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1997年4-6月の感想

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哲学者の密室(笠井潔)
僕を殺した女(北川歩実)
パラレルワールド・ラブストーリー(東野圭吾)
影の姉妹(佐々木丸美)
新 恋愛今昔物語(佐々木丸美)
ガールズ カメラ スタイルブック
模造人格(北川歩実)
罪・万華鏡(佐々木丸美)
白河夜船/哀しい予感(吉本ばなな)
日本語八ツ当り(江國滋)
木の一族(佐伯一麦)
イスタンブール 時はゆるやかに(澁澤幸子)
ガーデン(近藤史恵)
ぎろちん(C・ウールリッチ)
告別(赤川次郎)
黄金の樹(黒井千次)
人魚姫のくつ(野中柊)
海辺の小さな町(宮城谷昌光)
傷春譜(楡井亜木子)
硝子のドレス(北川歩実)
さくら道(中村朋)
椿姫を見ませんか(森雅裕)
密やかな結晶(小川洋子)
黒い玉(T・オーウェン)
さよならは2Bの鉛筆(森雅裕)
ビタミンCブルース(森雅裕)
薔薇荘にて(A・W・E・メイスン)
メルカトルと美袋のための殺人(麻耶雄嵩)
花のレクイエム(辻邦生)
森の匂い(楡井亜木子)
推理小説常習犯(森雅裕)
夜が闇のうちに(楡井亜木子)
ライフ・アフター・ゴッド(D・クープランド)


笠井潔『哲学者の密室』上・下 光文社カッパ・ノベルス 1996(1992)

*内容紹介(下巻 裏表紙見返しより)
ダッソー邸「三重密室」事件の被害者はナチ戦犯か? 容疑がかかる屋敷の主と三人のユダヤ人滞在客は、コフカ絶滅収容所の生存者とその子供と判明。それをもとに事件を追う矢吹駆とナディアは、三十年前のコフカの大量脱走劇の裏で起きた、もう一つの「三重密室」殺人の存在を掴んだ。さらに、二人の前には新たな死者が出現し。三十年の刻を隔てて現れた「三重密室」の謎? 二つの密室殺人に底流するドイツ人哲学者・ハルバッハの「死の哲学」の影。二十世紀の思想史を根底から覆す衝撃の事実とは!ミステリーを世界史と哲学の領域にまで踏み込ませた驚愕の本格傑作推理!

*感想
やっとひと仕事終えたような気分です。わかりにくく難しいテーマを下敷きに書いたミステリという印象。ミステリの元になる下敷き(哲学)が私にとっては大きすぎたようです。この事件の心理的動機は、この哲学を下敷きにしなくても説明がききそうに思えたのですが。なので、著者はよほど、この”ハルバッハ”の哲学の展開(解釈?)を書きたかったのかな、などと思ってしまいました。

内容的にはすごく重いし、悲劇的なのですけれど、なぜだか前三作のほうが印象的に思えたりします。

97/4/1


北川歩実『僕を殺した女』新潮社 1995

*感想
読みだしてやっぱり止められなくなってしまう。しかし翌日会社がある身なので、行きの地下鉄で読めるくらい残して泣く泣くパタン。私にとっては頭の混乱する話で、モース警部の推理に付き合ってるみたいでした。少しの新事実+推測・推理で展開してゆくわけです。でも面白いし、気になるしでやめられなかった。転がり混んだ先の男の人、いいですねー。料理のできる男の人っていいねえ。主人公と彼の関係も自然で好感が持てたというのもポイント高いです。『模造人格』がジャプリゾの『シンデレラの罠』とアイデアが同じとらしいけど、この『僕を殺した女』にもその雰囲気がありました。

97/4/7


東野圭吾『パラレルワールド・ラブストーリー』中央公論社C・NOVELS 1997(1995)

