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1993年1-5月の感想

199219930612


木々高太郎集(木々高太郎)
男の首 黄色い犬(G・シムノン)
泣き声は聞こえない(C・フレムリン)
心を覗くスパイたち(H・バークホルツ)
裁くのは誰か?(B・プロンジーニ&B・N・マルツバーグ)
死の長い鎖(S・ウルフ)
殺したくないのに(B・ウッド)
古い骨(A・エルキンズ)
タイム・マシン 他九編(H・G・ウェルズ)
ジェニーの肖像(R・ネイサン)
化人幻戯(江戸川乱歩)
暗い森(A・エルキンズ)
呪い!(A・エルキンズ)
天使たちの探偵(原リョウ)
ダレカガナカニイル・・・(井上夢人)
そして扉が閉ざされた(岡嶋二人)
雪密室(法月綸太郎)
クラインの壺(岡嶋二人)
0の殺人(我孫子武丸)
クリスマス・イヴ(岡嶋二人)
探偵の秋あるいは猥の悲劇(岩崎正吾)
誰彼(法月綸太郎)
殺人方程式(綾辻行人)
頼子のために(法月綸太郎)
そして夜は甦る(原リョウ)
ふたたび赤い悪夢(法月綸太郎)
火刑法廷(J・D・カー)
8の殺人(我孫子武丸)
一の悲劇(法月綸太郎)
心のなかの冷たい何か(若竹七海)

木々高太郎『木々高太郎集』日本探偵小説全集7 創元推理文庫 1985

収録作品
「網膜脈視症」「睡り人形」「就眠儀式」「緑色の目」「文学少女」「折蘆」「永遠の女囚」「新月」「月蝕」「わが女学生時代の罪」「バラのトゲ」

*内容紹介/感想
「網膜脈視症」、父親になつかなかった少年が「何か」のきっかけで父親にまとわりつくほどになった。加えて時々幻視の症状を起こすようになってしまう。そ して、彼は「血に染まる死んだネズミ」には恐怖を見せないというのに、「血を出さずに死んでいるネズミ」には、明かな恐怖を見せるのであった。こういった 事例から、真実が明らかになってゆくのだが。

精神分析を使って解明する謎ときです。「心理分析」というよりは、もうちょっと医学的に踏み込んだ 「精神分析」という感じです。

「永遠の女囚」などを読むと、「こういう恋愛もあるんだー」などとも思えますし、「緑色の目」には愛のパラドクスが描いてあります。「睡り人形」は乱歩風な、ちょっとぶっき〜なのがお好みの方には良いかもしれません。

古臭さはあまり感じず、逆に新鮮な感じ。というわけで、読み終わって満足なのでした。

93/1/13


ジョルジュ・シムノン 宮崎嶺雄訳『男の首 黄色い犬』創元推理文庫 1969
Georges Joseph-Christian Simenon, LA TETE D'UN HOMME / LE CHIEN JAUNE , 1931

*内容紹介
死刑を宣告されている死刑囚が、ある手紙によって外への脱出を試みようとしていた。それを見張って、警部たちは真犯人をつかまえようとするが(「男の首」)。

*感想
「真犯人は誰だ?」の気持ちで読んでいたはずが、いつのまにかある人の行動を一緒見るようになってしまった感じ。途中から、犯人が誰か、というよりも「この人はいったい?」というふうにある一人の人がとても気になってしまう。

読み終わってひとこと。「渋い、渋い、渋すぎる」これにつきます。「人生とは」などと思わず考えてしまう私なのでした(うそ) この「ズーン」とした感じを好きになるか、受けつけないかは分かれそうですけど、私は好き。

