back to top page/back to ホンの感想
ちょこっとした感想を「日記のフリ」のほうに書くこともあるので、そちらもどうぞ
*内容紹介
ドイツ。ハンス・ライニヒというオルガン奏者の演奏にうたれた音楽誌の記者により、テオは、その存在を知る。その演奏の録音をきいた彼は、行方不明のままになっている友人、ヨーゼフなのではないかという思いを強くする。彼にとってはこの上もなく素晴らしい演奏に思えたが、ヨーゼフのもと師であるランベルガー教授は、評価を保留にしたまま不可思議なつぶやきをもらす。
*感想
楽器は、みずから音を出せない。外からのアクションがあって、はじめて鳴る。それは猫がたたいてもいいのだし、人間がなでてもいい。ただ、そこに「感情があるのか」、それによって鳴り方が違ってくるんじゃないかと思う。鳴らす側の感情、気持ち。「楽器+人間」と言うより、「楽器+感情」と言うべきなのかも。重要なのは、人間が奏でるということではなく、感情が奏でるということじゃないのかな。
だから、私は教授の考えには納得できないんだ。
そして、また思うのは、きく側に受け皿があるかどうかも大切じゃないかということ。人が、ある音楽をかなしいと感じるのは、その人が、自分の心の中に「かなしい」と感じる部分を持っているからだ。たとえばせつないと感じるのは、その人がせつない部分を持っているからだ。知らない感情を、感じることはできないのだから。
「かなしい」とか「せつない」とか、相手の持ってない感情に働きかけることは、どうしようもなく難しいことなんだろう。
ヨーゼフの願いは最終的にはかなった。でも、周りにとってみれば、なんてつらい方法で。
あと少しで終わりってところから、オルガン曲ききながら読んだら、最高だった。ちょっとゾクっとするほど。荘厳な(魂の)物語。
1999/2/1
*内容紹介(裏表紙より)
四つの高校が居並ぶ、東北のある町で奇妙な噂が広がった。「地歴研」のメンバーは、その出所を追跡調査する。やがて噂どおり、一人の女生徒が姿を消した。町なかでは金平糖のおまじないが流行り、生徒たちは新たな噂に身を震わせていた・・・・・・。何かが起きていた。退屈な日常、管理された学校、眠った町。全てを裁こうとする超越的な力が、いま最後の噂を発信した!
*感想
いろんなエピソードがある分(すべてはつながっているにせよ)、少しまとまりがないかな、という気もした。
毎日の平和は、当たり前なことじゃない。眠って、次にちゃんと目が覚める保証、どこにもないのだし、朝、家を出て、夜、無事に家に帰ってこられることも、そう。確かに、非日常に惹かれるのは日常すぎる時なんだろうな。でも、日常が守れなければ、いつでもスルッと非日常にいってしまう。はっきりした境目なんて、やっぱりどこにもない。
1999/2/6
*内容紹介(”新潮社新刊案内”より)
村は死によって包囲されている--人口千三百余、樅を育て卒塔婆を作ってきた村を襲った災厄。疫病なのか、それとも・・・・・・。
*感想
一気に読んでしまったと言いたいところだけど、中断してしまった人の気持ちが良くわかりました。私にとっては、とにかく息苦しくなる物語。
自分でまだ気持ちの整理がついてなくて、うまく感想まとめられません。文のつながりも何もありゃしない感じですが、もうこのままにしときます。
最初は、なんとなくは自覚してるくせに認めたくない村人のふるまいや、なかなか立ち上がらない静信にやきもきしてた。人がどんどん死んでしまうのを見て(守れた場合もあったのに!)、たまらず本を置いてしまったり。
でも、いざ屍鬼退治となったときに、「屍鬼を永眠させることに嫌悪感を抱かない人たち」を見ているのがまた、息苦しくってね。いなくならなくちゃ困るんだってわかっているけれど、きっとそこにほんの少しでも「ためらい」が欲しかっただろうな、私は。甘いかもしれないけど。
登場人物たちの丁寧な書き込みのせいで、いろいろな思いを感じていたからだし、屍鬼側でもいろんなタイプがいたわけで。「人間は」とか「屍鬼は」というふうに、どうしたってくくれない。
残酷なのは、(屍鬼が)甦った後の世界が、死ぬ前の世界と同じであること。価値観(倫理観)は一緒なのに、生きるためのシステムが異なっている。人間には脅威だし、屍鬼には死活問題。
屍鬼が人を襲うことが罪かどうかは、良くわからない。主体が罪だと思ったら、罪なんだろう。罪と自覚してそれを実行すること。罪と無自覚で実行すること。罪と自覚してるから実行しない。でも、実行してしまったならば、目に見える結果は一緒なんだ。実行するまでの気持ちはそこにはあらわれない。目に見えないのだから。
そして、罪を感じる屍鬼は存在した。だからこそ、屍鬼は、この世界の中での循環するシステムには入ってないのだ、そう感じる。
だって! 「”自分が生きること・生きていることが罪である”と自覚しながら生きること」、それが世界のシステムにあってはいけない気がしたから。残酷すぎないか?
