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1998年4月の感想

199803199805


運命の八分休符(連城三紀彦)
葦と百合(奥泉光)
謎>葦と百合(奥泉光)***!ネタバレ含!***
肉体の学校(三島由紀夫)
石の来歴(奥泉光)
殺しへの招待(天藤真)
死の内幕(天藤真)
愛の疾走(三島由紀夫)
三島由紀夫レター教室(三島由紀夫)

連城三紀彦『運命の八分休符』文藝春秋 1983

*内容紹介
美女と関わったと思ったら、5つの難事件にも遭遇してしまった軍平くん。見かけは悪いがやたらともてる彼、しかしなぜだか振られてばっかり。連作集。

*感想
トリックが凝っていて、これを解決してしまう軍平くんは、「頭よすぎ」。個人的には、「運命の八分休符」が一番好きです。

内容自体は、カラッと明るいだけじゃないのですが、軍平くんのキャラクターやら適度なユーモアで楽しく読みました。

どちらかというと、軍平くんの恋模様を楽しみに読んでいました。軍平くんは、物語中めちゃくちゃモテてますが、多分そこらにいたら「いい人なんだけど」で終わるタイプ。その良さをわかる女の人というのは、「いい女」なのだと思いましたね。

蛇足ですが、自分のかっこよさを自覚して「いない」、かっこいい男性というのは、魅力的だと思います。なかなかいないと思いますが。

98/4/7


奥泉光『葦と百合』集英社 1991

*内容紹介(裏表紙より)
ブナの原生林奥深く、物語の発生する気配がある。ひとつの謎の種子が虚構の大地に舞い降りる。近代小説のあらゆる夢をはらんだそその種子は発芽し、やがて錯綜し繁茂する浪漫の森林となる。水底に沈む谷間の村。消えたコミューン。伝説のキリシタン集落。失踪した青春の恋人。毒茸の幻覚作用。予期せぬ殺人事件。謎を追うものは、物語の放つ霊気を膚に感じ、遠い音楽を耳に聴きながら、いつしか深い森に迷い込む。リアルな認識と知性の証である葦の森。遥かな憧憬の象徴である百合の森。その中心の場所、最も緑の闇の濃い処、夢の密かに生まれる場所に彼が到達するとき、永遠に女性なるものが光のなかに姿を顕にし、すべての虚構の秘密が解き明かされるだろう。

*感想
静かに興奮してます。読み終えて上の裏表紙を読むと、感じるものがありますねえ。

ああもう、どこから書けばいいものやら・・・・・・。<百合の章>までで終わるんだったら、わりあい普通だったと思うんですよ。大した混乱もなく、楽しんだなーという印象で読み終えるんじゃないかと思います。といっても、<百合の章>の中でさえ、誰が語り手なのか、非常に混乱してしまったのは確か。回想と幻惑めいた記述が続いて、眩暈がしそうになります。かつて回想したシーンが別の形でリフレインされていたり、とにかく、謎の渦に巻き込まれていく感じ。

ところが、"Finale"でまだまだ甘いということを思い知らされるわけです。で、ダメ押しの"Fragment T-X"。そういえば、作者はICUの出身のようで、"Fragment V"とほぼ同じものを友人からもらったことがあります。

「存在するものが視えるんじゃなくて、視えるものが存在する」のならば、客観的なものは存在しない。あるのは、各々が見ている世界。その世界は、各々が自分なりに切りとって構成しているもの・・・ になるわけですが。

同じ世界に存在しているのに、AはAの切りとり方で世界を見、BはBのそれで見ていて、それでも、各々とって、それは「本当のもの」。だからこそ今回のような物語が成立したとも言えるんでしょうね。

ともかく、"Finale"と"Fragment"の存在によって、『葦と百合』の物語全体が虚構ないまぜになってしまう作りは見事としか言いようがないです。「メタメタ」にされちゃうよ。

98/4/7


謎>葦と百合

***以下、ネタバレ注意***

*注意*
ページ数は、ハードカバーの、です。

"Finale"で、直也の死体が発見されて、3年前に家族から捜索願いが出ていたらしいという記述(p.408) があります。それでは、<百合の章>まで、登場していた「直也」は誰なのでしょう? <百合の章>までの「直也」と「時宗」を入れ換えると、つじつまが合うような気もしないではないのですが・・・。

というのも、"Fragment W" によれば、少なくとも3年前から時宗は翔子と別れていたはずだし、ネパールにも行っていたようですし(p.418)。

それとも、あくまでも、<百合の章>までを「物語」の区切りと考え、"Finale"以降を「現実」を見なし、切り離して考えるべきなのかなあ? 式根も結局、鬼音には行っていないようですし("Fragment X")。

<ブナの章><石の章><葦の章><茸の章><地下の章><百合の章>をくるんでいるのが、"Pra"ludium"、"IntermezzoT/U"、"Finale"という「現実」であって、ところが、それら全てをくるむ「現実」が再び "Fragment" で提示されてるってことなんでしょうか? そういう三重構造として見ていいのかしらん・・・。