93/1/13


シーリア・フレムリン 直良和美訳『泣き声は聞こえない』創元推理文庫 1991
Celia Fremlin, WITH NO CRYING , 1980

*内容紹介
たった一度の経験で、赤ちゃんができてしまった15歳の女の子が主人公。産もうとするのですが、言葉巧みな母親によって、結局はおろしてしまいます。で、 そんな自分も母親も嫌になって、家を飛び出すのですが。お腹には詰めものをして。つまり、自分は妊娠中だということにして。で、彼女の話に同情したあるグ ループたちと一緒に生活するようになるのですが、「いつ子どもが産まれるのか」と周りは楽しみにするわけです。その周りの期待と、本当は産まれっこない、 という葛藤に悩む彼女なのでした。さて、彼女はどう決着をつけたのでしょうか。

*感想
すらすら読めるような内容で、結構飽きさせません。一気読み。何か退屈だなー、軽い読み物が欲しいなー、という時によいと思います。軽いひっかけもあるし(注意深い人はひっかからずに済みそう)。

93/1/13


ハーバート・バークホルツ 染田屋茂訳『心を覗くスパイたち』新潮文庫 1988
Herbert Burkholz, THE SENSITIVES , 1987

*内容紹介(裏表紙より)
CIAは、百万人に一人という心を覗く力を持つ男女を集めてスパイに仕立てあげ、国家の重要機密にかかわる情報戦に利用している。しかし彼らは、そのあま りにも”敏感な心”のために32歳以上は生きることが出来ない、という。ふとしたことから、自分の運命に疑問を抱いたスパイたち は、巨大な組織との対決を余儀なくされる! 特殊な力を持つスパイたちの苦悩を描く異色サスペンス。

*感想
起承転結のはっきりした作品というよりも、いろいろなプロットが まぜまぜになっているような印象を受けました。心を覗けるものどうしの、けれどKGBとCIAという敵同士の恋愛、32歳が平均寿命だという謎の解決がメインでしょうか。

敵どうしゆえに、心で会話をすることしかできない恋人同士。究極のプラトニック・ラブですね。

心を覗けることをうらやましいとは思いませんでした。普段の生活の中で、 「あの人は何を考えているんだろう」と思うことはあっても、この本や「七瀬」シリーズ(筒井康隆)などを読むと、やっぱり平凡が一番だな、と感じてしまいます。

心を覗けるということは、0/1の世界かな。全てが見えてしまって「よむ」「想像する」「推測する」ということがない。相手の心がわからないからこ そ悩んで、考えて、ちょっとしたしぐさに一喜一憂したりする。そういったせつなさや、微妙な気持ちをやっぱり持っていたいです。

93/2/5


ビル・プロンジーニ&バリー・N・マルツバーグ 高木直二訳『裁くのは誰か?』創元推理文庫 1992
Bill Pronzini & Barry N. Malzberg, ACTS OF MERCY , 1977

*内容紹介(裏表紙より)
クレアは怯えていた。合衆国大統領として任期終盤を迎えた夫ニコラス。だが、ここへきて支持率が急落、党内には深刻な亀裂が生じていた。「いまにも悲劇が 起こりそうな、そんな感じがするんです」という秘書の言葉にも、高まる不安を抑えることができない。やがて合衆国大統領の身辺を襲った連続殺人。強烈なサ スペンスのうちに驚天動地の真相を仕掛ける、掟破りの傑作長編。

*感想
政治的が絡む読み物は避けていたんですが、「衝撃のクライマックス」てのにひかれて読んでしまいました。う〜ん。中は普通の推理っぽくて、つらくないので 良かったのです。で、ときどき伏線を張っているな、と思わせぶりな文章などもあったりする。結局は引っかかりたくて読み進めた感じ。

頭の中で「ひっかけが、あるあるある」と構えて読んでいるわけですが、どう引っかけてくるのか最後の最後までわからずじまいでした。こんなだったとはね〜。叙述トリックになるのかしらん。しかし。う〜む。「衝撃」っつーよりは「キツネにつままれた感じ」でした、私は。

どう考えてよいのか、悩んでしまいました。何だか自分の中で理解できてない気がするのです。私って頭悪いのね、と思ってしまった。好き嫌いが分かれるのかもしれない、こういう本は。