*内容紹介(カバーより)
総合コンピューターメーカーで仮想現実を研究する敦賀崇史は、ある日違和感を覚えた。今一緒に暮らしている麻由子は、自分の恋人ではなく、無二の親友智彦の恋人だったという記憶が過ぎったのだ。俺には、もうひとつの過去があるというのか? 崇史は智彦を訪ねるが、姿はなく、部屋は何者かに荒らされていた。「記憶」に翻弄されながらも、崇史が辿りついた切ない愛の結末は。

*感想
北川歩実に続いて「記憶もの」が続いてしまいました。章の構成が良く出来ていますね。最初は離れていたのがだんだん近づいていくような不思議な印象を持ちました。

絡めてある(というか軸というべきか)恋愛話は結構シビアですね。恋愛か友情か、究極の選択。どろどろ感は感じられないのだけど、2人とも随分思い詰めてました。結末のつけかたは、うわー、これはちょっときついわー。相手にそんなことされたら。確かに泣けます。

でも。片方がそんな選択をとらなければ、もう片方だってそんな選択をとらなかったんじゃないだろうか。悪く言えばその方法は”逃げ道”であって。う〜ん。

97/4/9


佐々木丸美『影の姉妹』講談社 1982

*内容紹介
迩々玉(ニニギ)という女の子から始まって、その子供、孫、曾孫、と続いていく歴史が6つの物語として連作になっています。彼女は、生まれた時に双子なのじゃなくて、生まれた時は一人なのに生まれてから二人に分かれる、という不思議な体質(?)を持っています。が、双子でさえ忌み嫌われるという時代、理解のある男性が彼女を引き取り、人目を避けて山の奥にひっそり暮らすようになります。周りの世話をする人とともに。その後、彼女とその子孫はどうなったのか。

*感想
おお、相変わらずの佐々木節。彼女の書く地の文には、手紙というか詩というか、不思議な感覚をおぼえます。さて、この話、最後まで読むと輪廻転生話にもなっているようで、構成が良くできています。六代にもわたる、この分身(?) の因果に果たしてどう決着がついたのか読んでいただきたいところですが、あいにく品切れ。図書館などで見つけたら読んでみて下さい。

97/4/11


佐々木丸美『新 恋愛今昔物語』講談社 1981

*内容紹介
春緒、夏緒、秋緒、冬緒、4人の女のくされ縁でつながる友情。1人は美しくないのを、1人は結婚できないのを、1人は貧しさを、1人は若くないのをひがんでいた。さて、4人の身にそれぞれ奇跡が起こり、それぞれ自分の希望が叶えられてゆくのだけど、欲を出して失敗してしまう、という話。

*感想
結局は、4人にお相手となる男性が現れるんだけど、「ひがみ」=コンプレックスのせいで過剰反応。これまた連作になっていて、奇跡は夏、秋、冬春の順番で起きて、みんなが失敗するんだけど、ちゃんと失敗を踏み台にしていい方向へゆくから救いがある。結構面白かったなぁ。

佐々木丸美って、確かに古くさい点は否めないんだけど、品切れってのはきつい。せめて、断章&館シリーズ+周辺あたりは復刊すればいいのにね。

97/4/11


『ガールズ カメラ スタイルブック』ネオファクトリー 1997

というのを見つけたのだけど、表紙が松たか子、おまけにニコンのNEW FM2などというマニュアルカメラを持ってる。帯には「完全完璧 マニュアルカメラなんてカンタンだ!!」という文句。コンセプトは「カッコが大事!」ということでファッションとしてのカメラのすすめかと思いきや、そうでもなくて用語解説、モノクロプリントを自宅でやる方法、マニュアルカメラの購入時の注意がきちんと載っている。そして半分以上がマニュアルカメラカタログ。古いのから新しいのまでたっぷり。

もちろん(?)買ってしまいましたが、見ていてなかなかに楽しい。女の子度(特に女の子が持っていたら可愛い度)とスタイル度(持っているだけでカッコイイ度)付き。書いた人の好みが見えかくれしてるけど。そこはそれ、楽しい。

