*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【生きる羅針盤の提案(18):非常識】


 人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。

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 「私が生きる羅針盤」を考える第18版です。今号では,『常識がない』と思われてしまう5つの行動…あなたも当てはまる?として例示している記事がありましたので,人権羅針盤に対応を試して見ることにしました。

生きる羅針盤の提案(非常識)です
【対人関係の不良】
《説明》5.相手や周りに配慮のない自己中心的な行動
 他にも相手や周囲の人に配慮のない自己中心的な行動をとっていると,「周りに気を遣えない人なんだ」「常識がなさそうだな」と評価を下げる原因になります。
 ・時間帯を気にせず連絡する
 ・不満や機嫌の悪さをあからさまに表に出す
 ・プライベートな話に踏み込みすぎる
 ・求められてもいない上から目線のアドバイス
 ・会話相手が不快に思うような話題や発言を躊躇なく行う
 ・TPOをわきまえた振る舞いや身だしなみができていない

※常識のある行動をするためには,もう一人の自分が自分の欲している行動が,相手や周りにもたらす状況を真摯に判断しようと努めることが必要です。その基本的な状況として,自分と相手は対等な存在であり,欲していることは違うということを想定しておくべきです。少なくとも,相手を自分の思うがままにしたいという行動は相手には迷惑であり不快でもあることを弁える思慮が,暴走を止めてくれるはずです。自分で望むのは自由ですが,その自由は自分にだけ限定すべきで,相手には決して及ばないのです。

【生活行動の不快】
《説明》3.周りに不快感を与える振る舞い
 周りに不快感を与えるような振る舞いにも気をつけてください。
 ・箸の持ち方があまりにひどい
 ・食事中に「くちゃくちゃ」と音を立てて食べる
 ・乱暴に音を立てながら行動する
 ・最低限の身だしなみを整えずに外出する
 ・トイレで手を洗った後にハンカチで濡れた手を拭かない
 何か迷惑を被っているわけではないけれど,一緒に不快感を与えるような行動は「常識がない」「大人としての振る舞いがなっていない」と眉を顰められてしまいます。

※常識のある行動をするためには,生活上で皆が常識として認めている所作を共有していることです。常識人としての礼儀から逸脱していると,周りに不快感を与えてしまい,結果として他者の安心を奪い,自らの居場所も拒否を招いて居心地の悪いものにしていきます。他者と居場所を共有できない,それは社会生活からのはみ出しとなります。身持ちのだらしなさは非常識です。

【伝達行為の不全】
《説明》4.最低限のコミュニケーションや挨拶ができない
 人それぞれコミュニケーションの取り方は異なります。しかし,最低限の挨拶やコミュニケーションにおける大切なポイントを心得ていないと,周囲からドン引きされてしまうこともあります。
 ・「おはようございます」「お疲れ様です」などの基本的な挨拶ができない
 ・相手の目を見て真剣に話を聞こうとしない
 ・「ごめんなさい」「ありがとうございます」が言えない
 ・会話の空気を読まず相手に寄り添う気持ちがない
 ・基本的な報告・連絡・相談ができない

※常識のある行動をするためには,他者との相互理解ができる対応と所作を身につけておくことです。意思の伝達ではお互いに確認し合うための基本形があります。挨拶などは常套句であるかもしれませんが,分かっているだろうという手抜きが過ぎると,了解しあうタイミングのずれが生じてしまいます。会話にもお互いの気持や緊張,言葉の意味合わせなど,微妙な摺り合わせが一致してこそ,伝達が可能になります。

【社会関係の不守】
《説明》1.基本的な約束を守れない
 人としての基本的な約束事を守れない人は,周囲から信頼されなくなったり,「もう約束するのはやめよう」と距離を置かれてしまいます。
 ・何度も遅刻やドタキャンする
 ・仕事の納期やスケジュールを守れない
 ・職場や公共の場で規定されているルールを守れない

※常識のある行動をするためには,自分がしている行動が社会的通念に適っているという自己確認が必要です。この行動は誰が見ても普通である,誰かの役に立つ関係は円滑に進んでいきます。もしも自分勝手な不都合な事情による振る舞いをすると,他者との共同行為は支障を起こします。そのことを想定できない配慮のなさは、まさに非常識な振る舞いとなります。行動は他者の行動と合わさって意味を得て,価値を生み出すものという理解が常識です。

【論理的思考の不在】
《説明》自分の言動がもたらす後の効果を考えない(この項は羅針盤管理者による追加です)
 ・使った道具やものを放置したままにする
 ・作業途中でいきなり無茶振りする
 ・自分で言った言葉を覚えていない
 ・人の努力や頑張りを平気で無にする

※常識のある行動をするためには,人の立ち居振る舞いは前後につながった連続したものであることを弁えていることです。こうしたらこうなるという論理に従って物事は動いていきます。動く前と後では,動いたものや周りの状況は変化します。その変化を予想してこそ,意味のある行動が可能になります。逆に言えば,論理的な予想を欠いた振る舞いは無謀であり,非常識になるのです。先を見通すことが常識です。

【社会行動の不能】
《説明》2.周りに配慮せず堂々と迷惑な振る舞いをする
 人として,見知らぬ人に対しても配慮のある行動を心がけることはとても大切です。
 ・公共の場所で騒ぐ
 ・公共交通機関内で通話や化粧をする
 ・自分の座席以外の場所を陣取って荷物を置く
 ・歩きタバコやスマホを見ながら通行など「ながら」行動
 ・道路の幅を必要以上にとって歩く
 ・飲食店で食べ終わっているのに長時間居座る

※常識のある行動をするためには,自分の可能性,成熟度を普段に気にかけていることが必要です。自分の成長をもう一人の自分が認めることで,生きている自分を愛おしく受け止めることができます。ところが,自己陶酔してしまい自らがすでに完全な状態にできあがっていると錯覚してしまうと,傍若無人な行動が現れてしまいます。人として謙虚であるという形で成長し続けていた大人らしさを受け継いでいきたいものです。淡々と明日に向かっている自分の生きる姿が見えているから,常識人として振る舞い続けていられるのです。

○以上,常識のない5行動を,「生きる羅針盤」に対応させてもらいました。これまでの対応事例と同じように,あまり違和感もなく整理をすることができていると思います。それぞれの想定している世界観における具体的な表現は違っていても,人が思い至る幸せに生きる境地は本質的に同じ構造になっているようです。それぞれを別個にしておかずに,まとめていく作業から,人の生き方について深い理解が得られるのではないかと期待しています。

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 社会に真剣に向き合って生きていくことは,人として誰もが願っていることです。ただ人には本能から派生する弱さもあります。その弱さを押し込めていく意思が必要になります。そしてその意思は目標を必要とします。それが羅針盤なのです。
 人としてすべきことから外れないようにすることは大事であり,それは誰にとってもできることであり,気持ちの良いものです。しあわせは誰かだけにあるのではなく,皆に同時にあるものです。権利を守る,言葉は堅く響きますが,人として生きていく自然な姿であればいいのです。

(2025年06月01日)