93/2/5


サラ・ウルフ 高橋豊訳『死の長い鎖』ハヤカワ・ミステリアス・プレス文庫 1989
Sarah Wolf, LONG CHAIN OF DEATH , 1987

*内容紹介
自分の奥さんをいきなり事故でなくしてしまう主人公。嫌疑は彼にかかるのですが、いろいろ調べていくうちに自分の父親の関係で、多くの人が死んでいることが判明。あまりの大量の死。これは事故死なのか殺人なのか。

*感想
犯人が誰かという話ではなく、犯人がわかった後の、犯人対攻防側の戦いが見物でしょう。お互い裏の裏をかこうとするわけです。

犯人がわかったというのに「実は違うんじゃないか」とついカンゲスってしまう私は、ヒネクレものです。

そうだなあ、でも、少ししたら忘れてしまいそうな話ではありました。妙なヒネリはなく、ストレートな話です。こちらが考えて解答を出す前に、どんど ん提示されちゃうのですね。犯人はこの人で、動機はこうです、というふうに。だから、犯人当てや、動機の妙を感じたい人には物足りないかもしれない。

主人公(善)、犯人(悪)に加えて、警部補が関わってくるのですが、途中までは信用してよいのかどうかわかりかねてしまいます。が、読み進めるうちに、主人公よりも強い印象を受けてしまいました。そんなに出番は多くないのですが、なかなか魅力的(?)な人です。

93/2/21


バリ・ウッド 高見浩訳『殺したくないのに』集英社文庫 1983
Bari Wood, THE KILLING GIFT, 1975

*内容紹介
簡単に言ってしまえば、超能力を持つ女性とそれを追う警部の話。警察が手こずっていた男がある日惨殺され、調べていくうちにどうもその場にいた女性が怪し いと目をつける。死にかたが尋常ではなく、無惨すぎる。しかし、殺された男に誰も触れてはいない。という現在発生した犯罪と、その女性の過去がクロスしな がら物語は進行してゆきます。

*感想
筒井康隆の七瀬シリーズや、この間の『心を覗くスパイたち』も超能力者の話でしたが、今回もや はり主人公は孤独です。過去のエピソードはそれなりに面白いし、大金持ちで超名家の娘が超能力者という設定もまあ良かったのですが全体的にいまいち中途半 端。警部の気持ちがどうしてそうなったのか、こちらとしてはつかめず。心情を追うというよりは、過去/現在の事件を見せられているだけという感じではあり ました。

ただ今回は”一般人”から超能力者への恐怖というのが、初めて感じられました。今までは、超能力者が”一般人”に追いつめられる恐怖しか想定したことはなかったけれど。

例えば、七瀬は”一般人”にとことん迫害され、仲間は超能力者のみだったし、『心を覗く〜』は、やはり仲間は超能力者、そ して”一般人”に利用されていたという感じ。そして、今回の結末は、どうなったと思いますか。「あら〜、ヘンな結末っ」こんな感 じですね。読み比べてみるのも面白いかも。

しかし、超能力者はやはり孤独からは逃れられないのでしょうか。

93/2/24


アーロン・エルキンズ 青木久恵訳『古い骨』ハヤカワ・ミステリアス・プレス文庫 1989
Aaron Elkins, OLD BONES, 1987

*感想
これはシリーズ5作目。推理に「骨」が使われるのは、やっぱり新鮮でした。難しいことを言っているわけではないし。

トリックは結構大胆、動機はまあ単純。どぎつい描写もなく、たんたんと楽しめたミステリです。良くも悪くも基本に忠実な感じでしょうか。強い印象は残りませんでしたが、後味は悪くありません。上げ潮に飲み込まれそうになるのを必死に逃げるところが、読みどころかな。