どうにも私には、女の子向けというより、カメラ好きな人向けに受けそうな気がしてならない。

97/4/17


北川歩実『模造人格』幻冬社 1996

*内容紹介(帯より)
旅行中、突然、母が行方不明になった。途方に暮れる”わたし”の前に現れた3人の男たちは一様に、おまえは偽者だ、4年前に死んだはずだ、猟奇殺人事件で殺された、と言う。ならば”わたし”は誰なのか。それとも彼らが嘘をついているのか。母は、なぜ帰ってこないのか。じわり、しのびよる失われた記憶が甦る恐怖。

*感想
確かにこれは、日本版・ジャプリゾ『シンデレラの罠』。しかし、それよりももっと緻密かつ複雑です。ついてゆくのに苦労しました。誰が真実を語っているのか判断が難しく振り回されっぱなしでした。が、それが面白さにつながって読ませてしまうところがすごい。Aの記憶を持ったBと、Bの記憶をもったAがいたとしたら、果たしてどちらがA(あるいはB)なのか。人格=記憶なのか。読めば読むほどに考えされられた、興味深い内容でした。

97/4/26


佐々木丸美『罪・万華鏡』講談社 1983

4つの物語の連作。ともに、Aという少女がBを殺してしまう内容。真相は、精神科医、吹原氏の手によりほぐれていくが、心理的に追いつめられていたAが実は被害者的存在立った、というもの。まあまあのおもしろさ。

97/4/26


吉本ばなな『白河夜船』福武文庫 1992(1989)

吉本ばなな『哀しい予感』角川文庫 1991(1988)

夜のしめりけのようなもの。孤独。死の香り。血のつながり。思いつくキーワードしか書けない。使われている言葉も文章も素敵なんだし、読んでいる時はしっかり入り込んでいるんだけれど、すじを忘れてしまうのも早いのです。彼女の書くものが評価されるのだとしたら、江國香織ももっと評価して欲しいなあ。ばななが好きなら江國香織『落下する夕方』なんて良いよ。

97/4/26


江國滋『日本語八ツ当り』新潮文庫 1993(1989)

江國香織の父上。娘のエッセイによると、小学1年の時、自分の絵日記に「日記は今日のことなのだから、今日は、はいらない。それに、自分のことなのだから、私は、もいらない」と注意をしたそう。これを読むとなるほど納得。言葉に関しては相当うるさそうな、おとうさまです。が、ユーモアがきいていて、とても楽しい。

97/4/26


佐伯一麦『木の一族』新潮文庫 1997(1994)

収録作品
「行人塚」「古河」「ある帰宅」「木の一族」

彼の本は、『ア・ルース・ボーイ』新潮文庫、1994(新潮社1991)、『一輪』新潮文庫、1996(福武書店・現ベネッセ1991)と続けて追いかけてきたけど、だんだんシビアになってきて、読むのがつらくなってきた。彼自身の体験を下敷きにした小説みたいだけど、あまり幸せそうじゃあないなあ。

97/4/26


澁澤幸子『イスタンブール 時はゆるやかに』新潮文庫 1997(1994)

イスタンブールに初めて訪れた時から魅せられて、それから毎年行くようになった彼女。向こうで出会った人々や体験をまとめたものです。なかなか冷静に細かく書かれています。10年以上訪れているので、知り合いの人たちの変化もあり、一気に読めました。

97/4/26


近藤史恵『ガーデン』東京創元社 1996

*感想
相変わらず、ふわふわとなま暖かい雰囲気で話が進みます。雰囲気に馴染めない人もいるかもしれないけど私は気になりませんでしたし、一気に読まされました。彼女の書くものを読んでいると、「なま暖かい血」というものをすごく感じてしまいます(あー、書いていて気持ち悪い(^^;)。なんでなんでしょうね。雰囲気のなせる技なのかな。

さて内容の方ですが、面白く読んだわりに後味はあまり良くなかったですね。火夜という女の子、かき回してるなあ。かき回す女の子は嫌いじゃないんですが、殺す殺されるということまで関わるとなると別です。

