まで伝わり、負荷からはシールドの内側表面を信号源まで返ってくる。芯線とシールド間は常に一定の間隔と静電容量やインダクタンスが保たれている。
こうした高周波の伝送条件に写真を照らしてみると・・・
@芯線がM型コネクタ部分で剥き出し・・・ノーマルモード輻射
Aシールドと芯線の関係が崩れている・・・伝送路特性インピーダンス暴れSWR悪化・・・が確認できる。
コモンモード輻射対策と称してこのCMFをTRCVの出力に入れると、ノーマルモード輻射を招くと言う本末転倒の状況に陥る危険性がある。そればかりSWRの悪化も予想される。無線(高周波)を理解している人であればこの様な造りは絶対にしない筈である。
@同軸ケーブルは、芯線とシールドをバラバラにしないコネクタを使い同軸のまま処理(接続)する
A金属ケースに収める場合は、両コネクタが直流的につながらない様に片方を絶縁する
メーカー製でも様々な物が出回っており、購入する場合は中身の構造まで興味が及んで欲しい。またメーカーさんもその辺の細工をしっかりとやって欲しい。
なおコモンモード輻射(筐体輻射)とノーマルモード輻射(通常輻射)が持つ成分等について記すと・・・。
@コモンモード輻射・・・筐体や装置のコモン(グランドやアース)回路には様々な電流が流れ混合、広い周波数分布と歪み成分が介在する。装置や装置に接続されるケーブル類、更にシステムの全体が輻射エレメントと化す場合があり非常に複雑。アース回路やリターン回路を吟味した製品は筐体輻射に強い。
Aノーマルモード輻射・・・いわゆる本線信号系統で同軸の芯線とシールド内面との関係で伝わるもの。LPFで高調波が-100dB近く減衰と言うのはこれに相当。コモンモード輻射とは無縁な場合もある事を忘れてはいけない。
両者の理解があって初めて闇雲でないコモンモード輻射対策が実現するのだ。
参考・・・Test&Dataの別項目にCommon Mode Filterの実測として、スペアナでの測定例を挙げている。
これはハードディスクが筐体に発生させるノイズを直接スペアナに導いて(スペアナのHot側のみ筐体に接続)示している。無線機などではこうしたノイズが送信周波数及び関連成分と混合される事になる。
CMFの挿入で約20dBの減衰(電力1/100)を容易に得ることが出来る。そのレベル(TV受像機に影響を及ぼすレベル)と目的波レベルとの比(D/U比/Desired/Undesired)が受像機の能力を超えてしまうとTVIとして障害を発生させる事になる。
ところが装置全体をCMFで高周波的に浮かせて遮断すると、装置が大地に対し高周波的に電位を持ってしまい悪影響を及ぼす。例えば高周波による感電や人体などによるコモンモード輻射である。昨日はTVIが無かったが今日はあるとか、雨の日と晴れの日でTVIの状態が異なったりとか、人が座る位置で様子が変わったりとか・・・。
システムの安定化と人体の安全のために、コモンモード輻射に影響無い1点から直接接地を試みたいが、中々難しい。