93/3/3


H・G・ウエルズ 橋本槙矩訳『タイム・マシン 他九篇』岩波文庫 1991
H.G.Wells, TIME MACHINE, 1895

収録作品
「タイム・マシン」「水晶の卵」「新加速剤」「奇蹟を起こした男」「マジック・ショップ」「ザ・スター」「奇妙な蘭」「堀についた扉」「盗まれた身体」「盲人国」

*内容紹介/感想
ジャンルで分ければ 「SF」 になってしまうのかもしれませんが。 どちらかというと、幻想小説っぽい (気がする)。

表題の「タイム・マシン」では、80万年後の未来を覗いた結果が語られます。あまりに遠い未来なので想像もできませんが、悲観的な状況を想定しています。

ほほえましい話もあれば、かなりぞっとする話も含まれていますが、全体的に、読み終わった後奇妙な感触が残る感じがします。たとえそれがほっとする結果だとしてもです。彼の描く想像の世界には、光ではなく、影を感じてしまいます。

最後に収められている「盲人国」は、なぜだか印象深い話。辺境にある盲人国に迷い込んだ、目の見える男の人の体験話です。目が見えるのだから優位に違いないと思い込んでいたことが逆転させられ、挙げ句には愛した女性に「失明する手術」を要求されて。

視覚の優位性を唱えがちな私たちに疑問を投げかけつつ、見えることによる恩恵、見えなくなることへの恐怖が描かれていて興味深かったです。

93/3/10


ロバート・ネイサン 井上一夫訳『ジェニーの肖像』ハヤカワ文庫NV 1975
Robert Nathan, PORTRAIT OF JENNIE, 1939

*内容紹介
簡単に言えば、時を超えた恋愛話。出逢う度ごとに成長する少女と、彼女を描く画家。彼女の住んでいるところもわからなければ、今度いつ会えるのかも定かで はない。画家はただ待っているだけです。過去から現在への0地点へ向かって、話が進んでゆきます。彼女が画家の年齢に追いついた時は、しかし、全てがわか る時でもありました。

*感想
結末はだいたい予想がついてしまうのですが。画家もうすうすは気がついていたようです。これもかなわぬ恋でしょね、やっぱり。

時間を超えた出逢いというと、ピアスの『トムは真夜中の庭で』でも、出逢う度に成長する少女が出てきますがどちらかというと『トムは〜』の終わり方 の方が好きです。それからフィニィの「愛の手紙」という話もありましたが、簡潔、かつ最後まで実際の肉体には出逢えなかったという点で感動が深かったよう な気がします。

93/3/10


江戸川乱歩『化人幻戯』角川文庫 1975

収録作品
「化人幻戯」「堀越捜査一課長殿」「防空壕」「断崖」「凶器」「灰神楽」

*感想
表題の 「化人幻戯」は、電車の中で読んでいるとちょっと恥ずかしいよなところもあり。なんつーか、いろっぽい。なまめかしい。犯人はすぐに見当ついちゃうし、トリックもどうでもよいのですが。女はこわいやね。

93/4/17


アーロン・エルキンズ 青木久恵訳『暗い森』ハヤカワ・ミステリアス・プレス文庫 1991
Aaron Elkins, THE DARK PLACE, 1983

*感想
ギデオンものの2作目です。彼と今の奥さんとのなれそめがわかる。話の展開の邪魔にはなってません。むしろ、ほほえましいし、ギデオン頑張れって感じ。

さて、話のほうは「ありえない」ように見えることで始まりますので「ありえる」ことで終わるのだろうな、と思っていたのですが。裏をかかれた気分。なかなか「ありえない」んじゃない? 終わり方がさわやか。