今泉&山本くんの知られざる背景が後半でいきなりわかったのですが、この唐突さにちょっと喜んで、これはすごい展開だ、物語の結末もすごいことになるのかも、とわくわくしていたら、あっけなかったのでがっかり。こんな不思議な設定にするんだったら、それをもっと膨らませて是非とももっと悩める探偵にして別の物語を作って下さい、なんて思ってしまいました。今まで読んだ中では、『ねむりねずみ』が好きかな。

97/5/1


コーネル・ウールリッチ 稲葉由紀訳『ぎろちん』ハヤカワ・ポケット・ミステリ#648 1961
Cornell Woolrich, GUILLOTINE

収録作品
「ぎろちん」 MEN MUST DIE (GUILLOTINE) (STEPS GOING UP) (1939)
「万年筆」 DIPPED IN BLLOD (FOUNTAIN PEN) (1945)
「天使の顔」 FACE WORK (ONE NIGHT IN NEW YORK) (1937)
「ワイルド・ビル・ヒカップ」 WILD BILL HICCUP (1938)
「穴」 THREE KILLS FOR ONE (TWO MURDERS,ONE CRIME) (THE LOOP-HOLE) (1942)
「ストリッパー殺し」 THE FATAL FOOTLIGHTS (DEATH AT THE BURLESQUE) (1941)

*内容紹介/感想
短い中にハラハラドキドキを上手に詰め込んでくれてます。この短編集は”偶然”をテーマにしたものを集めたのでしょうか(「ワイルド・ビル・ヒカップ」は違うか)。故意と偶然の境目、という微妙なものを扱っていて面白かったです。

表題作「ぎろちん」は、ラモンの命を救う為に家財を売り払ってまで弁護士を雇った恋人が、彼の死刑が確定した後にもあきらめずに、最後の手段をとったという話。素直な話かと思いきや、最後はまるでブラックユーモア。「万年筆」は、因果応報話。とても良くまとまっていて面白い。「穴」は、無実の人を死刑にしてしまったことを世間にばれないように実際の真犯人を釈放した、ということをどうしても許せない刑事が、その真犯人につきまとってつきまとって、ニックネームで呼び合うくらいにまでなって、そして一瞬のチャンスを掴んで、という小気味良い話。「ストリッパー殺し」は、どんでんがえしが決まってる。

97/5/8


赤川次郎『告別』集英社文庫 1997(1995)

収録作品
「長距離電話」「自習時間」「優しい札入れ」「愛しい友へ」「雨雲」「敗北者」「灰色の少女」

*感想
すごく読みやすかったです。ただ、読んでいる時は面白いんですが、その面白さが持続しないな、とは感じました。内容は重いものもあるのですが迫ってこないといいますか、強いインパクトを感じられないのです。さらっと読めすぎちゃう、というのかなぁ。でも、そこが欠点でもあり、良さでもあるんでしょうね。

97/5/13


黒井千次『黄金の樹』新潮社 1989

『春の道標』の続編。かなしくおわった2人が、再会してしまう。読み終えてみて、読んで良かったのか、知らないでいたほうが良かったのか、複雑な気分になりました。映画のニュー・シネマ・パラダイスの2時間版と3時間版を両方みて、どっちが良かったかきめかねているような感じです。ちょっと違うか(ちなみに2時間版のほうが好き)。続編というのは、書かれれば嬉しいのだけど、うーん、複雑だ。本編が好きなだけに、その雰囲気そのままを保って欲しかったのかも。これを読むと、前回の障害がほんとに取るに足りないもののように思えてくる。確かにそうなんだけど。ただ単に2人が幼すぎたってだけか?うーん。私が不幸好きなのかなぁ。続編にとびついたくせに、わがままですね。でもやっぱり読めてよかった。

97/5/13


野中柊『人魚姫のくつ』新潮社 1994

サーカス団の玉回しだったまり子には、3人同時につき合っている人がいた。で、子どもができてしまったが、誰の子かわからない。消去法で相手を選んで結婚するが。最後まで読んでもなにが書きたかったのか良くわからず。つまり、まり子さんは愛するより愛されることに価値を見いだす人ということか? たしかにそれではいつも不安でしょう。

