*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【生きる羅針盤の提案(2):感覚】


 人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。これからさらに,「生きる羅針盤」としての展開の可能性を見ていくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。

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 「私が生きる羅針盤」を考える第2版です。生きるということを考えるのは,実は多様な論点があるはずです。前号では主に身体が生きることに注目して羅針盤視点を点検してみました。今号では,生きる上で大事な機能である感覚という面について,羅針盤考察をしてみます。

生きる羅針盤での感覚です
 感覚は視覚,聴覚,嗅覚,味覚,触覚の五感として整理されますが,ここでは第六感も加えることにします。それぞれの感覚の機能が生きる基本要素にどのように対応しているのでしょう。

触覚:「安心の確保」
 対象物の質感や形状,その温度などを感じて,触れる身の安全を判断します。例えば,突起物のような危険物による損傷を回避します。
 睡眠や休養のために身を任せておける居場所については触覚による確認は必須でしょう。
 仲間との触れ合いの快感,衣装の肌触りの良さなどは,生きることへの「信頼」をもたらしてくれます。

聴覚:「環境の把握」
 音による感知によって自分の身の周りの状況を全方位型で把握できます。例えば,叫んでいる他者の存在している位置,川の流れの音のような自然の動的な環境の様子などをうかがうことができます。
 目的にしている動物などの存在を枯れ葉を踏む動きの音で検知して対処します。
 聴覚とのセットとして発声機能を併用することにより,コミュニケーションを通して仲間内の「理解」が可能になります。

味覚:「滋養の摂取」
 主として生存に必須の食料摂取において,滋養物・毒物といった選別が行われます。普段では,おいしさやまずさといった食欲へ寄与します。
 味の違いを感じることで,多様なバランスの良い栄養の摂取が促されます。
 食物という形を通して恵みをいただくという自然な生物との「互恵」関係を確保することになります。

視覚:「経過の認識」
 獲物など求めるものや危険物のような忌避するものの存在をその形態や色彩によって確認しています。
 対象物の動きを遠近感で検知することから,時間を認識することが可能になります。その能力により,例えば,追跡や逃亡のタイミングをつかめます。
 視覚で捉えている状況がどのように経過するのかを,これからの推移への「期待」につなぐことができます。

嗅覚:「活動の推進」
 対象物との関わりの是非を直前に匂いで検知しラベル付けして,推進するか否かの予備的な判断をすることができます。
 良い匂いならそのまま関わりを推進して,嫌な匂いなら事前に回避するようにします。
 生物である動植物は状況に応じて固有の匂いのメッセージを発散することで関わりを求めているので,それに応じた対応で「支援」が可能になります。

六感:「生命の保存」
 五感による明確な判断が発揮されない場合,限られた情報を経験に照らして,推察する能力も備わっています。
 未知・未体験の自然物などに対する判断では,摂取などの関わりを思いとどまります。しかし,飢えている場合,生きるためには摂取せざるを得ない判断に至るかの決断がなされるかもしれません。
 生きるために群れて社会という生活形態を選んでいることから,仲間との共生を「尊重」するという生命の保存が直感的に機能しています。

 生きることは一体的な営みである以上,上記の感覚も単独で機能しているのではなく,それぞれ関連し合って経験という知恵に形成されていきます。例えば,生きる上で必須の食事行動は,味覚による味のおいしさだけではなく,美しい盛り付けを目で見て期待を高め,よい香りの匂いを嗅いで摂取を促され,歯で噛む音を聞いて新鮮さを楽しむように,生きる喜びを相対的に演出してくれます。
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 生きるということは,五感という機能面を羅針盤に分けてみることで分かることにつながってきました。生きる羅針盤の提案はさらに続いていきます。

(2025年02月09日)