『古い骨』 『呪い!』 『暗い森』 と並べたら、いちばん好きです。

93/4/17


アーロン・エルキンズ 青木久恵訳『呪い!』ハヤカワ・ミステリアス・プレス文庫 1990
Aaron Elkins, CURSES!, 1989

*感想
ギデオン物では5作目にあたり『古い骨』の次に発表されたもの。

今回は、マヤ遺跡発掘の話と絡みます。ギデオンもので面白いと思うのは、設定がなかなかに「非日常」なところ。だけど、その中で展開する会話、事件 などはとても「日常的」な感じがして。日常的な設定で、あまりにもかけ離れた解決だったりすると「?」と思ってしまいますが、最初から「非日常」の中で起 きたことなら「ありえなく」思えることでも「そうかそうか」と納得しやすい。推理小説自体「非日常」だと思うから、無理して「日常」に当てはめることもな いと思う。どっぷりと「第二次世界大戦の時代」「古代の道具」「マヤ遺跡の絵文書」なんていうのにはまってみるのはなかなかに楽しい。

93/4/17


原リョウ『天使たちの探偵』早川書房 1990

収録作品
「少年の見た男」「子供を失った男」「二四○号室の男」「イニシアル”M”の男」「歩道橋の男」「選ばれる男」

*感想
一番最初の「少年の見た男」を読み終えた途端、「かっこい〜!」と叫びたくなった。それともこれくらいで騒いでしまうのは、甘いのだろうか? ともかく、私は好き!

93/4/17


井上夢人『ダレカガナカニイル・・・』新潮社 1992

*感想
一気読み作品。いいものはいい! センチと言われようと構わないのだ。

突然、自分の意識の中に別の「声」が聞こえ始める。いったい誰なのか。新興宗教問題や幽体離脱など、精神と肉体の話、存在とは何かなどということが語られたりするのだけど、怪しいわけでないし、何だか納得して読めてしまう。

途中で「絶対こうに違いない」ということがくつがえされてしまうし、どう決着をつけるんだろうといろいろ想像もしてみたけど。

”炎”から始まって、”炎”で終わる。推理というよりは恋愛が軸になってる。陳腐な表現だけど、せつない。私も”僕”に「少し眠るといい」と言ってあげたい。

93/4/17


岡嶋二人『そして扉が閉ざされた』講談社 1987

*内容紹介
目が覚めてみると、どこだかわからないところに閉じこめられている、というところから物語は始まります。男女2人ずつの計4人。4人に関わりのあった女性 が”事故死”したことをその母親は「”事故死”ではなく”殺人”だったのだ」 として、4人を閉じこめたのでした。さて、脱出はできるのか。本当に殺人だったのか。

*感想
密室の中の4人の会話だけで、推理が行われていく。それなのに無理がない。最後も、その母親からしてみれば当たり前のことをしただけなんだろうけど、”その間の事実が伝えられる”という意味ではあれに勝るものはないと思う。

93/4/25


法月綸太郎『雪密室』講談社ノベルス 1989

*内容紹介
雪の降った夜に「離れ」で起こった殺人。しかし、発見者の足跡しかなく、犯人は「離れ」から消えたとしか思えない状況だった。

*感想
幹となる筋は、単純。枝葉が多く、考えさせるのはよいと思うけど、いまいち小出しで中途半端な感じ。この枚数の中に収めようとすると、無理があったのでは。でも、話としては面白い。

それでもエピローグの使い方は上手でしたねー。話の途中で「なーんだ単純な仕掛しちゃってー」と小馬鹿にしてたのですが、最後の最後になって「え?」。ちょっと待ってよ、ってことでもう一度エピローグを読み返したのでした。やられた〜。

93/4/25


岡嶋二人『クラインの壺』新潮社 1989

*内容紹介
疑似体験ゲームのモニターになった主人公が巻き込まれた事件。「スターツアーズ」どころじゃないのだ。自分の身体、そのままが、”現実にはない感覚”を感受してしまう、という装置を使ったゲーム。