97/5/13


宮城谷昌光『海辺の小さな町』朝日新聞社 1996

備考:「アサヒカメラ」に、1994.4−1996.4まで連載されていたもの

最近カメラを手に取るようになった私には、特に興味深い内容でした。なまじ専門用語があふれているテクニック本を読むよりも、この本を読んだほうがすっきりわかりやすい気もします。父親からいきなりカメラを渡されて、何も知識のなかった雄二が、カメラを通して人間関係が広がってゆくのがちょっと羨ましかったです。さわやかすぎて物足りないところもあるけれど、いい内容でした。

97/5/18


楡井亜木子『傷春譜』新潮社 1994

収録作品
「傷春譜」「あたたかい鎖」

父と継母と共に暮らす磨理枝は、幼少の頃から醒めたまなざしで、周りや自分を客観的に見つめてきた。が、ある時、友人の夕凪からもらった芝居のチケットを見に行き、「どうしても手に入れたい」と思う人を見つけて、追いかけていってしまう。磨理枝の情熱(?)と受け入れた(?)その相手の奇妙なバランスに、心がざわざわした。なんなんだろう、この物語は? 以上が「傷春譜」。「あたたかい鎖」は、磨理枝の友人、夕凪の物語。こちらはもっとクールで、大人びていて、かわいげがないといえばない女の子。中学3年の時に、気に入った男の人(24) に、つき合う事を承諾させた。でも、彼は自分一人じゃないってことも知ってた。以前、山田詠美の『放課後の音符』を読んだ時に、ずいぶん大人っぽい高校生だなーと感じたけれど、その比じゃありません。私、最初から気合いで負けてしまいます。どちらの話も終わり方が私にとってはショッキング。悪くないなー。

97/5/18


北川歩実『硝子のドレス』新潮社 1996

読めば読むほど怖くなり、でもやめられない、という内容でした。この中のエステ業界の話、ありえない話じゃないな、と思わせるあたりが怖かったです。3作読んだ中では、一番混乱せずにすみました。これまで作品を読んでみると、見えるもの(顔など)と見えないもの(人格、性格、記憶)との関係を、「入れ替わり」などを使いながらちょっと考えさせるように書くのが上手だな、と思いました。

97/5/21


中村儀朋『さくら道 国鉄バス車掌 佐藤良二さんの生涯』風媒社 1987

副題にもあるとおり、自分の勤務路線である名古屋−金沢間の路線をさくらの木でいっぱいにしようとした人の生涯を、彼の残した日記を織りまぜながら辿ったもの。さくらを植え始めたきっかけは、ダムに沈む運命の村にあった樹齢400 年を超すさくらの木が、周りの無理だ、の声に反して移植先に根付き、見事に花を咲かせ、そしてそれを見たその村出身の老婆が木にとりすがって泣いているのを見てからでした。ガンに侵されても植え続け、47歳の若さで亡くなった彼の生涯は壮絶としか言いようがないです。

97/5/21


森雅裕『椿姫を見ませんか』講談社 1986

*感想
森雅裕のものを読むのは初めてでした。結構人も多く死んでしまうのだけど、血なまぐささの全くない、爽やかな読後感。気の強いヒロイン、尋深(ヒロミ)、いい味出してますね。学園を舞台にした作品は結構あるけれど今まで読んだ中では一番親近感がわきました。芸術大学の特異な雰囲気も描きながら、わざとらしくなく、つくりものめいてもなく、生き生きしている「学生生活」が描かれているように思います。楽しく読めた本です。会話なんて、なかなかしゃれています。

97/5/22


小川洋子『密やかな結晶』講談社 1994

*内容紹介
とある島で。少しずつなにかが消えていってしまう生活。たとえば「香水」がある日消滅する。すると人々の記憶の中から「香水」が消えてゆくのだ。そしてそのものを見ても、何の感情もわいてこなくなる。しかし一部、記憶を失わずに自分の中に消滅を見いださない人々もいる。秘密警察が彼らを捕まえようと目を光らせている。小説を書いて生活していた女と編集者R。Rが記憶を消滅させない人だったことから、彼女は彼を匿う生活を始める。日々、失ってゆく彼女と、狭い空間に閉じこめられて生活する彼。「小説」が消滅しても、彼は彼女にものを書くように説得するが、ある日、「左足」が消滅する。自分の肉体自身が消滅の対象となっていって。

