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1999年3月の感想

ちょこっとした感想を「日記のフリ」のほうに書くこともあるので、そちらもどうぞ

199902199904


完全なる離婚(天藤真) (3/6)
殺人ライブへようこそ(竹本健治) (3/6)
氷の家(M・ウォルターズ) (3/6)
ベン・イェフダ家に生まれて(D・オメル) (3/10)
陽気な容疑者たち(天藤真) (3/13)
皆殺しパーティ(天藤真) (3/18)
悪い種子が芽ばえる時(B・M・ギル) (3/23)
遠くに目ありて(天藤真) (3/23)

天藤真『完全なる離婚』角川文庫 1984

*内容紹介(表紙折り返しより)
夫婦ならば、誰でもが必ず突き当たるトラブルのあれこれをテーマにした、恐ろしくも楽しいミステリー・アラカルト。収録作品。「鷹と鳶」「夫婦悪日」「密告者」「重ねて四つ」「完全なる離婚」「崖下の家」「私が殺した私」「背面の悪魔」「三枚の千円札」「純情な蠍」。

*感想
時代がかった雰囲気を感じてしまうものの、ひねりの効いた内容に素直に楽しめてしまう作品群。先が読めてしまうものもあっても、ほんとにそのとおりに話が進むのが、快感な時もある。天藤真を読むにつれ、「ユーモア・ミステリ」などと一言で片してはだめだなと思う。決して「ほのぼの」とは言えないものが多い。どう考えてもブラックだよ。

1999/3/6


竹本健治『殺人ライブへようこそ』徳間文庫 1996(1991)

*内容紹介(裏表紙より)
高校二年の武藤類子は、剣道部に所属する、可愛い現代っ子だ。三年ぶりに偶然出会った先輩の高杉に連れられ、彼がマネージャーを「しているというバンド”パルス・ギャップ”のメンバーや、スタジオ・ミュージシャンの速水果月に紹介された。数日後、すっかり親しくなった彼らが、一人暮らしを始める類子のため、引っ越しを手伝いにやって来ると、まだ誰にも番号を教えてないはずの電話のベルが鳴り始めた!

*感想
ああ、もうすごく読みやすい。終わり方も、「らしくなく」、初めて竹本健治を読む人にも安心、だなあ。良くも悪くも、全てにおいて素直な作品。気を抜きたい時にどうぞ。名も知らぬ電話の相手に、知らずに惹かれてしまう類子の気持ちは、妙に印象に残る。けれど、それにも特に深入りはなし。竹本健治には、前にもそういうことを書いていた作品があったと思う・・・。

1999/3/6


ミネット・ウォルターズ 成川裕子訳『氷の家』東京創元社 1994
Minette Walters,THE ICE HOUSE,1992

*内容紹介
メイベリー家の氷室で見つかった男の死体は、10年前に行方不明になっていた、その家の主人なのか。

*感想
3人のつかみどころのない女たちが印象に残る。ああ、いったい誰を信じたらいいんだろう、誰の視点で読んだら楽だろう、とふらふらしつつ、マクロクリンだとは思わなかったんだよなー。でも、彼についてゆくことで、少し安心感が出た。後は真相はどうでもいいや、ただ、わかればいい、今回は・・・という気分だった、不思議と。

一応の結論がついたところで、なんかアッサリした事件だったな、で終わりそうだったのに。・・・やっぱりそう来たか。それで伏線の理由が解けた。うむ、○○をいやらしい役割に当てたのは、新鮮だった。でも。なんかもの足りないの、やっぱり。とても良くできている、とわかる。わかるんだけど、予想の中で優等生的に整っちゃってる感じが、なんだかつまらなくって。自分でも不思議なんだけれど。それとも、求めすぎなんだろうか?

だけど、「訳者あとがき」の最初の2行を読んで、にやっとしてしまった。ネタバレにはならないから言うけど、ポオかあ。うんうん。

1999/3/6


デボラ・オメル 母袋夏生訳『ベン・イェフダ家に生まれて』福武文庫 1991
Devora Omer,REBIRTH, 1985

*内容紹介(裏表紙より)
ユダヤ民族離散の過程で死語と化していたヘブライ語を日常語として再生させ、故国再興への道を開いたエリエゼル・ベン・イェフダとその家族の苦闘を長男ベン・ツィオンの目から描いた異色のセミドキュメント。

*感想
『「大漢和辞典』を読む』を読んだときにも、その壮絶さに驚いたものだった。でも、こちらを読んだ後だと、あちらは「舌を巻く」という程度かもしれない、と思う。壮絶以外になんて言ったらいいのだろう。生まれてからずっと、ヘブライ語以外を聞かせないと決めた父。友達とも遊ばせない。子供は言うなれば”実験台”。妻が病気になって、自分の母親がやってきても、ヘブライ語以外では会話しません、と言い切る人。でも、それくらいの意志と覚悟がなければ、為し得なかったろうし、名前の残る人にはならなかったんだろう。妻たちが不幸だ、かわいそうだとも、こちら側からは安易に言えないことでもあるし、本人たちにしかわからないことなんだし。

1999/3/10


天藤真『陽気な容疑者たち』創元推理文庫 1995(1963)

*内容紹介(裏表紙より)
山奥に武家屋敷さながらの旧家を構える会社社長が、まさに蟻の這い出る隙もないような鉄壁の密室の中で急死した。その被害者を取り巻く実に多彩な人間たち。事件の渦中に巻き込まれた計理事務所所員の主人公は、果たして無事、真相に辿り着くことができるだろうか?