*感想
と一言で済んでしまいますが、昨日これを読み終えて私は夜中に起きてしまいました。怖い夢見て。絶対この本のせいだと思う。

暴力/血液関係は全くダメですが心理関係の怖さはへっちゃらの私も、これは怖かった。笑い事で済まない気がしてドキドキしてしまった。ありえないことじゃない、と思う。

『匣の中の失楽』 では、自分自身が現実と非現実の中に閉じこめられていく感覚だったから「どっちがどっち?」と惑わされていた。狐につままれたまま、終わってしまったとい うか。でも、今回は、やはり現実と非現実の境界をさまよう気持ちにさせられつつも、本と私の距離がちゃんとあったので、逆に主人公が閉じこめられていく過 程があまりにもはっきりと感じられてしまった。「そっちは絶対現実じゃない!」と彼に叫びたいような恐怖。

あ〜、あんな結末なんて。でも、そうするしかないのか? うぅ、やだな〜(ぞくぞく) でも、おすすめ!

93/4/27


我孫子武丸『0の殺人』講談社ノベルス 1989

*内容紹介
主要登場人物4名の中で起きた連続殺人。

*感想
「4人の中に犯人がいる」という、極めて限られた状況設定の割には楽しめたけど。こういう結末のつけ方、嫌いとは言わないが、もっと練ってから使ったほうが良い気がする。どうもイマイチ説得力に欠ける。スマートじゃないというか。

ついでに気に入らないことをあげてしまおう。笑いを取ろうとしてるようですが、外れてる気がする。あと。「破天荒な作品」とか、「かつて、こんなミ ステリを書こうとした作家は洋の東西を問わず、いないんじゃないでしょうか」などと言うのは読者の決めることじゃないかと思う。

93/5/3


岡嶋二人『クリスマス・イヴ』中央公論社 1989

*内容紹介
別荘でのクリスマス・パーティに出席するために、車で雪道を走る男女。ところが、別荘に着いてみると何か様子がおかしい。別荘は荒らされ、おまけに先に到着していた友人が殺されているのが発見される。犯人はさっきすれ違ったジープか? 警察に連絡しようにも電話線は切られていた。車で引き返そうにも車はメチャメチャに壊されていた。さて、どうするか。

*感想
犯人との追いつ追われつのサバイバル小説。謎ときではなく、もう最初から最後まで犯人とのたたかいです。こいつがなかなか知恵が働くやつで困る。おまけにむちゃくちゃなのでなおさら怖い。悪夢のような話ですが、怖いわりに薄味です。

93/5/3


岩崎正吾『探偵の秋あるいは猥の悲劇』東京創元社

*内容紹介
『Yの悲劇』を本歌として書いたミステリ。「気違い八田家」を舞台に殺人が起こります。

*感想
『Yの悲劇』を読んでいると、「ああ、なるほど」と思って面白いでしょう。『Y』だけでなく『X』『最後の事件』を知っているともっとうなづけるかな。
とはいえ、『Y』のような精密さはないです。

著者はここでもう一つの「すべすべしたもの」を提示しています。『Y』では「すべすべしたもの」で犯人がわかってしまいましたが・・・・・・。

女はやはり怖い、それから、これは確かに”猥”の悲劇だなというのは感じました。

93/5/3


法月綸太郎『誰彼(たそがれ)』講談社ノベルス 1989

*内容紹介
新興宗教団体の教祖が、瞑想するためにに入った塔の中で消失。彼宛てに強迫状が届いていた矢先のことだった。そしてまた、別の場所で首なし死体が発見される。二つの事件の関連を追って推理を展開する法月。

*感想
『密閉教室』『雪密室』に続く3作目。 「消失」 のトリックは早々と解明されるのですが、首なし死体が誰なのか、そして教祖との関連はというところで推理がめまぐるしく展開します。まるでモース警部のよ うに。真相を掴んだかと思いきやそれはすり抜けてしまって、こっちは頭がついていかないまま振り回されてしまってました。悪く言えば凝りすぎ、良く言えば 丹念に読まないとわからなくなる、と言ったところ。「ネタバラになっても良いから話してみろ」と言われても、説明できる自信がちょっとないな。