*感想
彼女の書いていた小説が全部「消滅」に関するもので、ときどき挿入されるその小説の結末が、この物語自体の最後の伏線になってる。だから、最後まで読むと謎解きみたいに「はっ」と思える。ちょっとシュールで、かなしい話。目に見えているのに、「消滅」すれば「存在しない」なんてね。

97/5/22


トーマス・オーウェン『黒い玉』東京創元社 1993(1980)

挫折しました。 綾辻の『殺人鬼』も、我孫子の『殺戮にいたる病』もなんとかクリアしたけど、これだけはだめ。血がドバーっていうのでもないんだけど、雰囲気でだめなのかなぁ。短編集なんだけど、最初の話に剃刀がでてきちゃってもうだめだーと思った。体調悪いのにパラっとめくったのがまずかった。余計気分悪くなった。これ昼間読んでもだめかも。くやしい。誰か挑戦してみて下さい。

97/5/26


森雅裕『さよならは2Bの鉛筆』中公文庫 1991(1987)

収録作品
「彼女はモデラート」「郵便カブへ伝言」「さよならは2Bの鉛筆」

横浜山の手のお嬢さん、鷲尾暁穂が、身近に起きた事件を解決していく、というもの。この暁穂と友人の朋恵のやりとりを始め、会話のテンポが良くて、それだけでも楽しめる。現代っ子のわりに昔気質なところもあって事件の解決も「かたきをとる」心意気のようなものがあり、とにかく、スカッと爽やか我が道をゆく暁穂嬢に惚れた。

97/5/29


森雅裕『ビタミンCブルース』新潮社 1993

読みだして間もなく、森高千里をモデルにしたんだな、とわかります。知ってる歌が出てきて、わはわは楽しめました。森雅裕の作品は、キャラクターを楽しんで読んでいます。

97/5/29


A・E・W・メイスン 富塚由美 訳 『薔薇荘にて』 国書刊行会 1995
A.E.W.Mason, AT THE VILLA ROSE, 1910

*内容紹介 (表紙折り返しより)
南フランスの避暑地エクス・レ・バンで、宝石の収集家として知られる<薔薇荘>の富裕な女主人が惨殺された。室内は荒らされ、同居人の若い女性が姿を消していた。事件の状況は一見明白に見えた。しかし、少女の恋人の求めに応じて立ち上がったパリ警視庁の名探偵アノーの活躍によって、操作は意外な展開を見せ始める。少女の秘められた過去、降霊会の実験、消えた自動車と足跡の謎。事件の夜、一体何が<薔薇荘>で起ったのか?

*感想
名探偵アノーは、ポアロめいていてちょっといけすかないやつ。「私はあなた方に意見を求めはしても、自分の考えを述べることはしません」なんて言うわけです。それはいいとして、事件自体は魅力的に思えますが、捜査の進みはオーソドックスで、悪く言えばちょっと退屈。お決まりの第二の殺人も起きたりします。これは意外な犯人を楽しむ話だろう、と読み進めていくうちに、物語の2/3くらいで犯人はわかってしまいます。その後、事件の真相が、生き残った人から語られる手法で、私にとってはこれがとても新鮮でした。なんといっても、殺されかかった人間から語られる恐怖の物語ですから、迫力があって、もー、こわいのなんのって。倒叙ものは犯人側の、犯行の計画から実行までを読者は追っていくわけですが、それとも違う、不思議な魅力がありました。また、「降霊会」というのは、一見あやしげで、物語全体がけむに卷かれそうな雰囲気がしますが、全く違いました。事件全体の鍵を握り、説得力のある真相を導くことになったのですから。

97/6/1


麻耶雄嵩『メルカトルと美袋のための殺人』講談社ノベルス 1997

*収録作品
「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」「化粧した男の冒険」「小人*居為不善」「水難」「ノスタルジア」「彷徨える美袋」「シベリア急行西へ」

