TL-922のバンドスイッチ・ステアタイト割れ復旧作戦(Jan 3, 2010)
はじめに
KENWOOD(TRIO)のTL-922の出力側に使われているステアタイト(セラミック)製のバンドスイッチ。接点質量が小さいため、寄生発振による放電(熱)で接点が溶解してしまう場合がある。溶解により接点が無くなったり、接点同士がくっ付いてにっちもさっちも行かなくなったりする。
これらを防ぐにはチューニング時のドライブ電力を下げるか、チューニング前にプレートとロードVCの粗調を行うことで回避できる。いきなり所定のパワーでドライブし、VCを回す事はVHF帯で発生する寄生発振のチューニングをしている様なもので、絶対に避けなければならない。
ところが長年使用しているとこれとは違う事が原因でバンドスイッチが不良になる事がある。それは出力側で使われているステアタイト製のバンドスイッチのローターのヒビ割れである。ローターはステアタイトで周辺に金属接点が取り付けられ、真ん中を丸棒を平行に削ったベーク棒が貫通している。ローターは同じステアタイトで接点の取り付けられたウェハーの中を回るようになっている。もしヒビが入るとローターが膨らみ周辺にぶつかり容易に回らなくなる。
実は先般、バンドスイッチを左右に回したところいきなり回らなくなった。既にメーカーが部品供給完了宣言をしたバンドスイッチ、これは自力で修理するしかないと挑戦する事になった。
(1)TL-922のバンドスイッチ
TL-922のバンドスイッチは、入力πネットワークを切り替える2回路6接点(6バンド)のベーク製ロータリースイッチと、出力πネットワークのコイルとコンデンサを切り替えるステアタイト製ロータリースイッチがシャフトカップリングで連結している。出力側は不用な電位を発生させないためにシャフトがベークライト製になっている。
(2)TL-922のバンドスイッチの取り外し
この作業は非常に厄介である。
@スイッチに接続されているコイルタップを半田ゴテを当てて外す。
Aスイッチ上部は半田ゴテが入りにくいのでシャシ上面から攻める。
B高圧チタコンへのスズメッキ線はそのままにしてチタコン側のビスを外す。
C配線の取り外しが終了したらシャフトカップリングと固定ナットを緩める。
Dコイルタップ等の配線を退避させバンドスイッチを取り出す(クリアランスが少ないので注意)。
左は出力側バンドスイッチを取り外したTL-922。
(3)TL-922のバンドスイッチの分解
取り出したスイッチを分解しローターを正面から覗けるようにする。
@スイッチを左右から支持している3mmのビス・ナットを緩め外す。
Aプラスチックスペーサーや支持板等がボロボロと外れる。
Bベーク棒に食い込んでいるΩリングを抜きフレームを取り外す。
Cベーク棒とステアタイトのローター部は接着剤で固めてあるので無理に動かさない。
左は取り外したバンドスイッチ。このスズメッキ線の半田付けは外さない方が賢明。下はプレート側ウェハーでローターにヒビ割れが見える・・・これではシャフトが回らない。ローターのステアタイトには12個の小穴が空けられ、接点はこの穴にリベット留めされている。何らかの要因で質量の少ないルートでヒビが入ると思われる。
(4)TL-922のバンドスイッチの修理
負荷側のローターはショートバー接点が広く大きいため、ヒビが入っても形を維持し回転ができる。しかしプレート側のローターは接点が小さくローターを覆うことが出来ず前項の如くヒビ割れが広がっている。
前者はそのままヒビにアロンアルファを流した。後者はローターの穴を利用しワイヤーで割れたローターを縛り寄せアロンアルファを流し込んだ。
アロンアルファは必要最小限とし周辺に流れ出さないように注意する。アロンアルファの乾燥を待ち分解したときの逆の手順で組み上げる。
左はローターの機能が復活したバンドスイッチ。上面がプレート側ウエハーで下が負荷側ウェハー。ヒビ割れたローターをワイヤー(KQE単線)で縛り寄せている様子が確認できる。
下は組みあ上がったバンドスイッチの背面。KENWOODは既に部品供給を完了しており新規購入は望めない。せいぜい大切に使いたい。
(5)TL-922のバンドスイッチの実装
バンドスイッチの実装は取り外したときの手順を逆に辿る。
左は修理したバンドスイッチを実装し配線を済ませた様子。配線材が非常に大きく作業は苦労が必至。
実装後は何事も無かったようにバンドが切り替わっている。
(6)所 見
個人的な意見だが、スイッチ周辺のコイルやタップリードに比べスイッチ接点の質量は非常に小さい。
ちょっとした放電で容易に溶解すると推測される。タップリードにこれ程に質量を使いながら、タンクコイルのエンドはスズメッキ線で配線されている、そしてこの接点質量・・・やや疑問を感ないだろうか。このクラスのアンプならRadioSwitchの Model86クラスを使いたい。
(7)TL-922関連情報
☆TL-922安定運用のためのヒント
☆Band Switchの紹介
☆Band Switchの紹介A
☆Surplus Sales of Nevraska "Ceramic Rotary Switches"