その推理の展開を、一人の頭の中でやるのではなく父親である警視や警部を巻き込んでするものだからなおさら複雑なのです。しかし、こういう様々な推理を展開させつつ読者を裏切るっていうのは、やっぱり頭が良いからできるんだろうなとも思いました。

93/5/5


綾辻行人『殺人方程式』光文社カッパ・ノベルス 1989

*内容紹介
新興宗教の教主の首なし死体が、川をはさんで反対側のビルの屋上で発見された。彼の妻は、先日変死したばかり。

*感想
トリックは凝っている。伏線も張ってある。動機も島田荘司系(?)である。微妙な心理が描かれていたりする。犯人は意外といえば意外だし。最後に一応ひねりを加えたつもりでもあろう。それなのに、なんでこんなにツマラナク思えるのだろう?

93/5/9


法月綸太郎『頼子のために』講談社ノベルス 1990

*内容紹介
娘、頼子を殺された父親が、犯人をつきとめて殺し、最後に自殺するということで終わる手記。父親は一命をとりとめて昏睡状態。ところが手記を読んだ法月が疑問をもち、真相をつきとめようと動き出す。

*感想
う〜ん、すごい! 密室も屋敷も出てこないし、大トリックがあるわけでもない。それなのに、こんなに惹かれてしまうのはなぜだろう。死んでしまった「頼 子」の足跡をたどって一歩一歩近づいてゆくような展開。いないはずの「頼子」の存在感がすごいよなあ。丹念に書き込まれている文章にも好感が持てるし。密 度が濃いと思う。

最後の2章にず〜ん。微妙な後味の悪さを残して物語は”終わる”のでした。これって確かに「さむけを覚え」るよなあ。しかし、嫌いな終わり方じゃない。さて、続編も読まなくちゃね。

93/5/9


原リョウ『そして夜は甦る』早川書房 1988

*内容紹介
著名美術評論家の娘婿、佐伯が行方不明になった。離婚届と引換に慰謝料5000万円を受け取るという日に姿を見せなかったのだ。依頼を受け佐伯を捜し当てることになった私立探偵、沢崎。

*感想
一言一言のかっこいいこと! こんなにかっこよくて良いのでしょうか。各章ごとにしゃれた終わり方をするので、それも楽しみだったり。政治が絡んできたりするので、話としてはあんまり好みでなかったりもしますが、慣れてないからでしょう。ツマラナイというのとは違います。

というわけで、どっちかというと雰囲気に酔った読み方をしてしまいました。甘くないさっぱりした文章を読むのは気持ちがいいなあ。

93/5/9


法月綸太郎『ふたたび赤い悪夢』講談社ノベルス 1992

*感想
トータルで6作目。『頼子のために』の続編にあたります。『頼子のために』に関わったことで自分の中に疑問が生じてしまい、法月は思い悩む探偵となります。

舞台は芸能界。アイドルが殺人事件に巻き込まれ、法月に助けを求めます。というと、かなり軽そうな内容に思えますが(私も躊躇したのですが)、探偵 役の法月が自分の思考、疑問に目を向けているためかなり思想的な記述があります。軽くはないし、どちらかというと「ミステリらしくない」と言える気がしま す。

私はトリックうんぬんというよりも「物語」の内容に魅力を求めるほうなので、「こんなトリックは不可能だ」とか「矛盾を見つけた」という読み方ができません。緻密じゃないんですね。

今回、私自身少し前に似たような悩みを抱いていたせいもあり、法月が自分に対してどんな解答を見つけるのか、彼の思想を追うことのほうに興味があり ました。それが同じ解答だったので、嬉しかったわけです。ミステリとして読んだというよりも、確認作業的な感じで読んだというほうが正しいかもしれない、 今回は。

93/5/16


ジョン・ディクスン・カー 小倉多加志訳『火刑法廷』ハヤカワ文庫HM 1976
John Dickson Carr, THE BURNING COURT, 1969