などと遊びつつ。

私は、"Fragment"を「現実」ととらえましたが、それさえも、『葦と百合』という「虚構」の中での、カッコ付きの「現実」なんですよね。

答えは出ないと知りつつ」あれこれ遊ぶのは好きなんですが、読み終えて出てくるいくつもの疑問に、「答えを出そうとするのは」、ヤボなことになるんでしょうね。

こういう浮遊感、宙ぶらりん感が、私はすごく好きです。でも、「答えがないこともある」のを嫌いな人は、それが嫌なのかもなあ、と思ったりもします。

そういえば、友人に読んでもらったら、「始まりが4月1日じゃん」と言われました。なるほどねぇ。

98/4-5


三島由紀夫『肉体の学校』ちくま文庫 1992(1964)

*内容紹介/感想
年下男に翻弄される女(離婚歴あり)の話、ただそれだけじゃあない。女の前に「カッコイイ」という形容詞がつきます。なぜかって。自分の「惚れた弱み」をひしひし感じながらも、男のずるさを知った時に、あんな行動取れるなんて! 小気味良すぎるよ〜、あっぱれ。で、すらすら読めるんだけど気持ちの揺れが非常に細かく描かれてもいて、感心しました。

98/4/18


奥泉光『石の来歴』文藝春秋 1994

収録作品
「石の来歴」「三つ目の鯰」

*感想
「石の来歴」、これの感想を述べよ、と言われたら、相当難しい設問になりそう。ありきたりな言葉じゃ、表せないもの。始まりから随分話が広がるな、と感じていたけれど、それがどんどん暗さを増して、実は広がっていたんじゃなくて、深くなってたんだと気付きます。実際、高校時代、岩石のプレパラート作って、顕微鏡で覗いて、スケッチして、岩石名を当てる、という授業を受けたことがあるんですが、読み終わって、その時の結晶のモノクロスケッチが頭の中に浮かんできてます。心の中になにかかたまりを置いていかれたような読後感ですが、こういうの結構好きです。「三つ目の鯰」、そうですね、提起されている話は、考えさせるものでしたが、不思議とカラッと明るいものを感じました。彼らが難しい問題を抱えながら、ちゃんと考えつつ前向きに生きるような終わり方にほっとしたというか。

自分一人の気持ちはこうだけど、全体のシステムで考えたらいけないんだろうか、という立場は、形はどうであれ、みんな持っているものなのかもしれないですね。意識せずにいられたら随分楽なんでしょうけど、いったん気付いてしまったら、考えることは始まってしまうんでしょう。

98/4/18


天藤真『殺しへの招待』創元推理文庫 1997(1973)

*内容紹介(裏表紙より)
わたしは夫であるあなたを殺します。女であれば誰しもが夫に抱く憎悪が、殺意にまでふくれあがったからです・・・・・・。五人の男に届いた妻からの殺人予告状。本命の標的はその内の一人なのだが、それが自分ではないと言い切れない夫たちは戦々恐々、疑心暗鬼に陥りながらも対策に頭をひねる。追いつめられた男たちの前で事件は意外な展開を見せるのだが・・・・・・。

*感想
天藤真の「暖かい」「ユーモアのある」というイメージに、「ちょっとまった」をかけるこの作品。加えて、ちょこちょこと、愉快なおまけを拾いながら物語が進む感じです。

先入観なしに、素直な気持ちで読んで欲しい一冊。だって、余計なことを言うと、スレッカラシさんたちは、裏を読んでしまうでしょー。 素直な人のほうがより楽しめる、と思うので、あえて何も言わないと決めました。とにかく、私は好きですね〜、こういうの。とだけ言っておきます。どこが、とも言わない。

98/4/30


天藤真『死の内幕』創元推理文庫 1995(1963)

*内容紹介(裏表紙より)
「困っちゃった、わたし、人を殺したの」結婚するから別れて欲しい、と言われ、かっとなって相手を突き飛ばしたところ、打どころが悪くて死んでしまった、という友人の告白を聞き、内縁関係にある女性で結成したグループの面々が架空の犯人をでっち上げたまでは良かったが、いないはずの人物に瓜二つの人間が実在したから話は混沌として・・・・・・。

*感想
あらすじを読んで、「おお、ユーモアじゃーん」と読んでいって「やっぱりそうだ」と納得したまま行くと、どかんとくるよん。そっか。天藤真って、こういうのが得意なのかな、とちょっと思う。2冊読んで、妙に後を引くなー、と感じました。

98/4/30


三島由紀夫『愛の疾走』ちくま文庫 1994(19??)

男女に恋愛をさせて、自分の小説のモデルにしようとする男。ところが彼の妻が二人にそれをバラし、二人は「その手に乗るか」と頑張るんだけど・・・・・・。ちょっと『永すぎた春』みたいな感じ。まあまあ面白かった。

98/4/30


三島由紀夫『三島由紀夫レター教室』ちくま文庫 1991(19??)

「職業も年齢も異なる5人の登場人物が繰りひろげるさまざまな出来事をすべて手紙形式で表現した異色小説。恋したりフラレたり、金を借りたり断られたり、あざけり合ったり、憎み合ったりと、もつれた糸がこんがらがって・・・・・・。」(裏表紙より) もー、ゲラゲラ大笑いしながら読みました。サイコー。丸トラ一の借金申し込みの憎めない(?) おバカ加減とか、ケーキへの執着とか、もう、思い出すだけで、ぷぷっ。それから、「英文の手紙を書くコツ」の章が、印象的。それぞれ一話完結かと思ってたら全部がつながっているとわかり、驚きました。とにかく読んで損なし。

98/4/30


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