相手の犠牲の上に自分が生きられることに疑問を持ち、そして、それを苦痛に思う。「自分が生きるためには”しょうがないんだ”」と、どうして自分に言い聞かせなければならない?
99/2/15
リチャード・ニーリィ 佐和誠訳『心ひき裂かれて』角川文庫
1998(1980)
Richard Neely,A Madness of the Heart,1976
*内容紹介(裏表紙より)
精神病院を退院したばかりの妻がレイプされた。夫のハリーは犯人逮捕に執念を燃やすショー警部補に協力する。そんなハリーを嘲笑し、陥れようとするかのように、その身辺で続発するレイプ事件。心病める者の犯行か・・・・・・。だが、ハリーも、かつての恋人との間に決して妻には知られてはならない秘密をつくろうとしていた--。
*感想
盛り上がりに欠けるなーと思いながら読んでた。微妙な違和感を感じながら、いつかこの違和感がぶっとぶ真相になるんだろう、と信じて。
確かにぶっとぶ真相。客観的にみれば。でも、似たような話を読んだことがあるせいか、全然ショックがなかった。ニーリィの最高傑作だと言われているのに、楽しめなかった自分が残念。
99/2/20
*内容紹介(裏表紙折り返しより)
”智久は、「僕はどこにでもいるんだよ」と、謎めいた台詞を口にした---"
インド古代遺跡での火災事故、六本木路上での殺人、巣鴨での質屋の女主人の失踪。まったく関連性が見えず、次々におこる事件に、若き天才囲碁棋士・牧場智久の影がちらつく。智久本人は大事な大局を控え、ほかのことを考える余裕はないはずなのに・・・・・・。智久の姉・典子をも巻き込んだ、面妖な事件の真相は何処に?
*感想
実は竹本健治に対しては期待しないで読んでいるのです。毎回読むjたびに、『匣の中の失楽』以上のものは望めないのだと確認作業するようなもので。
シリーズものの体裁は取っているけれど、これだけ読んでも多分大丈夫。そして、続けて読んでも意味はない。
竹本健治のいいたいこと、やりたいことは、多分こういうことなんだろう、とわかる。でも、なんだか表面をなでたようだねえ。ほぼ終わりというときに、そういう安易な(でも驚く)ことを出してしまっていいの? って思うのに、それがいつもの終わり方なので、怒ることもできない。宙ぶらりんは好き。でも、"中途半端な”宙ぶらりんは楽しくないな。
99/2/22
*内容紹介(”文春新書 12月の新刊"より)
いつか彼女のことを書きたかった---36歳で病により文壇を離れ、恋人を残し、故郷に帰ることを余儀なくされた作家・尾崎翠への想い
*感想
尾崎翠『第七官界彷徨』(創樹社)を買って読んだのは、今から11年も前のクリスマス間近のことでした。今てもとに持ってきて、眺めていますが、付箋が付いていたりして懐かしいです。巻末には、「尾崎翠の人と時間」という稲垣真実氏による解説があるのだけど、その解説をより詳しくしたものが、今回のこの『尾崎翠』でしょう。
読みながら思ったのは。「尾崎翠を知っている人なんているんだろうか」「でも、ちくまの文学全集からでも1冊出たのだし」「だけど、興味がないと、この紹介本だって読まれるかどうか」「群ようこの書いたものなら少しは期待できるか」「でも、結局、”そのもの”読まないと良さはわかんないよなー」「・・・ああ、やっぱり定本買わないと」
書いたものに対しては、結構控えめに紹介しているように思えます。それが逆にそそるのではないかな。少しでも興味持ったら実際に尾崎翠の書いたものを読んでみてください。
「失恋してゐる女の子とは、片つぽだけ残つた手袋のやうなものです。」
こんなんだけ取り出しても、きっと伝わらないものね。
99/2/23
*内容紹介(表紙折り返しより)
僕は高2で海方実有という。僕には親友と呼べる4人の仲間がいた。夏休み前のある日、下駄箱に僕宛ての恋文を見つけた。差出人は潮見悟史という見知らぬ1年男子。返事をどうしようかと悩んでいるうちに、そいつは死んじまった。僕の名前と空想に満ちた謎の日記を残して・・・。おかげで僕はひどい迷惑と中傷を被り、この事件をきっかけに僕ら5人の友情の歯車も狂い始めてしまったのだ。だけどあの時の僕に一体何ができただろう。16歳の夏が容赦なく過ぎていく。
*感想
映画「Big」で、彼女は「戻りたいとは思わないのよ」というようなことを言った。その時は、私はそれが理解できなかった。やり直せるなんて、なんてステキなこと、それしか思わなかった。今は違う。とにかく過去には戻りたくない。戻るということをしたくない。過去、後悔してないのかと聞かれれば、ないわけない。でも、今の自分が好きだから、肯定したいから、戻りたくないな。
真っ只中にいる時には、気持ちもいつかは消えてなくなるんだろう、と思う。でも、やっぱりそれは消えることがなくて、それが過去になったときに、その温度を思い出せるような気がする。感覚は、思い出によっても再現する。
全体的には、ちょっと硬い感じもする。でも、ふとそこに置かれた一行が妙にしみる、イタイ物語でした。 Regret"s"なのです。
99/2/25