*内容紹介
17世紀の毒殺魔に関する原稿を読んでいた編集者が、そこに添付されていた写真を見て、自分の妻に瓜二つだったため驚く。いろいろな事実をあわせてゆく と、その毒殺魔がずっと生きていて、妻となっていることにしか思えない。折しも殺人事件が発生し、容疑が妻にかかりつつあった。不可思議な現象の数々。九 つ結び目のある紐が発見される。殺された人の「死んだら絶対に木の棺に入れてくれ」という懇願。死体が棺から消えていたこと。

*感想
結末は予想通り。最初からそうだと信じ込んでいたから「あっ」と驚きもしなくて。もっとかわいげのあるうちに読んでおくべきだった。こういう結末、嫌いな人は嫌いなんだろうなあ。

93/5/16


我孫子武丸『8の殺人』講談社文庫 1992(1989)

*内容紹介
デビュー作。通路が8の字をした屋敷で起こった殺人。一人は入れたはずのない部屋から投げられたボウガンによって殺され、続く殺人では密室の中でドアに磔になって死体が発見される。

*感想
カーの思想がちりばめられています。密室講義とか入っているし。次作の『0の殺人』よ りもユーモア的には読めるんだけど(それともこれは、『0』を読んだことで慣れたのか?)、動機はちゃちだし、犯人の異常さを描きたかったわりにはうすっ ぺらだし、幕切れはあっけないし。実は読み終わった直後の感想は「なんじゃこりゃ?」でした。めたくたに感想を書きそうだったので、少し落ちつかせてから 書きました。

93/5/16


法月綸太郎『一の悲劇』祥伝社ノン・ノベル 1991
*内容紹介
自分の息子と間違えられて、他人の子供が誘拐された。ところが身代金の受け渡しに失敗し、その子供は殺されてしまう。その裏には子供をめぐる複雑な人間関係があるのではないか? 真犯人はいったい誰なのか。

*感想
こんな設定というのはそうそうあるもんじゃないでしょう。そのわりに地に足の着いた現実的な話に読めます。今回は、法月が活躍するわけではないのですが、 いったい誰の話を信じていいのやら、結構振り回されました。読んでいる途中はやめられないのですが、読み終わってしまうと大した話でもなかったかな、とも 思えてしまう内容ではあります。

『頼子のために』 『一の悲劇』 『ふたたび赤い悪夢』で三部作になっているとのこと。読み終えて、なるほど納得。

93/5/20


若竹七海『心のなかの冷たい何か』東京創元社 1991

*内容紹介
ふとしたことから知り合った女性が、自殺した。そして届いた手記。そこには、友人が自殺したことに対して疑問をもった彼女が事情を突きとめようと友人が勤 めていた会社にもぐりこみ、真相をつかむまでのことが書かれてあった。いきなり手記を送りつけられた「わたし」=若竹七海はとまどうがとにかく調べてみよ うと動きだした。

*感想
かなり読みやすい作品。が、イコール面白い、と単純につなげることはできません。前半は手記、後半は手記をめぐっての真偽を追う形となりますが、作者が迷いながら書いている気がするのです。

この中で探偵役をする「若竹七海」は作者と同名ですが、「どうして彼女は一度しか会っていない私にこんな手記を送ったりしたのだろう」「私はどうして行動してしまってるんだろう」といつまでもいつまでも考えてしまっています。

少し前に読んだ法月綸太郎の『ふたたび赤い悪夢』の中でも法月は悩んでい ましたが、実際それを書いている時には全てふっきれて書いていた印象がありました。でも、この『心の中の〜』では彼女自身が”書きながら ”悩んでいる気がして、こちらとしても困ってしまうのです。混乱している心のうちがそのまま見えていて、文章も何だかあちこち、という感じ で。

しかし、女性ならではのささやかな記述にほんわりしたり。それを収穫と思えばよいかな。J・G・バラードのいいなあと思える文章の引用もあったし。

93/5/23


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