*感想
美袋(ミナギ)というのは岡山の地名にあるそうですが、これは人の名前。『奇想の復活』に入っていた私の大好きな「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」が加筆、改稿されています。しっかし、読めば読むほど、メルカトルって悪人ですね。そんなんありなの? って方法を使うし。こんな人間には関わりたくない。切れ味鋭い物語群ではないのでやはり好みは分かれると思いますが、雰囲気自体は嫌いじゃないです。

97/6/5


辻邦生『花のレクイエム』新潮社 1996

山本容子さんの銅版画が美しくて買ったようなもの。1月から12月までの季節の花をテーマに小さな物語が描かれ、ほっとひといきつけました。品がよすぎるところが物足りないかな、と思わせますが、物語が全て思い出に絡んでくるので、ちょっとせつなくて静かな気持ちになります。

97/6/5


楡井亜木子『森の匂い』集英社 1994

収録作品
「森の匂い」「訪問者」「牙の恋人」

「森の匂い」、一度決めたことを守る人って、自分で弱いことを知ってるから守るのかな。強いってきっとあまり言われたくないんだろう。「訪問者」、少し話をしたくらいで何を考えてているか当ててしまう人は、鬱陶しいようでいて、ときどきそばにいて欲しい人の気がする。「牙の恋人」、はじまりの理由、途中、未来が見えない不透明恋愛。中途半端に気をもたせる終わり方が気に入った。

97/6/5


森雅裕『推理小説常習犯』KKベストセラーズ 1996

業界裏話、暴露話? たいへんなんだなぁ、の一言で済んでしまってはかわいそうなんだけど、他の作家も同じ苦労をしているだろうに、彼だけが馴染めなかったのかなあ。巻末のリストを見ると、いかに絶版状態にされているのが多いかわかります。これから先も、どうなるんだろう?

ちなみに、「ミステリー作家風俗事典」のとこの、「ほ」のとこに載っていた神保町のカレー屋さん「ボンディ」は良く行きます。チーズカレーがおいしいです。むかーし、逢坂剛も雑誌でここが贔屓だと書いてた覚えがあります。

97/6/10


楡井亜木子『夜が闇のうちに』集英社 1996

どうやら『チューリップの誕生日』の続編だったようだけど、これはこれで話はわかります。多分『チューリップの誕生日』で好きな人と別れたその後の話だろうな、くらいは。40近い男の人と16、17の高校生(かつ、ロックバンドのベースを臨時にやっている) との恋愛。楡井さんの描く女の子って、若いけどすごく大人びている。久しぶりに、青春恋愛小説を読んだな、という印象。でも、別にさわやかというわけではない。けどもちろん、嫌いじゃない。

97/6/18


ダグラス・クープランド『ライフ・アフター・ゴッド』角川書店 1996
Douglas Coupland, LIFE AGTER GOD, 1994

ある日、電車の中で男の子がきれいな青の本を読んでいました。背表紙を見ると『シャンプー・プラネット』、おお、題名もおしゃれじゃないですか。早速図書館でみつけ借りてきたはいいけれど、気分が乗らず、挫折。少しして友人に、以上のことを伝えたら「ついこの間読んだ」という。へぇーと偶然の一致に驚いていたんだけど、彼曰く「『ライフ・アフター・ゴッド』が面白いよ」というので再び図書館で借りてきた。こぶりでキュートな装丁の本で、中もページページに挿し絵が多くて、確かにこれは読み易い。でも、内容の説明が難しい。日記よりはもう少し離れてて、いくらか客観的で、空気みたいで、色がない。定まらない。訳者のあとがきに、こう書いてあった。そう、そんな感じです。

地の底から沸き上がってくる泡のように平板で、瞑想的な感じさえする語り口からは、離婚した<ボク>と、その友人/家族たちの とてもパーソナルな、教会の懺悔室から聞こえてきそうな呟きのようだ。

97/6/18


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1997010319970709