*感想
ネタバレにして、思いっきりしゃべってしまいたい、そんな衝動にかられてしまう。

結末の付け方もさることながら、文章がうまいんだろう。終盤、「これは下手したら泣いてしまうのではないか」と思いながら読んでいた。お医者さんとの対話の中で、端々に入っている風景の描写。お医者さんとの対話での、最後の言葉。死体への”約束”。繰り返すけれど、文章がうまい。どきどき、じーん、となるのは、必至。

心の中にあるものは、その人が口にしない限り、表に出てこない。心は強固なハコになる。でも、重いことであればあるほど、誰かに話してしまいたいとも思うだろう。だから彼はああいう性格設定だったんだね。彼にひとつの救いが与えられて良かった。つかの間であり、永遠である救いにもなるだろう。彼の中では。傍観者である私も、この物語を知って良かった。

「これはどうしても好きだ」という、譲れない物語は存在すると思う。この物語は、その中のひとつに入った。この物語を読んで、何も感じなかった人とは、多分話が進まないだろう。・・・と、たまには言い切ってしまおう。

1999/3/13


天藤真『皆殺しパーティ』創元推理文庫 1997(1972)

*内容紹介(裏表紙より)
地方都市を牛耳る事業王吉川太平に殺人予告が届く。その陰謀を偶然耳にした青年は容疑者を追うが、逆に襲われ殺されてしまう。彼のガールフレンド三村早苗は、太平の押しかけ秘書となって真犯人追及に乗り出すが・・・・・・。非情ともいえる独裁者吉川の家庭内の人間関係は複雑に絡み合い、殺人予告が引き金となったかのように惨劇が相次ぐ。二転三転する犯人像、はたしてその真相は?

*感想
感想そのままを書くと、まったくのネタバレになってしまうので、困っている。

これまでの彼の作品イメージというのは、多数のAの中に少しのB、それもBがBとは言えない場合もあったりする。ところが、この作品は、表面的にはBが多くの中にAが少し。しかし、そのAもBに近いのではないか、と。

でも、いやな読後感がないのは、どうしてなんだろう。私も”彼”と同じ心境になっちゃったんだろうか。

1999/3/18


B・M・ギル 吉野美耶子訳『悪い種子が芽ばえる時』扶桑社ミステリー 1990(1987)
B.M.Gill, NURSERY CRIMES, 1986

*内容紹介(裏表紙より)
ザニーは六歳の時、四歳のウィリーを池に沈めた。大好きなお人形を取り上げられたから。つづいてパン屋のおじさんを焼きころした。おじさんがよそ者の子に親切にしたから。事情をうすうす知った両親はザニーを修道院に入れたが、美しい娘に成長したザニーは欲しい物を、めざす男性を手にいれるべく、またしても事件を引き起こす。だが、彼女は思っている--悪いことをしても神様に三度お祈りをすればきっと許してもらえるわ、と。

*感想
容赦ない子供の犯罪というのは、妙に吐き気をもよおすもので、じゃ何で読むかって聞かれると、ほんと、なんでなんだろう? ミステリの「動機」を知るのが結構好きなんだけど、「欲しかったから」「憎かったから」というあっけらかんとした理由が、子供が行ったことならまだ不気味さとして”通用する”からかもしれない。

自分の好きな相手が、無実の罪にはまりそうになっている。それも、本当は自分が犯した罪で。平気で殺人を犯すくせに、やっぱり好きな相手に死なれるのはイヤなようで、あの手この手で自分が罪を犯したことをぶちまけるんだけど、裏目裏目に出てしまう。やはり、美はひとつの才能なのかも。

しかし、女性の書いたものというのがよくわかる雰囲気。妙にじめっとしてる感じがまた不気味。無実の罪にはまってる彼は、彼女のことは顔を知ってるくらいだってのに、彼女は空想をどんどん膨らませて自分の罪をさらけ出してしまうというのは、いや、小さくても女だね。

1999/3/23


天藤真『遠きに目ありて』創元推理文庫 1992(1976,1981)

*内容紹介(裏表紙より)
成城署の真名部警部は、偶然知り合った脳性マヒの少年の並外れた知性に瞠目するようになる。教えたばかりのオセロ・ゲームはたちまち連戦連敗の有様だ。そして、たまたま抱えている難事件の話をしたところ、岩井信一少年は車椅子に座ったまま、たちどころに真相を言い当てる・・・・・・。

*感想
とくに「天藤真」というのを感じられない短編集だった。ことさら軽妙でもなく、特にホロリとさせるわけでもない。普通の作品群に思った。ただ、最初の「多すぎる証人」は、ピンときてしまったので、先回りする気持ちで読んでいたけれど、物語の行き先がわかっていても、ホロリとする題材には必ずホロリとさせられてしまう。「こういうので泣かせようっていうんだよねー」と構えているのに、本当に「ああ、泣かされてしまった」という感じ。空気を入れた風船に、ふいに針をさされたような。

1999/3/23


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